高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))の感想
もっと伝奇っぽい作品かと思ったら、原典に伝奇要素を加味するという作風で、事前に思っていたよりずっと『高慢と偏見』でした。「お忘れにならないで、わたしは少林派の弟子なんですよ。」とか「ミスター・コリンズは天国の話をするのが大好きなようだし、わたしが死ぬより先に、ゾンビの群れに襲われて天国に旅立ってくれるかもしれんよ」などという会話がさり気なく挿入されているのがミソか。
読了日:10月2日 著者:ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス
北京大学版 中国の文明 第2巻 古代文明の誕生と展開<下>の感想
今巻は鉄器の使用、都市と商業、宗教と信仰など、生活史・文化史が中心。漢字の起源に関する章もあり、人によっては前巻より今巻の方が面白く読めるかもしれない。出土文献の使い方についても、前巻ほどの違和感はない。
読了日:10月5日 著者:
真田信繁の書状を読む (星海社新書)の感想
真田信繁に関連する書状を年代順に提示して読み解いていき、その内容を掘り下げていこうという試み。信繁の生年、血縁の者とのつながりと、年代ごとの関係性の変化、大坂の陣の前後の動きなど、個々の書状から読み取れる信繁の足跡が意外に多いことを示すとともに、「史料を読む」という歴史学本来の営みの面白さも伝えてくれる。
読了日:10月7日 著者:丸島和洋
「世界史」の世界史 (MINERVA世界史叢書)の感想
前半が日本・中国・古代ギリシア・中央ユーラシア等々古今東西の世界像の提示、後半がマルクス主義の世界史・世界システム論・現代日本の世界史教育など、世界史学史の話となっている。本書を読んでの私の理解では、現在の高校や大学での世界史教育・研究の問題点は、個々の研究者や教員の怠慢というよりは、これまでの大学の学科・専攻の割り振りレベルからの構造上の問題が大きく影響しているようだ。史学史研究が独立の分野となっているように、世界史の研究を独立の分野とすることを真剣に検討するべきではないか。
読了日:10月10日 著者:
高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)の感想
一部ICT教育について触れている箇所もあるが、内容はほぼ高校・大学でのアクティブラーニングの必要性とその実践例の話に集中している。その理念や、導入の必要性についてはわかったが、「ゆとり教育」を導入しておきながら、世間の批判を受けて掌を返して「詰め込み教育」へと反動した実績があるだけに、文科相がそっちの方向に100%舵を切るのかには疑問が残る。企業で導入が進められた「成果主義」のように、上っ面だけをまねて、教育の状況をより悪化させる方向に進むのではないか。
読了日:10月11日 著者:本間正人,山内太地
中国古典学への招待―目録学入門 (研文選書)の感想
よくある目録学史の類かなと思っていたが、『中国叢書綜録』など近現代の成果についても(新しいものは1990年代の成果についても)詳しく解説されている。『古今小説』が『喩世明言』と改められた事情など、豆知識の類も豊富に盛り込まれている。
読了日:10月15日 著者:程千帆,徐有富
「日本」 国号の由来と歴史 (講談社学術文庫)の感想
文庫化を機に再読。「日本」がもともと中華的世界観の中で東の果ての地域を指す語であったのが、倭国の王朝名として採用され、それが国号と化し、時代の経過に従って新たな意味づけが付加されていくさまを描き出す。近年公表された祢軍墓誌の「日本」については、同墓誌中の「風谷」の語と対になっているということで、少なくともこの墓誌の中では国名として使われていないということで納得。しかし日本国号の問題を突き詰めていくと、網野善彦のように、現代もこの国号を使用し続けているのは妥当かという問題に行き着くはずだが…
読了日:10月17日 著者:神野志隆光
「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)の感想
中国による帝国主義的進出とか資本主義経済の破壊といったような、否定的な文脈で語られがちな中国人のアフリカ進出や中国の山寨商品だが、「下からのグローバル化」「Living for Today」という発想から見ると、肯定的に評価することができるようだ。中国人と、著者がフィールドとするタンザニアの人々は、かなりの程度世界像や人生観を共有しているということだろう。(そしてそれぞれ日本人とは共有していない。)スマホを利用した電子決済システムが普及し、多様な使い方がされているというのも両者に共通する。
読了日:10月19日 著者:小川さやか
社会学講義 (ちくま新書)の感想
