博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年5月に読んだ本

2018年06月01日 | 読書メーター
姦通裁判 ―18世紀トランシルヴァニアの村の世界― (星海社新書)姦通裁判 ―18世紀トランシルヴァニアの村の世界― (星海社新書)感想
18世紀半ばのトランシルヴァニアの片隅でおこった姦通事件の裁判証人聴取記録を史料として、姦通事件そのものに加えて、その背後に見えてくる当時の身分制・「魔法」・食事の頻度・暦・婚姻・育児等々、様々な情報を読み解いていく。史料講読の面白さを味わえる本となっている。一方で、最後に触れられる「史料が語ること」の逆となる「史料に現れないこと」の話が重い。
読了日:05月02日 著者:秋山 晋吾

天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった: 一次史料が伝える“通説を根底から覆す"真実とは天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった: 一次史料が伝える“通説を根底から覆す"真実とは感想
石田三成や福島正則・毛利輝元らの従来の人物像と実際のそれとの乖離、直江状の真偽、西軍の首謀者が輝元であり、家康は関ヶ原で指揮を執っていなかったと見られること、光成が小早川秀秋の裏切りを事前に察知していたことなど、注目すべき指摘が多いが、司馬遼太郎『関ヶ原』などを槍玉に挙げている割には、特に乃至氏の執筆部分に小説的な語り口が目に付くのが気になる。
読了日:05月04日 著者:乃至政彦,高橋陽介

後醍醐天皇 (岩波新書)後醍醐天皇 (岩波新書)感想
真言密教への傾倒は父・後宇多法皇の影響であること、文観の人物像の再評価、その「新政」の思想的背景として宋学の受容があったといった指摘を通して、「異形の王権」とされてきた後醍醐天皇のイメージとその政治の評価の修正をはかる。最終章の後醍醐天皇の企てた「新政」が近代日本を呪縛したという発想は面白いが、その詳論をもう少し読みたかった気もする。
読了日:05月07日 著者:兵藤 裕己

B.C.220年 帝国と世界史の誕生 (歴史の転換期)B.C.220年 帝国と世界史の誕生 (歴史の転換期)感想
内容としては地中海世界の話がメインで、中国はその対比のために取り上げられているが、「属州も帝国も後から現実に追いついてきた概念」「帝国が皇帝を生み出した」というあたりで中国の状況とシンクロさせるような内容になっている。ポリュビオスと『歴史』を取り上げるなら、中国の部分で司馬遷と「世界史」としての『史記』を取り上げても良かったのではないかと思うが…
読了日:05月08日 著者:藤井 崇,宮嵜 麻子,宮宅 潔

五日市憲法 (岩波新書)五日市憲法 (岩波新書)感想
五日市憲法の紹介とともに、著者による旧家の土蔵からの発見の経緯、そして起草者千葉卓三郎の人物像の掘り起こし、その千葉の家を受け継いだ子孫との対面の話が面白い。著者の指導教授色川大吉の、千葉の履歴書が発見された際の「それをそのまま鵜呑みにしてよいのか」「この履歴書が出てきたことで君の卒論は砂上の楼閣に終わった」という厳しい指摘や指導も印象に残る。大学四年の夏休みから始まる一人の研究者のライフヒストリーとしても読める内容になっている。
読了日:05月09日 著者:新井 勝紘

中国の世界遺産を旅する - 響き合う歴史と文化 (中公新書ラクレ 623)中国の世界遺産を旅する - 響き合う歴史と文化 (中公新書ラクレ 623)感想
殷墟、曲阜の孔子廟、兵馬俑と始皇帝陵、万里の長城など、著者が探訪した7つの中国の世界遺産を紹介。文化遺産のガイドとともに、関連する出土文献の引用、慕田峪長城の山腹に「大地スローガン」が見えるなど、遺産の「今」についても触れており、面白い読み物となっている。
読了日:05月11日 著者:湯浅 邦弘

初学者のための 中国古典文献入門 (ちくま学芸文庫)初学者のための 中国古典文献入門 (ちくま学芸文庫)感想
版本・目録学、避諱、反切など、漢籍を読み、扱ううえでの基礎的な知識がコンパクトにまとめられている。現代中国の図書分類やヨーロッパでの漢籍目録について触れているのは珍しいように思う。欲を言えば、工具書・入門書については今回の文庫化を機に初版刊行後に出たものも紹介してくれるとなお良かった。偽書の部分の『周礼』については、近現代においても西周金文と相互に参照して西周官制の史料として扱われてきたわけで、偽書という結論に変わりはないとしても、もう少し丁寧な解説が必要ではないか。
読了日:05月15日 著者:坂出 祥伸

