Willow's Island

since 2005

魂の燃やし方

2019年07月31日 05時37分37秒 | 

 先日は長女の誕生日(11歳)だったため、本を2冊プレゼントした。そのうちの1冊が、今人気となっている「失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!」という本である。世界中の様々な偉人が、実は失敗を繰り返していたことを子どもに紹介し、生き方についてアドバイスをする、という内容である。私も読んでみたのだが、本当に出版社からのメッセージにあるように「子どもの心に本音で響く言葉に定評のある大野正人さんの文章が、優しく刺さってくる」のだ。
 特にこの中で、黒澤明監督についての文が、私の心にもろ直球で突き刺さった。子供向けの本だというのに、目から涙が出ることを抑えられなかった。私も日々の仕事のことで、心に抱えていたものがあったのかもしれない。長くなってしまうが、その部分を以下に引用する。


・・・また、黒澤は言います。
「愚劣なものがはびこれば、選択する力は落ちる。そうなると良い才能が育たない」
 愚劣とは、バカらしくは何の価値もないこと。愚劣な作品ばかり見て育った人は、どれだけ才能があっても、良い作品を作ることができない。だから黒澤は自分のためだけでなく、未来の映画界のためにも、良い作品を作り続けたのです。
 だから、みんなも名作と呼ばれる作品を、できるだけたくさん観ておきましょう。これは、物を作る仕事だけでなく、あらゆる仕事をする上で、必ずプラスになります。
 名作には、作り手たちの「たましい」がこめられています。このような作品に数多くふれておくと、自分が何かしなければいけないとき、これまで観てきた名作たちが、自分のたましいのもやし方を感覚で教えてくれます。
 自分が心から楽しめ、さらに人から認められるような仕事ができるかどうかは、このたましいをもやす感覚を持っているかいないかで、大きく変わります。

 今は、わからないかもしれません。でも、この言葉の意味は、しょうらいきっとわかるようになるので、心のかたすみに残しておいてください。


モーリー・ロバートソン 「よくひとりぼっちだった」

2019年02月04日 06時24分09秒 | 

 最近はインテリ外国人の代表格としてテレビで出ることの多いモーリー・ロバートソン氏だが、有名になったのはわりと最近だったと思う。私は彼のことを30年ほど前から知っている。高校生の時に図書館で彼の著書「よくひとりぼっちだった」を読んだからだ。今はすっかりハゲ親父であるが、上の写真を見てわかるとおり、若い頃はなかなかのイケメンだったのだ。
 この本を読めばわかるが、彼は大学に入るまで日本とアメリカでそれぞれ半分ずつ学校教育を受けており、両方の国で辛い思いをしてきたようだ。 日本の初等教育・中等教育も色々言われてはいるが、アメリカよりはまともなんだなあ、と言うことがよくわかる 。というより、アメリカでは日本で言うところの文部科学省の縛りというものが非常にゆるいので、学校ごとの差がめちゃくちゃ大きいのかもしれない。良く言えば自由ということなのだが、良い教育を受けられるかどうかはその人の運と家庭環境次第ということも言える。学校を選択できる幅は、日本よりはるかに大きいようだ。つまり「勉強がやりたければ、いくらでも機会を与えるよ。嫌ならやらなくてもいいけど。その代わり、結果責任は自分で負ってね。」というわけである。これを読んだ高校生の当時、やっぱりアメリカはドライなんだなあ、と感じたのを覚えている。
 ただし、読み物としてはものすごく面白かった。現在は国際政治のご意見番とも言える存在になったモーリー・ロバートソンが、どのように10代を過ごし、成長していったのかもよくわかる。
 この「よくひとりぼっちだった」は、今は絶版となっており買おうとすれば高くつくが、各地域の図書館にはまだ閉架に置いてあるんじゃないかと思う。日本とアメリカの教育に対する考え方の大きな違いを知る上でも、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。

