http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702303747904579255230125681614.html
北朝鮮は13日の早朝、金正恩第1書記の叔父で同国の実質ナンバーツーだった張成沢・前国防委員会副委員長(67)を処刑したことを明らかにした。北朝鮮の国営メディアは2700文字を超える公式文書を読み上げ、処刑の理由について詳細に説明した。この文書は北朝鮮の治安機関、国家安全保衛部が12日に開いた特別軍事裁判で明らかにしたものだという。
文書の要点は以下の通り。
――張氏は「朝鮮労働党と国家における最高位の権力を掌握するという野望のもと、あらゆる種類の陰謀と卑劣な手段を使い、国家転覆を謀るという憎むべき罪を犯した」
――「
犬にも劣る見下げ果てた人間のクズの張は、党と指導者から受けた温かな父性愛と深い信頼に対し、背信行為で報いるという非常に忌むべき罪を犯した」
――金正恩氏が党中央軍事委員会の副委員長に選出された際、「彼(張)はしぶしぶ起立し、うわの空で拍手をするという非常に無礼で横柄な態度をとり、軍関係者と国民の激しい怒りを買った」
――「張は敵から買収されている若者の脱党者や反逆者のグループの一員となることで、北朝鮮の青年運動に深刻な害を及ぼした。そういう若者が明らかになり、党による断固とした粛正が行われた後でさえも、彼はそうした手先を援助し、党や国家の組織の中で重要な地位につかせた」
――「彼は自身が率いる政治組織の部下を大きく増やすことで国事のすべてを掌握し、行政当局や国家機関へ触手を伸ばすことに躍起になっていた」
――「彼はひどく無分別だったため、金日成氏と金正日氏を描いたモザイク画と、彼らによって与えられた導きを示すための記念碑を大同江タイル工場が建てることを妨害した。さらに言えば、彼は朝鮮人民内務軍の部隊宛てに送られた金正恩氏の直筆の手紙を天然の御影石に刻み、それを司令部の建物の前に設置してほしいという、部隊の兵士全員からの要望をはねつけた。彼はそれを日の当たらない片隅に設置するよう指示するほど無神経だった」
――「党と国家で最高位の地位につくため、まず首相になるという空想を夢見て、内閣を不能に陥らせるために、主要な経済分野を自身が率いる政治組織に掌握させた。こうしたやり方で北朝鮮の経済と国民の生活を手に負えない破滅的状況に追い込んだ」
――「権力を乱用し、金日成氏と金正日氏が設立した首都の建設に関わる業務システムを弱体化させた。このため建築資材が減り、数年でがれき同然になるようなひどいありさまになった」
――「彼は自分の言いなりになる人に、
石炭や他の貴重な地下資源を手当たり次第に売るよう指示した。その結果、彼の友人たちは莫大な負債を背負わされ、ブローカーに騙されることになった」
――「張は、そうした債務の返済を口実に、羅先経済特区の土地を外国に50年の期限付きで売却した昨年5月の背信行為について、良心の呵責もなかった」
――「2009年に無謀にも数千億ウォンもの紙幣を発行し、深刻な経済の混乱と国民の不安を招いた裏切り者の朴南基の背後で糸を引いていたのはまさしく張だった」
――「張は自身の政治的欲望を満足させるために必要な資金の確保を目的に、さまざまな口実の下でせっせと資金作りに励み、不正行為や汚職に手を染めた。彼はこうして私たちの社会に怠惰で無関心かつ規律のないウイルスを率先して広める役割を果たした」
――「彼は秘密の組織を立ち上げ、銀行から巨額の資金を得て、国の法律を無視して
レアメタルを購入した。彼はこうして国の財政管理システムに大きな混乱をもたらすという国家反逆罪をはたらいた」
――「彼は2009年以降、あらゆる種類のポルノ写真を仲間に配り、
退廃的な資本主義者のライフスタイルを私たちの社会に持ち込んだ。彼は自堕落で腐敗した生活を送り、行く先々で浪費した」
