博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『金印偽造事件』

2007年01月18日 | 日本史書籍
三浦佑之『金印偽造事件』(幻冬舎新書、2006年11月)

『口語訳古事記』の著者として知られる三浦氏が、江戸時代に志賀島で発見された「漢倭奴国王」の金印は偽造されたものであると主張する大胆な論著です。

本書では金印偽造の中心人物であったのは福岡藩の儒者で、発見直後に金印の鑑定書を書いた亀井南冥という人物であるとしています。当時福岡藩では朱子学を奉じる修猷館と古学を奉じる甘棠館の二つの藩校が開かれ、そのうちの甘棠館の学長に就任した南冥が甘棠館の開校を盛り上げ、また金印の研究によって自らの権威を高めるために『後漢書』の記述に基づいて偽造させたと言うのです。

当時は古印など中国の文物の収集や研究が盛んで、それらの偽物も作られていたことや、また志賀島での金印発見の経緯がどうも不審であるといった、発見当時の背景を丁寧に押さえています。金印が偽造されたと主張したのは三浦氏が初めてではなく、第二次大戦後に至るまで真贋論争がなされたということですが、中国で漢倭奴国王印と同じく蛇鈕をもつ滇王印が発見されてからは偽物説はほとんど主張されなくなります。しかし本書では同じ蛇鈕とは言っても漢倭奴国王印と滇王印のそれとは全く意匠が異なり、滇王印は漢倭奴国王金印が本物であることを示す証拠にはならないとします。

このように本書では発見時の背景や金印そのものの分析まで様々な方面から検討を加えて偽造説を補強しようとしていますが、こんな調子で微に入り細に入り突き詰めていけば、前近代に発見された文物はみんな偽造の疑いが出て来るんじゃないかなあという気がします(^^;)

私の専門であります殷周青銅器やその銘文なんてのは、前近代どころか現代に発見されたものでも盗掘されて香港の骨董市場に流れ、そこから企業や博物館に買い取られたために発見地や発見の経緯がわからないなんてケースがザラにありまして、本書のような調子であれも怪しい、これも怪しいと突っ込まれれば研究に使える資料が極端に少なくなってしまいます(^^;) (まあ、実際そうやって世に出た文物の中には偽物かと疑われているものもあるわけですが……)

また本書の中で、宮崎市定がかつて中村直勝から漢倭奴国王の金印が二つあるということを聞いたという話を紹介し、三浦氏がこれは一体どういうことなのかと訝っている箇所があります。実は私もオフ会で藤井有鄰館(三浦氏も中国の古印の調査のためにここを訪れたということですが)を見学している時にたまたま館長さんとお会いし、金印が偽物かもしれないという話と、金印が二つ存在するという話をお聞きしたのですが、その詳細は聞きそびれてしまいました。本書を読めばあるいはその詳細がわかるのではないかと期待したのですが、結局二つの金印の真相はわからないままとなりました……

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