谷崎光「日本人の値段: 中国に買われたエリート技術者たち」

2018年11月04日 11時10分01秒 | 

 谷崎光の「日本人の値段」という本を読んだ。中国の大企業に雇われた多くの日本人技術者達にインタビューし、中国企業の現状、実態、そして日本企業の問題点などを明らかにしたノンフィクションである。
 谷崎光という作家は親中反日的な傾向があると思ってきたが、この本を読んで決してそういうわけでもないと思い直した。北京での居住歴が長く、中国の実態をよく知る者として、日本の技術が流出することを真剣に問題視しているようだ。
 これは確かに深刻な問題である。 国土が狭く中国に比べれば人口は少ない日本画ここまで国力を維持できたのは、技術があるからに他ならない。その技術が規模で圧倒的に勝る中国に吸収されてしまうと、どうなるか。この本は重大な問題提起をしている。
 以下の太字の部分は、この本の中で特に印象に残った部分をそのまま引用したものである。かなり長い引用になってしまったが、読んでいただきたい。

P139~141
(若い中国人ヘッドハンターの言葉→)「韓国人は中国人の考えてることが直接に掴めるから、韓国の家電、テレビ、携帯も中国でよく売れている。日本製品は相変わらずいいよ。だけど社長とか全然グローバルじゃない。経営能力が低い。あの古さと閉鎖性、尋常じゃないよ。若いやつ、全部排斥される。だからマーケティングの人がダメ。世界に対する影響がダメ。グローバル企業が世界向けの営業を探す時、日本人は探さない。韓国人なんだよ。日本がもう30年前の栄光に戻ることは、まずないと思っている。」
 私は別に日本がバブルの時代に戻らなくてもいいが、貧しくなるのは心底嫌である。国が貧しいというのは、自分の知人が病気で医者にかかれず死んでいく、女性が身を売る、争いが増える、人の動物性がむき出しになることである。中国に来てよくわかった。
 若者がいくら「私は好きなことをしてローペースでエコに暮らす」と言っても、それこそが一番贅沢なこと。昔から実業家の三代目とかがそうだったではないか。国が貧しいほど、今日に追われて夢物語になる。
 しかし優秀な人の大半が、入社後に「退行」していくのが今の日本の一流企業である。昔と違い価値を生み出すのではなく、危険を守ることや管理が仕事になっているうちに、実力をなくすのである。人生を社内政治に費やして、上がるのは仕事の技術ではなく派閥技術や社内遊泳技術だけになる人も多い。社外に移転のきかない技術である。
 高給で働いていないオジサンがこんなにも多い民間会社は、他国には存在しない。ニッポンのため働いて欲しい。日本の会社員は、業務の責任感は強いしモラルも高い。みんなが本気で力を発揮すれば、日本の景気問題なんてあっという間に解決する。

P188~189
 さて私はもう中国に暮らして、14年目になる。そんな私がもし「中国が狙う日本の技術は何ですか」と聞かれたとしたら、「まず一つはありとあらゆる技術」と答える。
 正直言って、毎日使うボールペン一本から、タオル一枚、マンション、建築、ありとあらゆる素材、ボンドひとつの品質、車、飛行機に至るまで、日本の技術を超えるものは何一つない。世界ナンバーワンの生産量を誇るメイドインチャイナも増えてきたが、それと品質ナンバーワンは別である。マクドナルドのハンバーガーは世界で一番売れているが、世界で一番美味しいわけではない。
 日本人は欧米、日本などの外資が中国で製造した中国製や、その外資が育てた委託の工場を利用した中国メーカーの商品を見て、中国製も今は良くなったと思っているかもしれない。
 が、実際は乾電池一つでも、中国人たちが自分でラインを組み、自分で開発した中国ローカルのものは非常に品質が悪い。大メーカーの乾電池でも電圧が弱く、液漏れが多発する。しかも値段は日本より高い。
 日本に輸出されている乾電池は、日本のメーカーが工場の生産ラインごと中国に持ち込んで生産している。技術とは設計図やひとつの工程の特殊な作業だけではなく、総合力が必要で、つまりこれが生産技術である。日本はこれが強い。
 北京の清華大学科学技術担当の教授に「今、中国が一番必要な技術は何でしょう」と聞いたら、「中国はどの分野でも、どのレベルでも必要な技術だらけだ」と渋い表情だった。だから中国に工場を作れば、ありとあらゆる技術が流出する。もちろん日本でも価値がない技術もあるだろうし、守るべき技術もある。
 中国からすれば、技術を盗めば開発費をかけずに「安いが適当」から「安いが結構良い」商品を製造することができるようになる。ワーカーの人件費や電力などはまだ日本より安い。それで技術研究費開発費がゼロなら、日本は勝ち目がなくなる。