理論社会学・都市社会学など、分野別に専門の研究者が概説する。面白かったのは佐藤郁哉氏担当の第6章「社会調査論」。社会学研究における理論屋・サーベイ屋・フィルドワーカーの役割分担というかアプローチの違いとともに、日本ではフィールドワークの部分があまりにも立ち遅れており、「ホイキタ調査のでたとこインタビュー」のレベルにとどまっている研究が多いというあたりで、特にベストセラーになるような社会学者による一般書の問題点がどこにあるのかが察せられる。
読了日:10月21日 著者:橋爪大三郎,大澤真幸,若林幹夫,吉見俊哉,野田潤,佐藤郁哉
応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)の感想
興福寺の別当経覚と尋尊の視点を中心に見る応仁の乱史。「あとがき」で応仁の乱が第一次世界大戦と似た構図を持っているのではないかとある。確かに似ている部分もあるが、わかりやすさから言えば、第一次世界大戦の方が遥かにわかりやすいように思う。また、戦後歴史学における階級闘争史観に対する批判がたびたび出てくるが、この分野ではまだ階級闘争史観の影響が払拭されていないのだろうか。
読了日:10月23日 著者:呉座勇一
樹木と暮らす古代人: 木製品が語る弥生・古墳時代 (歴史文化ライブラリー)の感想
一見地味なテーマだが、各地の木製品の生産と流通の状況、王権との関わりなど、木製品に着目することで見えてくるものは多いのだなと思った。容器のところで白川静の言う「サイ」を絡ませているのも面白い。
読了日:10月27日 著者:樋上昇
戦争の条件 (集英社新書)の感想
国際関係通史とか理論とか、面倒くさい体系的な解説をすっ飛ばしてエッセンスだけを詰め込んだ国際政治学の入門書。現実の国際政治や国際紛争について、国際政治学ではこういう具合に考えるという視座を提供する。最後まで読んで何か物足りなさを感じたあたりで、次の勉強へとつながるブックガイドが用意されているのも心憎い。
読了日:10月29日 著者:藤原帰一
となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代の感想
イスラム教徒とはどんな人たちかをざっくりと説明した本。またヨーロッパでの移民の排斥や、イスラム国の問題、日本で展開されつつあるハラール・ビジネスの問題点など、イスラム教に関する時事的な問題についても詳しく触れ、特に欧米側の欺瞞を批判する。水と油の関係でも共存は可能、ゴミ出しのルールなど、日本人に難しいルールは彼らにも難しい、男女の不平等はイスラム教の教えとは無関係で、日本も含めて単にその社会が男性中心で保守的・封建的であるにすぎないという著者の主張には同意。
読了日:10月31日 著者:内藤正典
もっと伝奇っぽい作品かと思ったら、原典に伝奇要素を加味するという作風で、事前に思っていたよりずっと『高慢と偏見』でした。「お忘れにならないで、わたしは少林派の弟子なんですよ。」とか「ミスター・コリンズは天国の話をするのが大好きなようだし、わたしが死ぬより先に、ゾンビの群れに襲われて天国に旅立ってくれるかもしれんよ」などという会話がさり気なく挿入されているのがミソか。
読了日:10月2日 著者:ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス
北京大学版 中国の文明 第2巻 古代文明の誕生と展開<下>の感想
今巻は鉄器の使用、都市と商業、宗教と信仰など、生活史・文化史が中心。漢字の起源に関する章もあり、人によっては前巻より今巻の方が面白く読めるかもしれない。出土文献の使い方についても、前巻ほどの違和感はない。
読了日:10月5日 著者:
真田信繁の書状を読む (星海社新書)の感想
真田信繁に関連する書状を年代順に提示して読み解いていき、その内容を掘り下げていこうという試み。信繁の生年、血縁の者とのつながりと、年代ごとの関係性の変化、大坂の陣の前後の動きなど、個々の書状から読み取れる信繁の足跡が意外に多いことを示すとともに、「史料を読む」という歴史学本来の営みの面白さも伝えてくれる。
読了日:10月7日 著者:丸島和洋
「世界史」の世界史 (MINERVA世界史叢書)の感想
前半が日本・中国・古代ギリシア・中央ユーラシア等々古今東西の世界像の提示、後半がマルクス主義の世界史・世界システム論・現代日本の世界史教育など、世界史学史の話となっている。本書を読んでの私の理解では、現在の高校や大学での世界史教育・研究の問題点は、個々の研究者や教員の怠慢というよりは、これまでの大学の学科・専攻の割り振りレベルからの構造上の問題が大きく影響しているようだ。史学史研究が独立の分野となっているように、世界史の研究を独立の分野とすることを真剣に検討するべきではないか。
読了日:10月10日 著者:
高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)の感想
