博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2019年8月に読んだ本

2019年09月01日 | 読書メーター
ヒトラーの時代-ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか (中公新書)ヒトラーの時代-ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか (中公新書)感想
既にごく基本的な事項も含めて種々の錯誤が指摘されている本作だが、文章力の方は衰えを見せていない。(それだけに厄介かもしれない)ユダヤ人の亡命ハンドブックの話など面白い話題も多いし、現代の日本の政治状況と何やら重なりそうな記述も散見されるが、個別の事項について錯誤がないかいちいち疑ってかからないといけない状況になっているのが辛いというかもったいない。
読了日:08月01日 著者:池内 紀

戦争の記憶 コロンビア大学特別講義 学生との対話 (講談社現代新書)戦争の記憶 コロンビア大学特別講義 学生との対話 (講談社現代新書)感想
歴史と記憶とは異なるという観点から、それぞれの国の「戦争の記憶」について語り合う講義録というか、学生たちによる対話集。広島・長崎の原爆投下や9・11事件から抜け落ちてしまう記憶は何かという問題、メディアは記憶の伝達手段であって、記憶を操作する存在ではないということ、慰安婦問題が国際的に共通の記憶となるまでのプロセスを面白く読んだ。
読了日:08月04日 著者:キャロル・グラック

南北戦争の時代 19世紀 (岩波新書)南北戦争の時代 19世紀 (岩波新書)感想
今巻は近代戦争最初の総力戦と位置づけられる南北戦争を経て、「奴隷国家」として誕生したアメリカが「移民国家」へと変貌していく様子を描く。逆にアメリカから出て行く動きとして、「自由黒人」をリベリアに植民させる運動にも言及している。ストウ夫人も熱烈な植民論者であったとのこと。最後に南北戦争の「戦争の記憶」について触れているのも面白い。
読了日:08月06日 著者:貴堂 嘉之

思想史で読む史学概論思想史で読む史学概論感想
日本思想史専攻の研究者による史学概論。近現代の一国史が固有性を求めるのに対し、前近代の王朝史が共通性・普遍性を意識していたこと、秀吉の朝鮮出兵について民族主義的な視点が支配的だったはずの韓国から却ってトランスナショナル・ヒストリー的な研究が出てきていること、植民地時代の『朝鮮史』の編纂をめぐって、たとえ実証主義的、学術的であっても、ひとたび「正史」として編纂されることで、現地の人々の多様な歴史や視線を抑圧・隠蔽する権力として作用するという議論を面白く読んだ。
読了日:08月09日 著者:桂島宣弘

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)感想
信用スコア、監視カメラ網などといった形で進められている中国の管理社会・監視社会化について、中国のみで見られる特異な状況として扱うのではなく、中国特有の歴史的背景に留意しつつも、日本も直面し得る普遍的な問題として議論する。類書に見られるような中国論だけでなく、倫理学的な観点からの議論も展開されているのが本書の特徴となる。中国を自分たちとは異質な他者として扱い、その影響力を切断してしまえば我々の社会のディストピア化が避けられるという発想が却って危険であるという指摘が印象的。
読了日:08月11日 著者:梶谷 懐,高口 康太

ブルース・リー (ちくま文庫)ブルース・リー (ちくま文庫)感想
ブルース・リーの子役時代の作品について詳述するとともに、90年代あたりまでの香港映画史ともなっている点に特色がある。ブルース・リーがその出自から香港にあってもアメリカにあっても異分子であったこと、ブルース・リーのミソジニー、中国武術とナショナリズムの問題、ブルース・リー作品の世界的な受容など、取り扱う話題は幅広い。香港映画に興味のある向きは手にとって損はないと思う。
読了日:08月14日 著者:四方田 犬彦

美学への招待 増補版 (中公新書)美学への招待 増補版 (中公新書)感想
美学の概論というよりは、美学の研究者はこういう問題意識を持っていますということを提示する本。「センス」の概念が示すものとか、我々が芸術に触れるうえで複製がオリジナルになるという倒錯といった馴染みやすい話題から、芸術の哲学としての美学の世界へと我々を引き込んでくる。時節柄「少女像」に示されるような芸術と政治の関係について言及した箇所はないかと期待したが、増補分の第10章でその糸口ぐらいは得られたかもしれない。
読了日:08月21日 著者:佐々木 健一

愛と欲望の三国志 (講談社現代新書)愛と欲望の三国志 (講談社現代新書)感想
日本での三国志の受容についてまとめる。江戸時代の『通俗三国志』と対馬・朝鮮半島との関係、近代日本で孔明が推された背景、日中戦争期に三国志ブームがおこり、中国理解のために読まれたといったことなどが読みどころ。本書で取り上げられているのは活字メディアというか小説だけだが、漫画やゲームについては今後の研究課題ということだろうか。
読了日:08月22日 著者:箱崎 みどり

【増補改訂】オリンピック全大会 人と時代と夢の物語 (朝日選書)【増補改訂】オリンピック全大会 人と時代と夢の物語 (朝日選書)感想
1896年のアテネ大会から2016年のリオデジャネイロ大会まで夏季五輪を総覧。各大会の名選手や豆知識の紹介にとどまらず、歴史的背景、政治性・政治利用をめぐるIOC・国家・選手間のせめぎあい、プロとアマの間、商業性や経済利用の問題、そしてレガシーなどの新しい動向をちゃんと押さえたオリンピック論となっている。私の見た限りパラリンピックに関する言及がないのが唯一の不満。
読了日:08月25日 著者:武田 薫

日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)感想
「日本近現代史講義」とあるが、テーマは国際政治や外交に関するものに偏っている。各章ともそれぞれの研究者の論著の良い要約となっているが、自民党本部での3年間にわたる講義を書籍化したものという成立から、研究者が政治家に何を伝えたかったかという読み方もできる。第13章で近現代日本とイギリスとを対比のうえ、日本は大陸において果たすべき自らの役割を定義してこなかった、その理由と帰結について問うていくべきというメッセージが特に心に残る。
読了日:08月27日 著者:山内昌之,細谷雄一

奴隷船の世界史 (岩波新書)奴隷船の世界史 (岩波新書)感想
奴隷貿易・奴隷船だけでなく、イギリスを中心に展開された奴隷貿易廃止運動、そして現代の奴隷制へと話が展開する。奴隷貿易研究のためにTSTDのようなデータベースが構築され、広く利用されていることにも触れられている。奴隷船において黒人奴隷だけでなく水夫も債務奴隷と言うべき存在であり、過酷な扱いを受けたというのは、何となく現代の労働問題の重層性を連想させる。
読了日:08月30日 著者:布留川 正博


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