P219(最終頁)
 日本はいつの時代も、名もない無数の優秀な人々が支えてきた国である。中国のように一部の優秀な暴君の、強力なトップダウンでやってきた国ではない。そしてこの島国の人々は、創意工夫に長け、もの作りが大好きだった。
 明治の時代、日本人はその技術力で植民地化を逃れ、また戦後は技術力で奇跡の復興を果たした。餓えのない、人が争わない犯罪者の少ない国を作ってきた。
 今、その日本の技術力が狙われている。


犬山のすごい古本屋

2018年09月17日 11時24分02秒 | 

 以前、犬山駅の西口方面を車で通りかかった時に、偶然見つけた古本屋があった。随分小さな古本屋のようだったが、初めて見るので、いつかは尋ねてみようと思ったのだ。それで昨日、ようやく時間が取れたので初めて訪ねてみた。それが「五つ葉文庫」というギャラリーと一緒になった古書店である。
http://www.kiwamari.net/about/index.htm (五つ葉文庫ホームページ)
 店舗の中は、私が予想した以上の素晴らしい品揃えだった。道路に面した所に置かれた棚では一冊50円、5冊で200円の本がたくさん並べてあった。どれもいい意味で非常に古く、面白そうな本が多かった。非常にお買い得である。
 中に入ると、もっとマニアックな本が所狭しと並べられていた。今となっては絶版で手に入らないものも多い。そういうものは少し高いが、それでも500円ぐらいなので30年、40年前の珍しい本が容易に手に入るということだ。これは BOOKOFF では絶対にありえないだろう。
 こんないい 古本屋を今まで見過ごしていたとは、ちょっともったいない気がする。店主もかなり、個性的な人物とお見受けした。2階はギャラリーになっているというので、これも見てみたが、何ともコメントしづらいものがあった(リンク先のホームページを参照)。築100年以上経っている建物を利用したということだが、正直言ってギャラリーの作品がどうこうよりも、ただなんだか「怖い」と感じた。しかし本に関しては面白いものばかりが置いてあるので、時間がある時にもっとじっくり見ようと思う。

 しかし、面白い古本屋はなんとこれだけじゃなかった。五つ葉文庫で本を買い終わり、犬山駅方面に歩いて行くと、寂れた感じの商店街で、もう一軒の古本屋を見つけたのである。目立った看板がないが、椙山書店という名前らしい。
http://www.ma.ccnw.ne.jp/furuhon/ (椙山書店ホームページ)
 「おっ」と思って中に入ると、店舗の横幅こそ小さいもの、随分と奥行きのある古本屋であった。店の外見とは裏腹に、長く奥行きのある本棚には上から下までびっしりと本が詰まっていた。なんとここも、ブックオフなどでは扱わないであろう20年、30年前の雑誌がたくさんあるではないか。絶版のものは値段が若干高いが、よく探してみれば安いものも結構たくさんある。 Amazon やヤフーオークションでは1万円を超える金額で取引されるであろう本にもかかわらず、1000円未満で買えるものまであった。
 これは掘り出し物の古本屋である。あまり時間がなかったので、私は目をギラギラさせながら急いで最低限買うべき本だけを選び、買って帰った。じっくりと選べなかったのが残念である。
 家に帰ってからネットで調べてみてわかったのだが、この椙山書店はなんとあの勝川古書センターの後継店であるようだ。勝川古書センターといえば、私が学生の頃(25,6年前)に大学の帰り道に頻繁に寄っていた、春日井の巨大な古本屋である。神田の古書店街を除けば、私が知る限りで最も規模の大きい古本屋であった。もうだいぶ前になくなってしまったことと知っていたが、犬山の店舗で引き継がれていたとは、全く知らなかった。しかも、2005年からだ。13年も前である。私は犬山の隣町、可児市に移り住んでから9年も経つのだが、今の今まで知らなかったとは衝撃である。なぜ今まで気づかなかったのだろうか。本当に悔やまれる。
 次こそはじっくりと見て回りたいが、営業時間は正午から夕方の6時までだけのようだ。これでは仕事帰りに寄ることもできない。私の場合、休日も基本的には自由時間が少ないため、何とかして手立てを考えなければならない。

