博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『三国志演義の世界 増補版』

2010年06月23日 | 中国学書籍
金文京『三国志演義の世界 増補版』(東方書店、2010年5月)

あの『三国志演義の世界』が17年の月日を経て復刊!しかも増補版!ということで、前の版を持っているにも関わらず買ってしまいました(^^;) しかし前の版と比べて随分分厚くなりましたね。

この本が出てから『三国志』ファンの間ではすっかり「正史>演義」という図式が定着し、演義ではなく正史の記述に則って『三国志』の人物や事件を語るのが当たり前という風潮になってしまいました。そんな中でこの本が復刊されたのは、「お前ら、ええからもう一度ちゃんと『演義』を読め!!」という神託なのかもかもしれません。

本書を読めば、正史から『演義』に至るまでは様々な紆余曲折があり、「『演義』は正史をもとに書かれた」と、一言で片付けられるほど単純なものではないということが了解されるはずです。(本書の解説に沿って言うと、『三国志』に関する史話は既に三国時代からフリーダムな展開を開始し、明清あたりで「これではいかん」と正史の記述に沿ってタガをはめ、『演義』が出来上がったが、それでもなおフリーダムな部分が多々残ったということになりましょうか。)

『演義』の創作ということで片付けられがちな桃園の誓いにしても、『演義』以前に既にそのエピソードは存在しており、歴史的事実ではないにしても三国志史話として一定の伝統を有するということで、尊重されてしかるべきものなのであります。正史偏重の流れが出て来てもう随分とたちますし、そろそろ違う流れが出て来てもいいんじゃないかと思うのですが……

で、今回の増補版では最終章として「東アジアの『三国志演義』」が新たに書き下ろされ、朝鮮や日本での『演義』の受容について論じられていますが、朝鮮王朝においては日本による朝鮮出兵の後に明朝から関帝信仰が押しつけられたが、関羽の地位が朝鮮国王より上の皇帝待遇ということで扱いに困ったとか、朝鮮ではそのせいもあって関羽にあてつけるように趙雲が大人気といった話が面白かったですね。
コメント (2)
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