一部ICT教育について触れている箇所もあるが、内容はほぼ高校・大学でのアクティブラーニングの必要性とその実践例の話に集中している。その理念や、導入の必要性についてはわかったが、「ゆとり教育」を導入しておきながら、世間の批判を受けて掌を返して「詰め込み教育」へと反動した実績があるだけに、文科相がそっちの方向に100%舵を切るのかには疑問が残る。企業で導入が進められた「成果主義」のように、上っ面だけをまねて、教育の状況をより悪化させる方向に進むのではないか。
読了日:10月11日 著者:本間正人,山内太地
中国古典学への招待―目録学入門 (研文選書)の感想
よくある目録学史の類かなと思っていたが、『中国叢書綜録』など近現代の成果についても(新しいものは1990年代の成果についても)詳しく解説されている。『古今小説』が『喩世明言』と改められた事情など、豆知識の類も豊富に盛り込まれている。
読了日:10月15日 著者:程千帆,徐有富
「日本」 国号の由来と歴史 (講談社学術文庫)の感想
文庫化を機に再読。「日本」がもともと中華的世界観の中で東の果ての地域を指す語であったのが、倭国の王朝名として採用され、それが国号と化し、時代の経過に従って新たな意味づけが付加されていくさまを描き出す。近年公表された祢軍墓誌の「日本」については、同墓誌中の「風谷」の語と対になっているということで、少なくともこの墓誌の中では国名として使われていないということで納得。しかし日本国号の問題を突き詰めていくと、網野善彦のように、現代もこの国号を使用し続けているのは妥当かという問題に行き着くはずだが…
読了日:10月17日 著者:神野志隆光
「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)の感想
中国による帝国主義的進出とか資本主義経済の破壊といったような、否定的な文脈で語られがちな中国人のアフリカ進出や中国の山寨商品だが、「下からのグローバル化」「Living for Today」という発想から見ると、肯定的に評価することができるようだ。中国人と、著者がフィールドとするタンザニアの人々は、かなりの程度世界像や人生観を共有しているということだろう。(そしてそれぞれ日本人とは共有していない。)スマホを利用した電子決済システムが普及し、多様な使い方がされているというのも両者に共通する。
読了日:10月19日 著者:小川さやか
社会学講義 (ちくま新書)の感想
理論社会学・都市社会学など、分野別に専門の研究者が概説する。面白かったのは佐藤郁哉氏担当の第6章「社会調査論」。社会学研究における理論屋・サーベイ屋・フィルドワーカーの役割分担というかアプローチの違いとともに、日本ではフィールドワークの部分があまりにも立ち遅れており、「ホイキタ調査のでたとこインタビュー」のレベルにとどまっている研究が多いというあたりで、特にベストセラーになるような社会学者による一般書の問題点がどこにあるのかが察せられる。
読了日:10月21日 著者:橋爪大三郎,大澤真幸,若林幹夫,吉見俊哉,野田潤,佐藤郁哉
応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)の感想
興福寺の別当経覚と尋尊の視点を中心に見る応仁の乱史。「あとがき」で応仁の乱が第一次世界大戦と似た構図を持っているのではないかとある。確かに似ている部分もあるが、わかりやすさから言えば、第一次世界大戦の方が遥かにわかりやすいように思う。また、戦後歴史学における階級闘争史観に対する批判がたびたび出てくるが、この分野ではまだ階級闘争史観の影響が払拭されていないのだろうか。
読了日:10月23日 著者:呉座勇一
樹木と暮らす古代人: 木製品が語る弥生・古墳時代 (歴史文化ライブラリー)の感想
一見地味なテーマだが、各地の木製品の生産と流通の状況、王権との関わりなど、木製品に着目することで見えてくるものは多いのだなと思った。容器のところで白川静の言う「サイ」を絡ませているのも面白い。
読了日:10月27日 著者:樋上昇
戦争の条件 (集英社新書)の感想
国際関係通史とか理論とか、面倒くさい体系的な解説をすっ飛ばしてエッセンスだけを詰め込んだ国際政治学の入門書。現実の国際政治や国際紛争について、国際政治学ではこういう具合に考えるという視座を提供する。最後まで読んで何か物足りなさを感じたあたりで、次の勉強へとつながるブックガイドが用意されているのも心憎い。
読了日:10月29日 著者:藤原帰一
となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代の感想
イスラム教徒とはどんな人たちかをざっくりと説明した本。またヨーロッパでの移民の排斥や、イスラム国の問題、日本で展開されつつあるハラール・ビジネスの問題点など、イスラム教に関する時事的な問題についても詳しく触れ、特に欧米側の欺瞞を批判する。水と油の関係でも共存は可能、ゴミ出しのルールなど、日本人に難しいルールは彼らにも難しい、男女の不平等はイスラム教の教えとは無関係で、日本も含めて単にその社会が男性中心で保守的・封建的であるにすぎないという著者の主張には同意。
読了日:10月31日 著者:内藤正典