今月のベストセラー10に上がっていたので、読んでみた。8月に発刊された新潮新書である。これがおもしろい。だから読むというより、今様の生活に欠かせぬリテラシーともいえる。むしろワクチン、プロテクターの類といっても言い過ぎではなかろう。小さな親切、一読をお勧めしたい。大きなお世話ではあろうが。
テレビの大罪
著者については、同書の紹介をそのまま写す。
―― 和田秀樹 1960(昭和35)年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒、精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師。『大人のための勉強法』『人生の軌道修正』ほか著書多数、映画監督作品に『受験のシンデレラ』 ――
テレビを糾弾する書籍はかなりある。このブログで紹介したこともある。今度は、医者が書いているところがミソだ。以下、帯のキャッチコピー。
〓〓あなたはテレビに殺される。運よく命まで奪われなくとも、見れば見るほど心身の健康と知性が損なわれること間違いなし。「『命を大切に』報道が医療を潰す」「元ヤンキーに教育を語らせる愚」「自殺報道が自殺をつくる」。精神科医として、教育関係者として、父親としての視点から、テレビが与える甚大な損害について縦横に考察。蔓延する「テレビ的思考」を精神分析してみれば、すべての元凶が見えてきた!〓〓
帯だから多少過激かと勘ぐってみたが、中身はその通りだった。目次は、
1 「ウェスト58㎝幻想」の大罪
2 「正義」とは被害者と一緒に騒ぐことではない
3 「命を大切に」報道が医療を潰す
4 元ヤンキーに教育を語らせる愚
5 画面の中に「地方」は存在しない
6 自殺報道が自殺をつくる
7 高齢者は日本に存在しないという姿勢
8 テレビを精神分析する
と並ぶ。当然医学的見地からの考察がつづくのだが、時には生ものがまな板に上がる。
〓〓菅直人現首相は、厚生相時代に薬害エイズの被害者にはじめて行政として謝罪したことが、その後の人気の源泉となっています。もちろん医療被害の問題を解決することは悪いことではありません。しかし、世間に対してアピールすることが優先されるあまり、地道な医療改革は進みませんでした。その年に起こったO157騒動の際も、報道陣の前でカイワレを食べて見せるよりほかにやることがあったはずです。政治家というのは(特に首相ならなおのことですが)、本来であればマクロの視点に立って全体を見わたす仕事です。水戸黄門のようにミクロの問題を解決してまわる人が政治家のマジョリティになってしまえば、本質的な問題がまったく解決しないという危険が生じます。〓〓
と、胸のすく鉄槌を振るう。一転、はたと気づき、ニンマリさせるところもある。
〓〓最近ではさすがに少なくなったと思いますが、つい10年ほど前まで認知症の高齢者には童謡を歌わせていました。ところが実際は、いくらボケてもそうそう「子どもレベル」になるものではありません。認知症で多少、知的レベルが落ちたといっても、高齢者が童謡を歌わされて喜ぶことはないのです。彼らが喜ぶのは、やはり彼らが若い頃にはやっていた歌です。だから、いまの80代だったら軍歌でも「リンゴの唄」でもいいでしょうが、それがだんだん橋幸夫になり、美空ひばりになって、じきにデイサービスでビートルズが歌われるようになるでしょう。〓〓 デイサービスから聞こえてくる“ALL YOU NEED IS LOVE”の合唱。“今日までそして明日から”の渋い歌声。いいではないか。そんなデイサービスなら、今からでも行ってみたい。もちろん、慰問だが。
〓〓1957年に大宅壮一がテレビを評して使った「一億総白痴化」という言葉は、流行語にもなりました。テレビの黎明期には、テレビなんか見ているとバカになる、という文化人がたくさんいたものですが、ここ20年くらいで事態は一変。いまでは、テレビに出ている人を指して「文化人」と言うようにまでなっています。〓〓
この一節は千鈞の重みをもつ。「すべての元凶」が剔抉される。
まことに僭越ではあるが、括りに拙文を引きたい。
〓〓タモリ、時として警句を発する。20数年前、徹夜で飲んでいたといって、「笑っていいとも」に出てきた。ほとんどヘベレケ状態、呂律も回らない。案の定、抗議が殺到した。そして明くる日、開口一番、史上最高の『警句』が発せられたのだ。
―― 『お前ら、白面でテレビなんか見るな!!』〓〓(06年5月、本ブログ「白面はいけません!」より)
それにしても森田一義氏、なんとも歴史的名言ではある。 □