今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

鯛めし弁当

2006年09月05日 | 
”青春18きっぷ”5回目の使用で帰名(名古屋に帰ること)した。
18きっぷで東京から名古屋に向う時は、最初の乗換駅の”熱海”で駅弁を買うことにしている。
ここ最近は,ちりめんじゃこを飯の上にちりばめた「じゃこめし(弁当)」にしている。この駅の弁当の中で一番少量で(もちろんダイエットのため)一番安いから。
今回もそれを買うつもりで売店の駅弁群を眺めていた(ここでさっさと買っていれば、以下の展開はなかったはず)。

そしたら店のおばさんが、私が駅弁に迷っている客だと思ったらしく、「一番人気のある弁当がどれで、2番目は『鯛めし(弁当)』ですよ」とよけいな情報を言ってくる。
ただ、それを聞いて、「じゃこめし」より50円ほど高いだけで、量も同じくらいの「鯛めし」もいいな、と思ってしまった。
しかし、店の人に言われてそれに従うような主体性のない”御しやすい客”になりたくはないという反発心も出てきて、私は”自分が買いたいのはそれらじゃないんだ”と主張するように、「じゃこめし」をじっと見つめる。
一応、おばさんの助言も考慮にいれながら選んでいる、という素振りをみせる意味でもある。
でも、それがかえっておばさんに誤解を与えたようだ。
いまだ自分の食べる駅弁を決めかねて迷っている、優柔不断な客にみえたのだろう。
三番人気の弁当(キンメダイ寿司)を挙げてきた。

実は10日ほど前の前回の名古屋行きの時は、なんの躊躇もなく「じゃこめし」を買ったのだ。
だからこそ、同じ弁当を2回続けるよりは、今回は趣向を変えて、
量的にも価格的にも大差ない「鯛めし」にしようかという気持ちに傾いてきたわけだ。
しかも「鯛めし」は熱海を代表する有名駅弁であることも、子供の時分からこの温泉地に親しんできた者として、身をもってわかっている。
ただ、偏屈な自分としては、俗世間の人気番付などにはまったく興味がなく、その人気につられて買うなんて無思想な行動は断固したくないわけで、あくまで自分の内面的基準で駅弁を選びたいのだ。
しかし、おばさんの発した「鯛めし」という名に、次第に影響を受けつつあることはどうしても否定できない。

結局私は、2番目に人気があり同時に2番目に安い、その「鯛めし」を指さした。
敗北感を味わいながら。
なぜ敗北感かというと、自分の行動として、今回は「じゃこめし」ではなく、「鯛めし」にした方がいいことは確かであり、
それを気づかせてくれたのは、確かにおばさんお余計な言葉だったから。
この私が、おばさんの言葉にモロに影響を受けたしまったから。
これは自我の敗北である。
おそらく、おばさんは私のことを、優柔不断でたやすく言いくるめられる、主体性のない客の一人と思ったことだろう。

その敗北感にひとり苦笑しながら、鈍行列車の座席で「鯛めし」をかかえた私は(列車が動き出す前に弁当は開けない)、
次第にある種の心地よさも感じはじめていた。
敗北による心地よさが苦笑の本当の意味だった。
個人の内部でなされる思考というものは、
外部の他者の思考と共同でなされてしまうものなのだ、という、
いわば’思考の開放性’に今さらながら気づき、感心してしまったからだ。
自我にこだわるなんて、自分にとって狭量なのかもしれない。

列車は動き出した。
背後に消えていく熱海駅とともに敗北感は消え去り、
むしろ共同の思考によって、最適な駅弁選択ができたことに満足しながら、
私は、二番人気の熱海名物「鯛めし」を、思えば久しぶりにほおばった。

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