伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

一寸の虫 4

2020年02月18日 | エッセー

「100万人といえどもわが中国においてはごく少数である」

 1989年6月天安門に押し寄せる100万を超える大群衆に対し、こう鄧小平は言い放った。きのう現在、新型コロナによる中国国内での感染者7万人超、死者1700人超という報道に、にわかに先の言が蘇った。

 こういう数字が公表されること自体、大きな様変わりだ。鄧の時代の肩肘張った頑迷さから、中国は確実に遠ざかりつつある。内外に気を使い始めているのだ。鉄壁の一強である習近平体制でさえそうだ。変化はグローバリズムゆえともいえるが、裏返してみれば別のありようが見えてくる。

 中国の巨大なプレゼンスだ。中国一国の動向が世界の隅々にまで及び、ヒト・モノ・カネすべてにわたって地球規模で揺さぶられる。今、世界はそういうフェーズに入ったと観るべきであろう。好むと好まざるとに関わらずだ。新型コロナはその表徴的事例だ。

 これは中国の大国化ではない。中国は有史以来元々大国である。大国に戻りつつあるのだ。大国への復帰という史的文脈で捉えねば、ことを見誤る。「辺境国家」日本は、それを重々に弁えねばならない。夜郎自大になって汚点を残した近世史に照らしても。 □