教育は何を評価してきたのか (岩波新書 新赤版 1829)の感想
日本の教育制度・教育政策の展開を、「能力」で表される垂直的序列化と、「資質」「態度」で表される水平的画一化とのせめぎ合いであると位置づけて読み解く試み。序盤のメリトクラシーを「能力主義」と訳することの危うさ、「能力」がフィクショナルな概念であり後付けの理屈であるという議論、そして終盤の現在教育政策の中で進行しつつある「ハイパー教化」に関する議論を興味深く読んだ。「教化」はもともとの意味合いからしても、日本で忌避されがちな「儒教」と相性が良いはずなのである。
読了日:04月02日 著者:本田 由紀
貨幣システムの世界史 (岩波現代文庫)の感想
貨幣を額面通りの価値で受け取って貰えるのは当たり前なのか?悪貨は良貨を駆逐するのか?本国で使われなくなった後も中東・東アフリカで広く流通したマリア・テレジア銀貨の話を皮切りに、中国の銅銭、銀、紙製通貨、そして日本の状況などを踏まえつつ、多元的、非対称的な貨幣流通・交換の歴史を垣間見ていく。キャッシュレス時代にこうした歴史の知見がどう生きるかという展望が巻末にでも付記されていればなお良かった。
読了日:04月05日 著者:黒田 明伸
感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)の感想
台湾や関東州での日本の植民地行政と公衆衛生との関係、中華民国が日本をモデルとして公衆衛生の制度化を進めたことを議論する。植民地での感染症対策は「善政」とされることが多いが、植民地統治のもとでの開発政策により、赤痢・ジフテリア・結核などは増加傾向にあったとも言う。「東亜病夫」「日本住血吸虫病」のネーミングの由来といったトピックも読みどころ。「感染症は克服されるどころか、むしろ顕在化しつつある」という著者の見通しは、初版から10年以上経って再確認されることとなったが…
読了日:04月07日 著者:飯島 渉
古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家 (文春新書)の感想
中公新書の『古関裕而』と比べると、英国の作曲コンクールで二等当選したという話の真相追究、妻の金子が株に熱中していた話など、ゴシップ的な話題が多く、良くも悪くも飾らない内容になっている。SPレコードや当時の専属契約の説明があるのもよい。ノンポリゆえにどんな政治的音楽でも自由自在に作れたという指摘には若干保留をつけた方がいいようにも思うが。
読了日:04月10日 著者:辻田 真佐憲
七王国の騎士 (氷と炎の歌)の感想
本編でも時折言及されていたダンクとエッグの物語。本編とは趣が異なり、ファンタジーというよりは騎士物語として読める。2人の出会いから少しずつ年代を進めていっているので、2人の最期までとは言わないまでもエッグの即位あたりまでは書き進めていってほしいものだが…
読了日:04月15日 著者:ジョージ・R・R・マーティン
椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書 (2584))の感想
実のところ椿井文書がどういうものなのかもよくわからずに手に取ったのだが、特に今の日本史学研究のあり方が古代・中世・近世と時代別、あるいは文献史学と美術史といった具合に分野別に細分化していることが、椿井文書が真正の文書として活用される下地になったという点を興味深く読んだ。椿井文書そのものもさることながら、著者も言うように近世には他にも無数に偽文書が作られたわけだが、「偽文書学」のモデルケースとしても椿井文書が面白い存在であると感じた。
読了日:04月18日 著者:馬部 隆弘
ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのかの感想
ナチス時代の研究者による、大学での「ファシズムの体験学習」の実践と考察をまとめる。白シャツとジーパンをユニフォームとしてリア充のカップルを糾弾するという、一見お笑いのネタになりそうな実践だが、学習意図や暴走を防ぐための配慮、工夫などが細かく解説されており、体験学習の手引きとして使えそうな内容になっている。今の日本でも学校の制服や学級会、運動会などを通じてファシズムの構造が存在しているという指摘に何とも言えない気分となる。
読了日:04月20日 著者:田野 大輔
『紅楼夢』の世界――きめこまやかな人間描写 (京大人文研東方学叢書)の感想
『紅楼夢』の入門書というよりは、既に思い入れのある中級者向けの内容。『紅楼夢』の続編群の紹介は、読者が求める幸せな夢の続きを描こうとすると俗悪な現実の肯定にずり落ちていくというジレンマを示していて面白い。逆に81回以降の補作は、80回までの内容と整合性に難があるとしても、「続編」としてはよく出来ているということになるだろうか。
読了日:04月23日 著者:井波 陵一
時代劇入門 (角川新書)の感想
時代劇の歴史、ジャンル、主要作品、俳優などをまとめた総合的入門書。忠臣蔵の映像作品が作られなくなった理由は、若者に題材が知られなくなったからとかテーマがピンとこないからということではなく、そもそも忠臣蔵の映像化自体が時代劇の中でも一大プロジェクトであり、制作する力がなくなったからだという解説が特に面白い。
読了日:04月26日 著者:春日 太一
人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書)の感想
国際政治の文脈から見たWHO簡史。感染症対策だけでなく生活習慣病への対応なども話題にする。新型コロナウイルスへの対応ではWHOの政治的中立性が問われているが、本書ではそもそも冷戦時代には米ソの動きが感染症対策に強く影響したり、糖類摂取量ガイドライン制作時にアメリカが分担金の減額をちらつかせてWHOを脅したりするなど、大国が政治的にWHOに影響力を行使してきたこと、反面、WHOが大国の政治的影響力を利用して事業を展開してきたことを示している。中国のWHOへの影響力も、そのようなものとして評価できるだろう。