画本 西遊記

2018年09月15日 04時01分20秒 | 

 アマゾンの古本で「画本西遊記」の第4巻が安く売られていたので、買ってみた。このカ画本シリーズでは西遊記だけでなく、水滸伝、三国志、紅楼夢など中国の古典が1ページにあたり2枚の中国風イラストで 描かれたものである。私が小学生の頃は図書館でよく見られていた。最近は全く図書館でも見かけることがなくなったので、懐かしくなり読んでみたくなったのである。
 とにかくイラストがふんだんに使われている本なのだが、この画風が非常に中国的で、日本にはないセンスがある。当時は本自体にも何やら不思議な匂いがしていた。いかにも外国から来た、という感じである。
 画本シリーズはは水滸伝や紅楼夢なども読んだが、やはり西遊記が一番面白い。想像力に溢れる作品なので、絵にするには最もふさわしい。今思えば 、西遊記は典型的なファンタジー小説だ。ヨーロッパでは指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)などに代表されるファンタジー小説の中国版が、まさに西遊記という感じだ。 封神演義などと合わせて「チャイニーズ・ファンタジー」という分野があってもいいのではないか、と思える。
 ところでこの画本シリーズなのだが、不思議なことに日本人の翻訳者の名前しか乗っておらず、これを誰が書いたのか全く不明なのである。西遊記の原作者は呉承恩なのだが、本に収められている大量のイラストを書いたのは一体誰なのか、どこにも書いていない。そもそも、この本はどこから輸入されたものなのだろうか。
 今まで全く知らずに来たが、本の目次のあたりをよく見ると、Sun Ya Publicationsという会社が版権を持っているらしい。このSun Ya Publicationsというのはどういう会社なのか調べてみたところ、どうやら香港の出版社のようだ。現在でも児童向けの書籍をたくさん発行しているようである。
 イラストがあまりにもベタに中国的なので、てっきり大陸中国で作られたものだと思っていたが、香港というのはちょっと意外だった。確かに考えてみれば この本が発行されたのは1982年なので、経済的にボロボロだった当時の中国がこれほど豪華な本を出せるわけがないか。
 それにしてもイラストの画家の名前ぐらい書けばいいのに、それが全くないというのは不思議である。

生贄投票

2018年09月13日 00時29分51秒 | 

 先日ゲオのコミックレンタルで、「生贄投票」という漫画を借りてみた。読んでいる間はずっとヒリヒリした感覚を味わい、読み終わった後も後味が非常に悪いと感じた。しかし、止まることなく一気に読み終えてしまったのである。ということは、やっぱりこれは非常に面白い漫画だと言える。読んだのは一巻だけだが、早く続きを読みたいと思っている。
 他の人はこの漫画をどう感じているだろうかと思い、 Amazonでレビューを読んでみたのだが、評価はあまりにも悪いものであった。ほとんどのレビューは、この作品を散々に貶していた。それなりに面白い漫画なのになぜこれほど厳しい意見ばかりなのだろうか。
 思うに、この漫画は読者を含めた人間の持ついやらしさというものを、容赦なくさらけ出すからではないかと思う。読み進めるうちに「こいつが生贄になればいいのにな」などと読者が思った時に、ちょうどそのキャラクターが本当に生贄になるのだ。それがスクールカースト上位の人気者であったり、性格の悪いゲスなオタクキャラだったりする。
 この作品の冒頭1ページ目にも書いてある通り、読者こそがまさに「怪物」である、と思い知らされるのだ。それを知らされる多くの読者は不快感しか感じないため、レビューでは低い評価ばかりが集まるということではないか。本当につまらない作品であれば、これほどのレビューが集まることはない。
 私は自分自身がこの作品で言うところの「怪物」だと言うことは重々承知しているので、この漫画に対する不快感というものは感じない。
 ただ、生贄にされたキャラのもつ秘密というのが、性的なものばかりというのは確かにどうかと思う。クラスメイトの全員が性的に特殊な秘密を持っている、というのは確かに無理がある。生贄の暴露シーンは、もうちょっと考えた方がいいかもしれない。

