去年韓国で大ヒットしたという映画「トンマッコルへようこそ」を見た。昨日見に行ったので、封切りされた初日である。朝鮮戦争のまっただ中、アメリカ兵一人と韓国兵二人と北朝鮮兵三人が、江原道の山中にある小さな村「トンマッコル」に迷い込み、初めは互いに敵視しながらも徐々に心を通わせていく、とうストーリーだ。
エンターテイメント性はかなり高い。最初から最後まで決して飽きさせない作りになっている。特に、軍人たちの緊迫ぶりと、村人たちの底抜けな善良さや素朴さの対比が、非常に面白かった。シン・ハギュンのクールさ、カン・ヘジョンの不思議少女ぶりも良い。久石譲の音楽も、映画の雰囲気によく合っている。とはいえ、「感動」とまではいかなかった。娯楽性は高いが、感情移入できるほどではなかったということである。朝鮮半島の運命についての映画でもあるので、やはり当事者である韓国人の方が感動できるということだろう。
私が印象に残っているのは、韓国軍兵士が村に着いた明くる日、彼らの一人に村人が質問するシーンである。「戦争をしているだと? どこが攻めてきたんだ? ウェノム(日本人に対する蔑称)か? テノム(中国人に対する蔑称)か?」「いや、そうではなくて・・・。とにかく我々国軍と、北の傀儡軍が戦ってるんだ」「じゃあスミス(アメリカ人)はお前達の味方なのか?」「・・・・・(答えに窮する)」
このやりとりで、3つのことが分かる。第一は、昔ながらの素朴な韓民族の村において、同じ民族同士の争いを語ることの滑稽さである。韓民族は本来トンマッコルの人々のように暮らしてきたはずで、それがなぜ自民族同士で殺し合わなければならないのか、ということだろう。第2は、韓国では今でも映画などで堂々と差別用語を使える、ということである。(^^)他にも、「ミッチンニョン(気の狂ったアマ)」とかもあった。字幕では「バカ女」となっていたが。第3は、韓国人にとってアメリカが「味方」と言い切れなくなった現在の状況を表している、ということだ。少なくとも朝鮮戦争当時は明確な味方であったはずだが、今はそう言い切れなくなっている。
ヒットする映画というのは、その国、その時代の様相を映し出すものだが、この映画も現代韓国の雰囲気を表しているということだ。実際、韓国で世論調査をすると、朝鮮半島における最大の不安定要因はアメリカである、という声が最も多いそうだ。日本人からすると信じがたいが、韓国にはそういう雰囲気が少なくとも去年まではあった。アメリカ軍の攻撃から村を守ろうと南北の兵士が団結する、という最後の場面も、それが関係しているのだろう。
しかし、「トンマッコルへようこそ」は去年の映画である。今年に入ってからは、韓国の雰囲気も微妙に変わってきた。もちろん、北朝鮮によるミサイル発射と核実験による影響だ。太陽政策を推進してきたノ・ムヒョン政権への支持率は超低空飛行となり、閣僚も次々と辞任している状況だ。実際、8月には私自身が反北デモをソウル市街で目にした。もし去年ではなく今の韓国で「トンマッコルへようこそ」が公開されたとしたら、はたして去年と変わらず韓国人の共感を得ることができるだろうか?