伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

時事の欠片 ―― 冗談は顔だけにしてくれ!

2010年10月04日 | エッセー

●障害者郵便割引不正:証拠改ざん 大坪容疑者ら「全面的に争う」
 大阪地検特捜部主任検事による証拠品改ざんを隠ぺいした事件で、犯人隠避容疑で最高検に逮捕された前特捜部長、大坪弘道(57)と前副部長、佐賀元明(49)の両容疑者が2日、接見した弁護人に「全面的に争う」と無実を主張していることが分かった。佐賀前副部長は「検察側のストーリーに乗らず徹底抗戦する」と強調したという。
 一方、大阪地裁の渡部市郎裁判官は同日、大坪前部長と佐賀前副部長の拘置を認める決定をした。期限は11日までの10日間。(毎日新聞 10月3日)

 苔生したギャグだが、「冗談は顔だけにしてくれ!」と言いたい。「検察側のストーリーに乗らず」とは、よく言えものだ。ついこないだまで「検察側のストーリー」を書きまくってきたのは、どこの誰だろう。目糞、鼻糞を笑うといって下品であれば、猿の尻笑いとでもしておこう。
 第一、FDの改竄にしたところで、当初の「ミステーク」説が通用するなどと本気で考えていたのだろうか。だとすれば、幼稚この上もない。天網恢恢疎にして漏らさず。まずは高1漢文の勉強からお復習いしてほしいものだ。
 逮捕された主任検事もどうしたことだろう。「割り屋」といわれ自供させるのが得意だったそうだが、攻守ところが代わると一日二日で口を「割り」、あっけなく認めてしまった。やはり、ウソは「割り」に合わないのだろうか。
 「高1漢文の勉強」といったのは、この成句には瑣末ながら忘れ難いエピソードがあるからだ。
 高校1年の漢文の授業の時。いつものように、机の上で櫓に組んだ手に顎を乗せて居眠りをしていた。おそらく肘が滑ったに違いない。頭の支えが抜けて、ハタと目が覚めた。咄嗟に、指されたと勘違いした。目の前には教科書が衝立のように立ててある。件(クダン)の成句が目に飛び込んできた。やおら立ち上がり、一頻り意味を説明して、安堵しつつ腰を下ろす。教師はキョトンとしている。みんなの視線が集まる。一瞬の間をおいて、教室に哄笑が弾けた。完全な一人相撲だったのである。以来、「天網恢恢……」だけは忘れはしない。生き様の規範たり得たかどうかは疑わしいが。
 ともあれ検事たる者、子供騙しの言い訳が通用するはずがないことぐらい、なぜ解らぬのだろう。逮捕された検事諸氏よ。拘置所内で壁面し、天網恢恢疎にして漏らさず、と出所まで寝る間も喰う間も惜しんで唱えてみてはいかがか。まあ、馬の耳に何とかではあろうが。
 極め付きは以下の記事だ。

●取り調べの可視化を申し入れ
 大阪地検特捜部による証拠改ざんの隠ぺい事件で、逮捕された前副部長の弁護士が、前副部長への捜査が適切に行われているか検証できるよう、取り調べの様子をすべて録音・録画する「可視化」の実施を、4日、最高検察庁に申し入れました。
 佐賀前副部長の弁護士は、最高検察庁に、前副部長に対する取り調べをすべて録音・録画するよう求める申し入れ書を出しました。この中で、弁護士は「厚生労働省の局長だった村木厚子さんの無罪が確定した事件では、密室で行われた取り調べが批判された。今回の事件でも、捜査が適切に行われたか検証できるようすべての取り調べの様子を録音・録画すべきだ」としています。(NHKニュース 10月4日)

 当人の意志にないことを弁護士が言い出すはずはない。これはまるで、泥棒に追銭ではないか。居直り、開き直り、尻捲り。盗人猛々しいとはこのことだ。冗談は顔だけどころか、存在そのものが冗談に見えてくる。
 こうなれば掛け値なしで、冗談は顔だけにしておいてくれと願わずにはいられない。顔が冗談なのは愛嬌にもなるが、存在が冗談では人間一般への重大な背徳となるからだ。 □