読了日:04月29日 著者:詫摩 佳代
日本の教育制度・教育政策の展開を、「能力」で表される垂直的序列化と、「資質」「態度」で表される水平的画一化とのせめぎ合いであると位置づけて読み解く試み。序盤のメリトクラシーを「能力主義」と訳することの危うさ、「能力」がフィクショナルな概念であり後付けの理屈であるという議論、そして終盤の現在教育政策の中で進行しつつある「ハイパー教化」に関する議論を興味深く読んだ。「教化」はもともとの意味合いからしても、日本で忌避されがちな「儒教」と相性が良いはずなのである。
読了日:04月02日 著者:本田 由紀
貨幣システムの世界史 (岩波現代文庫)の感想
貨幣を額面通りの価値で受け取って貰えるのは当たり前なのか?悪貨は良貨を駆逐するのか?本国で使われなくなった後も中東・東アフリカで広く流通したマリア・テレジア銀貨の話を皮切りに、中国の銅銭、銀、紙製通貨、そして日本の状況などを踏まえつつ、多元的、非対称的な貨幣流通・交換の歴史を垣間見ていく。キャッシュレス時代にこうした歴史の知見がどう生きるかという展望が巻末にでも付記されていればなお良かった。
読了日:04月05日 著者:黒田 明伸
感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)の感想
台湾や関東州での日本の植民地行政と公衆衛生との関係、中華民国が日本をモデルとして公衆衛生の制度化を進めたことを議論する。植民地での感染症対策は「善政」とされることが多いが、植民地統治のもとでの開発政策により、赤痢・ジフテリア・結核などは増加傾向にあったとも言う。「東亜病夫」「日本住血吸虫病」のネーミングの由来といったトピックも読みどころ。「感染症は克服されるどころか、むしろ顕在化しつつある」という著者の見通しは、初版から10年以上経って再確認されることとなったが…
読了日:04月07日 著者:飯島 渉
古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家 (文春新書)の感想
中公新書の『古関裕而』と比べると、英国の作曲コンクールで二等当選したという話の真相追究、妻の金子が株に熱中していた話など、ゴシップ的な話題が多く、良くも悪くも飾らない内容になっている。SPレコードや当時の専属契約の説明があるのもよい。ノンポリゆえにどんな政治的音楽でも自由自在に作れたという指摘には若干保留をつけた方がいいようにも思うが。
読了日:04月10日 著者:辻田 真佐憲
七王国の騎士 (氷と炎の歌)の感想
本編でも時折言及されていたダンクとエッグの物語。本編とは趣が異なり、ファンタジーというよりは騎士物語として読める。2人の出会いから少しずつ年代を進めていっているので、2人の最期までとは言わないまでもエッグの即位あたりまでは書き進めていってほしいものだが…
読了日:04月15日 著者:ジョージ・R・R・マーティン
椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書 (2584))の感想
実のところ椿井文書がどういうものなのかもよくわからずに手に取ったのだが、特に今の日本史学研究のあり方が古代・中世・近世と時代別、あるいは文献史学と美術史といった具合に分野別に細分化していることが、椿井文書が真正の文書として活用される下地になったという点を興味深く読んだ。椿井文書そのものもさることながら、著者も言うように近世には他にも無数に偽文書が作られたわけだが、「偽文書学」のモデルケースとしても椿井文書が面白い存在であると感じた。
読了日:04月18日 著者:馬部 隆弘
ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのかの感想
ナチス時代の研究者による、大学での「ファシズムの体験学習」の実践と考察をまとめる。白シャツとジーパンをユニフォームとしてリア充のカップルを糾弾するという、一見お笑いのネタになりそうな実践だが、学習意図や暴走を防ぐための配慮、工夫などが細かく解説されており、体験学習の手引きとして使えそうな内容になっている。今の日本でも学校の制服や学級会、運動会などを通じてファシズムの構造が存在しているという指摘に何とも言えない気分となる。
読了日:04月20日 著者:田野 大輔
『紅楼夢』の世界――きめこまやかな人間描写 (京大人文研東方学叢書)の感想
『紅楼夢』の入門書というよりは、既に思い入れのある中級者向けの内容。『紅楼夢』の続編群の紹介は、読者が求める幸せな夢の続きを描こうとすると俗悪な現実の肯定にずり落ちていくというジレンマを示していて面白い。逆に81回以降の補作は、80回までの内容と整合性に難があるとしても、「続編」としてはよく出来ているということになるだろうか。
読了日:04月23日 著者:井波 陵一
時代劇入門 (角川新書)の感想
時代劇の歴史、ジャンル、主要作品、俳優などをまとめた総合的入門書。忠臣蔵の映像作品が作られなくなった理由は、若者に題材が知られなくなったからとかテーマがピンとこないからということではなく、そもそも忠臣蔵の映像化自体が時代劇の中でも一大プロジェクトであり、制作する力がなくなったからだという解説が特に面白い。
読了日:04月26日 著者:春日 太一
人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書)の感想
国際政治の文脈から見たWHO簡史。感染症対策だけでなく生活習慣病への対応なども話題にする。新型コロナウイルスへの対応ではWHOの政治的中立性が問われているが、本書ではそもそも冷戦時代には米ソの動きが感染症対策に強く影響したり、糖類摂取量ガイドライン制作時にアメリカが分担金の減額をちらつかせてWHOを脅したりするなど、大国が政治的にWHOに影響力を行使してきたこと、反面、WHOが大国の政治的影響力を利用して事業を展開してきたことを示している。中国のWHOへの影響力も、そのようなものとして評価できるだろう。
読了日:04月29日 著者:詫摩 佳代