伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

イナカ川柳

2016年05月23日 | エッセー

 定番の「サラリーマン川柳」は勿論、変わり種では「痔川柳」(10年7月「慎んで憫笑を捧ぐ」)、「破礼句」(12年2月「634のはなし」)も話題にしてきた。自虐や、権威を洒落のめすところが川柳の妙味である。それに打って付けの新種が出現した。
 『イナカ川柳』である。副題が「農作業 しなくてよいは ウソだった」で、これもまた川柳である。創刊30年のテレビ情報誌『TV Bros.』が募集、編集し先月文藝春秋社から発刊された。
 “リアルな田舎”を題材にしたという。「バイパスが荒野をぶち抜き、自己主張の強い量販店の看板が立ち並び、週末になると全市民がイオンに集結する。片や、駅前はシャッター街で閑古鳥が鳴き、その並びの中で豆腐屋の二代目が野心的なリフォームをして奮闘中。藁にもすがる思いで、萌えアニメと組んで一発逆転の町おこしを狙う行政」(同書より、以下同様)、それは当今本邦田舎の典型的なありようであり、都会の10年後を先取った現実ではないかと問いかける。「新世代のフロントランナー」をめざしもがく田舎の本音が数々の秀作となって苦笑と涙を誘う。
 数句を紹介したい。
▽ダイエーが サティになって 今イオン
 見事、業界の栄枯盛衰を一句に約めている。全国制覇の舞台は都会ではなく、田舎。グループで年商7兆を超える業界ナンバーワンのイオン。これとて社名のごとく永遠に続くのか、そのうち上五に詠み込まれないとも限らない。
▽パチンコ屋 潰れた後は 葬儀場
 田舎暮らしには身につまされる。同系に次の佳句があった。
▽学校と 病院過ぎて バス独り
 「独り」に滋味がある。学校を過ぎ、年寄りが病院で降りて、乗客が一人もいなくなった。それでも独り行く路線バス。悲哀が込み上げる。

▽気がつけば 隣の嫁は 外国人
 副題とも通底する。田舎の結婚事情は深刻だ。このままの推移で単純計算すれば、西暦3300年には日本人はゼロになるという。ならば、これが切り札か。

▽近所の子 結婚出産 そしてレジ
 非正規にしても、田舎ではスーパー、コンビニのレジが定番。田舎の「近所」には、このコースを辿る子が一人はいる。かつ、ヤンママにシングルが重なると“”オー・マイ・ガアッ!”だ。

▽意識より 地元意識が 高い系
 投稿者は──地元で生まれ、地元の相手と結婚。もう普通に「地元最高~」って言っちゃう系、これマジで意外と多いんです。──とコメントしている。「意識高い系」とは、前のめりで自意識過剰の上から目線をいう。自意識が地元意識にすり替わっても、客観的な自らのマッピングができないことは同じ。どこかが思考停止している。
 次の句は“ビミョーな”機微を捉える感性が一段と深い。
▽残ってる ビミョーな秀才 公務員
 長男であったり、家の事情を踏まえれば冒険をするほどの才はない。中央官庁は雲の上。下手な中途Uターンをするよりも、堅実な道をチョイスする。反旗を翻すより、小振りでも親方日の丸を振っている方が安心だ。はたして、「一発逆転の町おこしを狙う行政」は彼らが担うことと相成った。
 
 終わりに、お涙をいただこう。
▽何もない 夢も希望も コンビニも
 句はすこぶる巧いが、泣血を誘う。夢破れ、希望消えても、なおコンビニは生きる寄辺か、人生航路の灯台か。ならば、コンビニさえあれば生きられる。コンビニ全国5万超店の双肩に日本の、いな田舎の命運は載っている。だが、それさえも最早風前の灯火。やがて跡地にはケアハウスが群がり建つだろう。「地方創生」を鼻で笑いつつ、今や田舎は「痴呆簇生」の只中にある。ああー。 □