蛭子能収のゆるゆる人生相談

2018年09月10日 22時52分32秒 | 

 最近は蛭子能収さんにはまっている。古本屋で100円で買った「蛭子能収のゆるゆる人生相談」という名の本が声を出して笑えるくらい本当に面白かったのがきっかけだ。今では蛭子さんの書いた本を集めるだけでなく、彼の主演したヤクザ映画「任侠野郎」の DVD まで買ってしまったほどだ (もちろん中古の安いやつだが)。
 最初は蛭子さんに人生相談するやつなんているのか、と思ったのだが、どうやら結構いるらしい。何か面白いといえば、相談に対する蛭子さんの答えが全く役に立っていないのである(笑)。どの答えも「そりゃあんたの場合だけだろう」と言いたくようなものばかりだ 。
 現実的に役に立つ答えというものはないのだが、たまにすごくいいことも言っている。相談する人も本当に役立つ答えを期待しているわけではなく、蛭子さんの特殊なキャラクターに癒されたいと思っているだけなのかもしれない。悩みを解決するというよりも、悩んでいること自体がバカバカしく思えてくる、というわけである。
 これほど特異な考え方や価値観を持っている蛭子さんだが、本人は自分のこと至って普通だと思っているらしい 。そのせいで余計に笑えてくる。
 そんな蛭子さんは、自分なりの確固たる思想というものを持っている。 Wikipedia を見ると、彼の思想が要約されているので、是非読んでいただきたい 。人生相談の回答も、こうした思想をベースにして答えられている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9B%AD%E5%AD%90%E8%83%BD%E5%8F%8E#%E7%99%BA%E8%A8%80%E3%83%BB%E6%80%9D%E6%83%B3
 また、蛭子さんと言えば、数々の伝説が残されているところだ。ネットでは主に否定的に語られるエピソードばかりなのだが、私は 面白いと思っているし、ますます蛭子さんが好きになる。
https://matome.naver.jp/odai/2137136983203416401
 彼のようになりたいとは全く思わないが、この先どのように転んだとしても、人生は何とかなるんじゃないかな、などと思えてくる。本当に不思議な人である。

和歌という日本の伝統

2018年08月18日 21時29分49秒 | 

 娘が図書館から借りてきた「百人一首 人物大辞典」という本を手に取ってみた。百人一首のそれぞれの歌の意味と、背景となった歌人の人生を、美しいイラストとともに解説した本だ。昔から正月などによくやっており耳に馴染んだ百人一首であるが、それぞれの歌の意味や背景を知るのは初めてだった。子ども向けの本とされているが、大人でも十分以上に勉強になる良書だ。
 こうして歌の意味を知ると、百人一首には本当に美しい恋を表現したものが多いと分かる。千年以上も昔の日本で、これほど美しく恋心を表現した歌(短い詩といえる)が、これほどたくさん存在したのだ。今さらになって気づいたが、これは本当にすごいことではないか。百人一首は、日本が世界に誇るべき文化遺産だ。
 同じ時代(千年以上も前)の外国では、これほどの文化があっただろうか? 少なくともヨーロッパは、ここまで進んでいなかっただろう。中国には漢詩はあったが、恋の心情を細やかに歌ったものは少なかったのではないかと思う。
 なお、私が特に気に入った歌は、藤原義孝の

