
江戸時代宗教・思想史総覧的な本。個人的にその人単体の思想や活動でしか知らなかった富永仲基や不干斎ハビアン、隠元がどういう歴史的文脈で位置づけられるのかという話を読めたのが収穫。国学が古典文学の研究の範囲で収まることなく文献の外、すなわち現実の世界へと飛び出した結果どういう作用をもたらしたかという話の進め方、神話を歴史と結びつけて古代史の真実を明らかにしようとする「誘惑」が現在でも根強く残っているという著者の呆れが印象的。
読了日:11月02日 著者:森 和也

将軍あるいは管領の父親が実権を握るという政治のあり方、六代将軍義教による専制の挫折、儀式の時にのみ管領に就任した細川政元、三管領から細川氏一強の状態へ、その細川氏の内紛と衰退、政所執事の伊勢氏や細川氏守護代の三好氏の躍進、あるいは十四代義栄の弟義助の子孫が「平島公方」として命脈を現在まで伝えている話など、室町幕府あるいはその子孫たちの権力や権威のあり方を考えさせられる構成となっている。できれば伊勢氏の動向を追った補編が読みたい。
読了日:11月07日 著者:

上杉謙信の実像をたどるということで、「義の武将」というイメージの出所や、謙信は本当に「生涯不犯」だったかという問題、短慮だったというその性格、養子の後の景勝との交流、「輝虎」の名のもととなった足利義輝への思いなどを追う。上杉氏名跡の継承については、北条氏などすんなり認めなかった勢力もあったという点が意外。改姓は名乗れば認められるというものでもないようだ(逆に謙信も北条氏を伊勢氏と呼び続けたということだが)。「義の武将」イメージに対する謙信の「実像」もそう悪いものではないように感じた。
読了日:11月08日 著者:今福 匡

中世の主役となる武士は、天皇・藤原氏に出自する王臣子孫、国造の末裔と位置づけられる郡司などの在地の豪族、坂上氏・多治比氏・小野氏といった武人輩出氏族、彼らの討伐の対象となった蝦夷といった古代的な存在の「ハイブリッド」ないしは「マッシュアップ」であるというのが結論だが、そこに至るまでの経過を見ていると、生み出してはいけなかった魔王誕生の瞬間を見せられているような気分になってくる。平将門や同時代の藤原秀郷・源経基についても紙幅が割かれており、読者は彼らに対するイメージが一変することになるだろう。
読了日:11月11日 著者:桃崎 有一郎

現代中国の衣食住から、言葉遊び、鉄道旅行の今昔、SF小説の流行等々、定番の政治や外交の話題から一歩引いた中国事情が盛り込まれている。専門書から軽めの新書本まで関連する参考文献が多く紹介されているので、読書案内にもなっている。それぞれの話題に関連する映画やドラマの紹介もあり、中華エンタメファンの副読本的な使い方もできるだろう。
読了日:11月15日 著者:中国モダニズム研究会

倭寇研究が絡んでくる現代物の「梨の花」などもあるが、推理物と時代物・歴史物として両立ができている作品が揃っている。個人的な好みはムガル王朝を舞台とした「獣心図」と、郁達夫の死の謎に挑む「スマトラに沈む」の、史伝的な要素の強い二編。
読了日:11月17日 著者:陳 舜臣

日本史や中国史の概説書では西欧との接触以前の話がかなりの紙幅を占めるのに比べ、アフリカ史の場合は西欧との接触以後の状況が紙幅の多くを占めていることで、アフリカ史は日中と比べて世界史として語らざるを得ない面が大きいのだなと感じた。面白い議論を挙げるとキリがないが、特にアフリカ諸国のトライブ(部族)が実は古来からのものではなく、近代になってからアフリカ進出を図る西欧によって造られたものであるという議論を面白く呼んだ。アフリカ史の固有性だけでなく、東アジアなど他の地域にも通じる普遍性が見出せる内容となっている。
読了日:11月23日 著者:

漢代を中心に術数学の展開を追う。当時の医薬学や天文暦学に関して、丹薬の生成や天文占という「怪しげ」な方向で、延命益寿、超常現象や未来の解読といった「社会的有用性」が求められており、それに応えられなければ高度な理論化を達成できたとしても国家的な支援が得られなかったという、現在の学術をめぐる状況とオーバーラップさせるような議論、司馬遷が暦官としの職務も担っていたにもかかわらず、『史記』の律書・暦書・天官書のような関係する部分にはその方面に関して疎漏があるという指摘を面白く読んだ。
読了日:11月25日 著者:武田 時昌

「反実仮想」をキーワードに、『高い城の男』や『紺碧の艦隊』といった欧米・日本の歴史改変小説から、ファーガソンの『仮想歴史』といった学術的分析まで幅広く扱う。『一九八四年』のような未来小説も、ある時点で「過去」の事象を扱った小説へと変容するというが、「そうはならなかった未来」どころか部分的に「そうなりつつある未来」を示しているという評価のある堺屋太一『平成三十年』も俎上に挙げて欲しかったところ。
読了日:11月26日 著者:赤上裕幸

戦前というか世界の給食の開始からはじまる書だが、日本では戦前から貧乏家庭の子にスティグマを与えないように児童全員を対象に給食の実施が図られてきたこと、戦後はアメリカの小麦戦略の押しつけと見られがちなパンと脱脂粉乳による給食の実施が、日本側との共同作業という面があること、給食に社会主義を想起させる要素があることを強調する内容となっている。最後に触れられている新自由主義との関わりという点で、給食をめぐる物語はまだまだ続いていくことになるのだろう。
読了日:11月29日 著者:藤原 辰史
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