伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

誤解について

2011年12月02日 | エッセー

 ちょっと考えてみれば解ることなのに、先入主に押し込められて長いあいだ誤解を抱いている場合がある。

 日本の各地に大きな川が流れている。川幅の割に水が少ない下流がある。中州があって幾筋もの細流に分かたれている場合もある。むろん、上流にいくつかダムがある。──ダムができる前はもっと水嵩があっただろう。豪雨のときはダムの放流とともに水が一気に増えるが、ふだん少ないのはダムが堰き止めてちょっとずつ流すからだ。──これが誤解のひとつだ。(少なくとも、わたしの場合はそうだった)
 下流域の水量は、ダムのあるなしに関わらず変わりはないのだ。建設直後ダム湖が満水になるまでは下流の量は減るだろうが、その後は一緒だ。通常時の放流量は、ダムができる前の流水量と同じはずだ。
 だから安藤広重の「東海道五十三次」に登場する大井川と、東海道新幹線が横切る大井川と、水の嵩にさほどの違いはない(浮世絵と見比べるといい)。

 世の名刹もそうだ。古色蒼然が値打ちのように喧伝されるが、できたころは豪華絢爛であったに相違ない。この勘違いが工芸品をわざわざ古めかしく作る「古色仕上げ」なる異形(イギョウ)の技を生んだといえなくもない。なんでも古けりゃいいってもんじゃなかろう。女房と鍋釜は古いほどよいともいうが、臍の曲がった筆者には負け惜しみにしか聞こえぬ。
 
 「スマホ」もそうだ。「スマート」とはすらりとして様子がいいこと。それで、この名がついた。これも、一種の先入主だ。その昔、「イカす」と同様に使われた。今様には、「かわいい」か。だが、「スマート」には賢いという意味もある。多機能だから賢い、それでスマートフォンだ。これから注目されるであろう「スマート・グリッド」もこの謂だ。かつて「ケータイを持ったサル」という本が話題を呼んだ。いまや「スマホ」である。『スマホを持ったサル』とはスゲー皮肉ではないか。

 「少子高齢化」も御用心。少子化と高齢化に因果関係はない。同時に進む別々の現象だ。それを、子供が増えれば高齢化は防げるというのはまったくの誤解。少子化の原因は分母(シャレではなく、出産適齢期人口)が減ったこと。出生率が4にでもなれば別だが、今の倍になったところで止まりはしない。「子ども手当」など少子化対策にはなんの役にも立たない。法文には育児支援とあるが、少子化対策だと吹聴するのは『議員記章を持ったサル』の脳ミソだ。かつての迷言「女性は子供を産む機械」より、もっと質(タチ)が悪い。さらに自然の摂理、調整機能との見方もある。かのインドでも頭打ちの兆候があるそうだ。

 TPPは「第3の開国」だと嘯いた御仁がいた。「開国」が曲者だ。島国のトラウマか、本邦に住まう人びとはこの言葉に弱い。真意を歪める。浜 矩子先生のお説によればさにあらず、「第2の鎖国」となる。徳川以来の、それも集団的鎖国である。WTOに拠らぬ覇道である。王道に拠らぬ覇道は、やがて潰える。(先月の本ブログ「野太い声だ!」で触れた)

 今年の流行語大賞は「なでしこジャパン」に決まった。本ブログでも7月に取り上げた。
〓〓大和は日本の古称であるから、「なでしこジャパン」とは大和撫子の逆さ読み、和洋合体だ。かといって、「ピンクジャパン」ではまことによろしくない。「ジャパンなでしこ」では落ち着かない。やはりこれしかないか。明治期に、横文字に手古摺る様を皮肉った「ギョエテとは おれのことかと ゲーテ言い」という川柳がある。なんだか一脈通じる可笑し味がある。〓〓
 「ピンクジャパン」が、なぜよろしくないか。pink=ピンクとは、元来撫子の謂である。だから横文字(カタカナ)で統一するなら「ピンクジャパン」が筋目正しい。しかし、色事のピンクととる向きがある(ほとんどがそうかもしれない)。だから、「よろしくない」と書いた。 「ピンクとは 映画のことかと 君も言い」 拙稿を読んだ数人から同じ言葉が出た。やっぱり老婆心は無駄ではなかった。□