今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

瞑想のすゝめ:レベル1

2020年08月21日 | 心理学

瞑想は、インドで発達し、ヨーガや仏教で修行の基本になっており、更に中国の気功にも取り入れられている(気功は儒仏道それぞれの影響を受けている)。

ただ、多くの人は、坐禅などに挑戦したものの、雑念と足の痛みとの格闘に終っただけかもしれない。

瞑想にはいったいどんな効果があるのだろうか。

まずは瞑想の初心者向けに、宗教的修行としてではなく、生理心理学的視点、とりわけ私の「心の多重過程モデル」の視点で説明してみる。


瞑想とは、覚醒時に作動している心(システム1とシステム2)を覚醒しながら停止する、というすこぶる人工的(不自然)な行為である。

つまり日常の心理活動を停止し、あえて「何もしない」状態を維持する。
実はこの不自然さの努力に意味がある。

大脳前頭前野による自己制御のトレーニングだからだ。

通常の安静時には、特別な作業をしていない状態での脳内ネットワークが活動していて、それを最近の神経科学では、”デフォルト・モード・ネットワーク”(DMN)という。

外部の刺激に対する反応(システム1)ではなく、それとは独立した純粋の思考作用(システム2)によるものだが、特定課題遂行の思考ではなく、制限されないいわゆる雑念状態で、これを「マインド・ワンダリング」(心の放浪)、あるいはもっと活発な場合はキャーキャー叫びながら木々を飛び移る猿のようなので「モンキーマインド」ともいう。

この DMN活動が低下するとアルツハイマー病となるが、逆に過活動となると統合失調症(妄想、幻覚)となるという。

日常多くの人は、DMNが野放し状態で、マインド・ワンダリング状態が続いているはず。仕事や勉強に集中できない、あるいは寝つけない時の状態だ。

そのマインド・ワンダリング(モンキーマインド)をシステム2で鎮めるのが瞑想である。DMNを落ち着かせることが、脳活動の安定につながる。
瞑想はそれに効果がある。

さて、雑念状態(マインド・ワンダリング)を鎮めるにはどうすればよいか。
理想は無念状態であるが、そもそものDMNは無念状態ではないので、初心者には難しい。
雑念の”念”を止めるのではなく、念があっても”雑”でなくすればよい。
一念、すなわち集中状態でよい。
最初に取り組むといいのは、集中を目的とする瞑想(サマタ瞑想。止)である。

何に集中すればよいのか。
集中対象として、仏道修行では阿字や阿弥陀如来など映像イメージ、あるいは公案などの思考課題などがあるが、一番簡単なのは呼吸に集中することである。
呼吸はいつでもしているから、題材を探す必要がない。

面白いことに、呼吸に意識を当てると、それまで無自覚レベルのおとなしかった呼吸が、急に不自然な深呼吸を始める。
呼吸活動そのものが、脳幹の呼吸中枢による代謝性呼吸(システム0)から、横隔膜周囲の呼吸筋の運動制御による随意呼吸(システム1)に切り替わったのだ。
われわれは、呼吸を意識する時は必ず深呼吸をしてきた(深呼吸をする時だけ呼吸を意識した)。
その条件づけ(システム1)のためだ。


集中(一念)をやりやすくするため、呼吸を”数える”という思考課題をシステム2に与える。
この思念を利用する瞑想法(観)を「数息(すそく)観」という。

システム1で作動される深呼吸をゆっくりシステム2で数えることに集中する。
すなわち、条件づけ反応のシステム1を深呼吸に限定し、意識的思考活動のシステム2をそのカウント作業に限定させる。
呼吸は止まらないから、ずっと数え続けていられるので、他の思考に行かなくて済む。

実は、深呼吸は、それを続けること自体に効果がある。
深呼吸によって血中酸素分圧が上昇して、酸素が全身に行き渡り、諸器官が活性化される。
脂肪は燃焼され、内分泌も免疫力も活性化される。
横隔膜の大きな運動(腹式呼吸)によって腸の蠕動運動が活発になる。
吸気時には交感神経が興奮し(緊張)、呼気時には副交感神経が興奮する(弛緩)。
この交互の興奮によって自律神経のバランスが整えられ、明確なリズム運動によって脳内にセロトニンが分泌され、精神が安定する。

このような深呼吸活動を内側前頭前野にある自我がじっと静かに見つめる。
すなわち、身体機能が活性化し、精神が安定し、そして思考作用の高次の制御訓練がなされる。
瞑想はまずは心身の健康にいいということだ。
こんないいことが居ながらにして、道具もいらずにできるのだ。

呼吸は、生存に必須な身体活動でありながら、システム2で制御できる(止めることもできる)、すなわち体と心の接点となる活動。
ハイレベルの瞑想で行詰ったら、この呼吸瞑想に立ち戻るとよい。

瞑想のすゝめ:レベル2」に続く。


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