大人のための社会科 -- 未来を語るために大人のための社会科 -- 未来を語るために感想
経済学・政治学・社会学・歴史学など、社会科学の諸分野(本書では歴史学も社会科学としてとらえている)の研究者による現代社会の問題を考えるためのテキスト。いろんな方向の話題を詰め込んでいるが、各章の内容の連携が取れていると思う。面白かったのは、多数決で何でも決めてしまうことの問題と、民主主義社会においてこそ、理念と現実とのずれを埋めるために運動が必要であるという指摘。
読了日:05月16日 著者:井手 英策,宇野 重規,坂井 豊貴,松沢 裕作

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか八九六四 「天安門事件」は再び起きるか感想
天安門事件の関係者のインタビュー集と見せかけて、そのほかにも中国の「ネットで真実」を知ってしまった人、現在進行形で中国政府と対峙している香港の雨傘運動の関係者や日本のネトウヨと重なる部分が多い香港の親中派、天安門事件の当事者に師事した台湾のヒマワリ学連のメンバーのインタビューも含まれ、天安門事件とは何だったのかを重層的に描き出している。天安門事件そのものはオワコンと化しつつも、天安門事件の反省が台湾で生かされたことが救いになるだろうか…
読了日:05月21日 著者:安田 峰俊

劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』 (文春新書)劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』 (文春新書)感想
劉備の出自など面白いトピックも盛り込まれているが、「劉備と諸葛亮」の評価の話なのか、「カネ勘定」の話なのか、はたまた今でいう少数民族にズームアップした話なのか、いまいち焦点が定まらなかったのが残念。個人的にはカネ勘定の話が面白かったので、曹操・董卓・袁紹・孫権などほかの群雄のカネ勘定も大きく取り上げた続考に期待したい。
読了日:05月24日 著者:柿沼 陽平

埋葬からみた古墳時代: 女性・親族・王権 (歴史文化ライブラリー)埋葬からみた古墳時代: 女性・親族・王権 (歴史文化ライブラリー)感想
従来古墳の被葬者は一人だとされてきたが、調査・研究の進展にともない、二人以上を埋葬する複数埋葬の方が一般的であることがわかってきたという。その古墳の埋葬原理に注目する。複数埋葬ではきょうだい・親子など血縁者をともに葬ることが多く、配偶者は基本的に出身氏族のもとで葬られたことや、王墓の築造地域の移動は「王朝交替」を示すものではなく、王族内の分派活動による政治変動を示しているのではないかという議論が面白い。
読了日:05月26日 著者:清家 章

台湾の若者を知りたい (岩波ジュニア新書)台湾の若者を知りたい (岩波ジュニア新書)感想
台湾の小学生・高校生・大学生の学校生活が具体的にまとめられている。毎年のように変わるという入試制度、2年→1年→4ヶ月と段階的に短縮され、人によっては「時間の無駄」という兵役、その兵役の影響もあって、日本とかなり様相が異なる就職活動、日本人の曖昧な態度に困惑する台湾人の反応などが印象的。菜食主義への配慮、男女平等志向など、細かな文化・習慣に関する情報も盛り込まれている。
読了日:05月28日 著者:水野 俊平

中国抗日ドラマ読本: 意図せざる反日・愛国コメディ (中国ドラマ読本)中国抗日ドラマ読本: 意図せざる反日・愛国コメディ (中国ドラマ読本)感想
日本でも話題になった『抗日奇侠』をはじめとする抗日ドラマ等21作品のレビューを通して、日本人美女将校、謎の覆面、忍者、時代考証を無視した機器類、さりげなく挿入されるエロスとバイオレンス、BL要素、カルト宗教のような日本軍の儀式等々、日々粗製濫造されている抗日ドラマの魅力を紹介する。ガワを抗日劇にしているだけで話の骨組みや作りの雑さが武侠物に似ているというあたりで何となく抗日物が量産されている事情が見えてくる。抗日物に出演する日本人俳優のインタビューも読み応えあり。
読了日:05月31日 著者:岩田 宇伯

ヴィルヘルム2世 - ドイツ帝国と命運を共にした「国民皇帝」 (中公新書)ヴィルヘルム2世 - ドイツ帝国と命運を共にした「国民皇帝」 (中公新書)感想
ヴィルヘルム2世をドイツが国家連合から統一国民国家へと変わっていく過渡期の「国民皇帝」として位置づけ、大衆政治の時代に絶対君主として振る舞おうとしたその矛盾多き生涯を描く。彼の失言・舌禍のメカニズムや、普段大言壮語をしておきながら肝心なところで優柔不断、呑みこみが速く弁舌も巧みで自らの才を恃むが集中力に欠けるという性格を見ていると、現代の政財界にもミニ・ヴィルヘルム2世と言うべき指導者がたくさんいるのではないかと思えてくる。
読了日:05月31日 著者:竹中 亨

コメント
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