――「彼は2009年だけでも、少なくとも460万ユーロ(約6億6000万円)を秘密口座から引き出し、外国のカジノで浪費した」
――「張は権力に対する欲望に見境がなかったため、軍隊を動員すればクーデターを仕組むことに成功するだろうとの愚かな計算から、人民軍にさえその触手をしつこく伸ばした」
公式文書は次の言葉で結ばれている。
国家安全保衛部による特別軍事裁判は、観念的に敵と自分を連携させることによって国民の権力を破壊しようとした張容疑者による国家転覆の試みは朝鮮民主主義共和国の刑法第60条が規定する罪に相当することを確認し、革命と国民の名において、彼を不道徳な政治家であり、詐欺師かつ裏切り者として激しく非難し、彼を死刑に処することを決定した。
この裁決は直ちに執行された。
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ずいぶんと長い記事であるが、大変興味深いので全文を上に引用した。
北朝鮮のナンバー2であった張成沢までもがあっさりと処刑されるという事態は、あの国で何かが起きていることを確実に示している。しかし、それが何なのか、はっきり見えてはこない。北朝鮮という国は情報が少なすぎて、何とも判断するのが難しい。
かの国の表向きのトップはカリアゲ君であるものの、彼は神輿に担がれてるだけで、事実上の権力を持っている者が別にいる可能性もある。何の知識も無さそうなカリアゲ君に最高指導者(しかも独裁の)が務まるほど、北朝鮮が置かれている状況は甘くはない。そう考えると、カリアゲ君を担ぎながら裏で仕切っている者(単数もしくは複数)が存在する可能性は、低くないと思う。今回の張成沢処刑も、その連中が仕組んだことなのかもしれない。
北朝鮮内部の動きに関する数少ない情報の中でも、上の記事(北朝鮮国営メディアによる発表)は多くのことを示唆しているように感じる。そこで、この記事の裏から読み取れそうな「真相」を、私の独断で解釈してみた。法治主義の「ほ」の字も存在しないであろう北朝鮮による発表など、額面どおり受けとることはできないので、その中で何となくうっすらと見えてきそうな事実を推測するしかない。
おそらく、張成沢(及びその部下)は中国との結びつきを強め、
北朝鮮版の「改革開放」をやろうとしていたのではないか、と思う。中国でいえば、文革が終わって80年代辺りから小平が推し進め、現在に至るまで続く「社会主義市場経済」というやつだ。まずは中国との交易(石炭を輸出し、レアメタルを輸入)を手始めに、外国との取り引きを活発化させようとしていたのではないか。おそらく張成沢はそうするしか北朝鮮が生きていく道はないと考えており、それは中国の思惑とも一致していた。
しかし、そういった思惑と真っ向から対立していたのが、カリアゲ君を担ぎ、歴代の金豚王朝を支えてきた連中だった、ということではないか。北朝鮮を少しでも自由化させれば、外国からの情報も容易に入ってきて、金豚王朝の崩壊につながる、と彼らは考えていたのかもしれない。それに万が一、張成沢の一派が北朝鮮の経済再建に成功してしまえば、3代目金豚であるカリアゲ君の威光はさらに落ち、勢力を強めた張成沢一派が代わりに事実上の権力をうばう可能性がある、と思ったのではないか。そこで、歴代金豚王朝による無能な支配に疑問を感じ、経済改革(市場経済化)を支持する者たちへの見せしめとして、張成沢を処刑する必要にかられた、ということではないだろうか。
<2013年12月30日 追記>
カリアゲ君は、自国内で「中国も敵視すべし」という教育を始めたようである。中国が、兄であるマサオ君を北朝鮮支配者として擁立しようと画策していることに気付いたらしい。それで、中国との結びつきが強い張成沢を処刑したということか。もしかして張成沢としては、マサオ君の方が北朝鮮指導者としてふさわしい、と本当に考えていたのかもしれない。そのことをカリアゲ君に気付かれたのか。