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マイケル・サンデル教授 韓国での受け止められ方

2010年11月14日 22時16分29秒 | 韓国

 少し古い話になるが、NHK教育で「ハーバード白熱教室」なる番組をやっていた。ハーバード大学でも圧倒的な人気を誇る政治哲学者、マイケル・サンデル教授の講義をテレビで見られるようにしたものである。これがかなり面白く、私も毎回見ていた。教育テレビとしては久々のヒット作だと思う。一般の日本人にはあまり馴染みのない政治哲学という学問が知られる契機にもなった。これを書籍化した「これから正義の話をしよう」という本もベストセラーになっているようで、値段はちょっと高いが、いつか読んでみたい。
 サンデル教授の本は日本だけでなく、韓国でもベストセラーだそうだ。ところが、その人気の訳が、日本と韓国では異なっているらしい。少し前のことになるが、毎日新聞の記事(9月19日)でそのことについて述べられていた。以下がその抜粋である。

反射鏡:サンデル教授に触発された日韓反応の対照=論説委員・中島哲夫
 米ハーバード大学で約30年、「正義」をテーマに政治哲学を講義してきたマイケル・サンデル教授のことである。
 その授業を放映したNHKの「ハーバード白熱教室」が評判になり、教授の著書「これからの『正義』の話をしよう」 (早川書房)はベストセラー、東京大学での特別講義も白熱して、すっかり時の人になった。
 あまり知られていない事実だと思うが、教授のこの著書は偶然にも、日韓ほとんど同時に翻訳出版された。 韓国側の題名は「正義とは何か」である。
<中略>
 こうした隣国での動向を私は最近まで全く知らなかった。日韓間の人の往来は激増し、 お互いのニュースを知る機会も増えたが、伝わる情報の幅と深みは十分でない。 サンデル教授に関する社会的反応が日韓で大きく違うことも、さほど知られてはいないだろう。
 日本での最大の関心は、教授の講義の抜群の面白さにある。ネット上では授業の手法についての 話題が目につく。正義を論じた書物に触発されて、身近な問題を一緒に議論してみようという動きもあるようだ。 そして研究者からは、行き過ぎた市場主義の弊害を道徳的観点から批判するサンデル教授の哲学を、 日本の格差問題への対処に活用できるといった声も出ている。しかし、こうした意見が具体的な政策論争に 直接反映される兆しは、今のところ見えない。
 韓国ではどうか。李明博(イミョンバク)大統領は8月初めの休暇中に教授の著書を読んだという。 それとは直接関係なく以前から温めていた構想らしいが、同月15日の演説で「公正な社会」の実現という 政策目標を打ち出した。「敗者が再起でき、勝者が独り勝ちしない社会」といった概念で、 市場主義の冷酷な面を修正する狙いを含んでいる。教授の正義論と重なるところがある。
 しかし李大統領の目標達成は容易ではあるまい。今の韓国は優良企業が国際的に大躍進する一方、競争と格差は日本より厳しいように見える。「公正な社会ではない」という国民の不満が「爆発寸前」なのだと、 韓国では著名な女性コラムニストが最近の新聞に書いている。
 しかも韓国社会の政治的亀裂は深く、鋭い対立が避けられない。野党勢力の相当数が「サンデル旋風」を 政権批判の武器にしている。訪韓した教授が著書の売れ行き好調の背景について「正義に関する幅広い 論議への渇望があるようだ」と語ると、ネット上には「教授は李明博政権を不道徳と診断した」という我田引水の書き込みが出た。
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284851548/

 なるほど、いかにも韓国だ。というか、あまりにも韓国的な反応である。つまり、サンデルを「正義」とし、それに対して市場主義の政権与党を「悪」としたいらしい。サンデル教授の講義の仕方を見ていれば分かるが、彼は自分が「正義」として扱われることなど、望んでいるわけじゃないだろう。決して個人崇拝ではなくて、何が正義なのかもっと活発に議論をしてほしい、ということだと思う。物事を多面的にとらえ、様々な角度から論理的な議論を尽くす、ということが肝要なのであり、韓国人が最も苦手とすることではないだろうか。韓国人がそのことに全く気づかないとすれば、残念なことである。

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