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
(あなたのためなら惜しくなかったこの命 あなたに会えた今となっては 長くあってほしいと思う)

と、右大将道綱母の

嘆きつつ ひとりぬる夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
(嘆きながら一人寝る夜 明けるまでの時間がいかに長いか あなたは知らないのでしょう)

である。

キミのお金はどこに消えるのか

2018年08月15日 06時07分16秒 | 

 「中国嫁日記」で知られる井上純一が描いた本格的な経済学マンガ「キミのお金はどこに消えるのか」を読んでみた。私が古本ではなく新刊を普通に購入するのは、実に久しぶりである(それぐらい早く読みたかった)。
 本家の「中国嫁日記」が最近は少しグダグダになっているのに比べて、この「キミ金」はすごく面白かった。経済学の考え方の一面(あくまでも一面であるが)を楽しく学ぶことができる。なぜ楽しいかといえば、話の内容はすべて、作者の井上氏とその妻である月(ゆえ)さんとの対話によって進められているからだ。この二人のキャラクターが非常に分かりやすく、しかも勢いがあるマンガなので、固くなりがちな経済の話が、すっと入ってくる。これは非常にお薦めの本だ。
 ただ、作者(と、そのブレーン達)の考え方には多少の偏りがあるので、少し注意は必要である。このマンガでは増税することことを、社会から金を吸い上げて経済の流れをストップさせるもの、としか扱っていないが、それはあまりにも単純な捕らえ方では、とも感じた。
 政府は税金を徴収するが、それを政府内に留めておくわけではなく、その金を社会保障など各種行政サービスとして放出させているのであり、社会に還元もしているのである。民間企業が生み出した商品やサービスには対価を払うのが常識であるが、同じように政府という団体が生み出したサービスには対価(つまり税金)を支払う、という考え方だってあるはずだ。それがこの本では完全に無視されている。それから、人口の増減というものがGDPに与える影響をまったく考慮していないのも、気になった。

くじら大吾(復刻版ジャンプ)

2018年06月18日 05時09分12秒 | 

 bookoffでジャンプ創刊号(1968年)の復刻版(昨年発行)が安く買えたので、読んでみた。その中で巻頭カラーだったのが、上の画像にある「くじら大吾」だ。
 「ああ、けたはずれにおもしろい・・・」などと書いてあるが、確かに別の意味で、桁外れに面白かった。絵柄、話の内容、キャラクター、セリフなどが、まさに昭和43年そのものだったからだ(私もまだ生まれてないが)。はっきり言って、現代では色々とやば過ぎて、とてもではないが世に出せるものではない。改めて、50年という歳月は長いと感じる。
 この「くじら大吾」に収録されている素敵なセリフを抜き取り、以下に並べてみた。

高知県の教育委員
かれ(大吾)はすてごですきに 孤児院でつけたなまえですらあ

マリ(財布をすろうとして大吾に止められる不良少女)
フン まっ黒になってはたらくのはごめんさ 黒ン坊のジロー(黒人とのハーフの少年)はおなじだろうけど

春日真澄(国会議員の息子)
ふっふふふ・・・いなか者は単純でしあわせだ。きみ(大吾)は議員になったおやじへのおくりものさ。貧乏孤児院は権力者のごきげんをそんじると えらいことになるからな

春日真澄
ふっふふ・・・もし警察につかまっても事故をおこさぬかぎり おやじがすぐ もらいさげてくれる。なにしろおやじは国会議員だからな。

大吾(主人公)
色は黒くてもジローくんの心の中はまっ白じゃけん!

 こうして並べてみると、なんだか笑えてくる。(^^) まさに昭和40年代だ。
 作者の梅本さちおという作家は知らなかったが、当時は「期待の大型新人」であったようだ。しかし彼の経歴をで調べてみると、まさに不遇としか言いようがなかった。その後何度か作品を発表するものの、どれもすぐに打ち切りになってヒット作と呼べるものはなく、晩年は離婚して仕事も無い状態で、50歳の時にアパートで孤独死してしまったようだ。時代について行くことのできなかった人だったのかもしれない。