旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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歳とぅカーギや なあ前々

2009-11-12 00:20:00 | ノンジャンル
 「へぇっ!1938年生まれですか71歳!へぇっ!お若いですね。どう見ても60代半ばですよ。へぇっ!」
 最高の賛辞のように思うが、こうも「へぇっ!」を連発されると、終いにはおちょくられているようで、いい気分ではいられなくなる。かと言って、いま少し若くありたいと思わないわけでもないから、老齢とはさまざまなことに気をもむ年頃なのだろう。
 “老いぬれば頭は禿げて目はくぼみ 腰は曲がりて足はひょろひょろ”
 戦前の首里の粋人が詠んでいるように、己の老いを狂歌にして開き直ることができればいいが、昨今は無理矢理、前期高齢者・後期高齢者にされてしまい、それと同時に年金・医療等々、都合のよくないことばかりを押しつけられるニッポン国では、健全明朗な洒落唄や狂歌をひねり出す気すら封じ込められている。しかし、年齢は時代によって位置づけがあるように思われる。

 八重山民謡の歌者大工哲弘〈60歳〉の祖母ヘテマさんが還暦を迎えたとき、親戚縁者相集い談合した。
 「ヘテマ婆さんも60の大台。生れ祝い・トゥシビーをするのもこれまでだろう」
 そう結論して、盛大なる祝宴を張った。
 「孫のボクはまだ13か14歳。トゥシビー祝いが済むと、ほんとうに婆ちゃんはあの世に逝くのかなぁと、ちょっと悲しい思いをしながら父善三郎の弾く三線と歌に乗せて、大和流れのはやり唄“書生節”を踊ったことを覚えている。その少年がいま、あの時の婆ちゃんと同じ歳になった。何とも妙な気分になる。これも時代的年齢感覚でしょうね」。
 大工哲弘はしみじみ回顧する。余談になるがこの60男は、12月早々の6日、那覇市民会館で「ゆんたしょうら=八重山の唄を唄い合おうの意」と題する歌会を催す。ここ20年余、全国を飛び回り精力的に歌三線活動をしてきたお陰で同好の士が増え、歌会には全国から80名余が参加して舞台に立つ。【祖母の時代とは異なる60歳】。彼が回顧するのも無理からぬ事だ。ちなみにテヘマさんは、70歳を目前にして逝っている。
 私の場合、昭和25年の寅年、その翌年に急逝した父直實の仕込みにより、13祝いをしてもらった。さすがに25歳、37歳、49歳の生れ年祝いはしてないが、61歳の祝いは息子や孫たちが企画して催してくれた。プレゼントは、プロ野球読売ジャイアンツファンの私のために、背番号61番の付いた手縫いのユニホームだった。



 俗謡ばなし。
男と女がいた。互いに好意を持ち合っていた。男は好意にとどまっていたが、女は結婚すならこの人と決めていた。しかし、運命の悪戯・・・・。戦争のどさくさで4、5年も逢えずにいたが、あるとき偶然に巡り逢った。
 女=これまで達者にしていましたか。男=キミも変わらず、以前のままの若さじゃないか。女=貴女の求愛を当てにして、独身を通してきたのよ。どうしてくれるの。男=恨んでどうする。戦さ世のさだめ。オレはもう結婚した。キミも夫を持つがいい。女=夫を持ちたいと、ひとり気張っても持てるものではないでしょうッ。年を重ねてアタシ、もう30余歳よッ。仕方がないから他の男と結婚しろと言うのッ。男=でもなぁ・・・。女は30過ぎたらもう、選り好みはできない。しなくてもいいサ。爺さんの妻でもいいじゃないか。爺さんなら金で買うこともできるよ。金こそ命!金を貯めなさい。女=買ってまで夫を持つことはないワッ!あゝ、貴女を当てにしてアタシ、嫁に行き損ねたワッ。
 こうした会話が軽快な三線に乗って、一点の暗さもなく明るく歌われているのが「国頭じんとうよう節」。一名「持ちはじき節」。持ちはじき〈むち はじき〉とは、【夫を】持ちそびれた・嫁に行き損ねたの意。「戦さ世」を日米戦争ととらえるか、単に乱世とするか。いずれにしてもこの場合[30歳]という年齢が興味を引く。かつては、30歳は適齢期をとっくに過ぎて、昔風に言えば「行かず後家」「大年増」だろう。だからといって今時、30歳の独身女性にそうでも言おうものならセクシャルハラスメントで、きっちり重罪の刑を打たれるだろう。まして「持ちはじき節」のように、「30過ぎたら、性別さえはっきりしていれば、どんな男でもいいじゃないか。金で買えるよ」などと追い打ちをかけた日には、間違いなく死刑ものだろう。

 「歳とぅカーギや なあ前々=とぅしとぅ カーギや なあ めぇめぇ」という俗語がある。年齢と容姿は、人それぞれ相違がある。それでまたよし!としている。さらに言い加えると「年齢を他人のそれと比べてどうする!容姿を他人と比較してどうする!両者とも異なって当たり前。己の個性を見極め向上させて、男らしく女らしく誇りを持って生きるべし!」と、説いている。さらに先人たちは、うまいことを言っている。
 「胴ぬ歳ぇ 何時ん いい年頃=どぅぬ とぅしぇ いちん いい とぅしぐる」。
 今日現在の自分の歳が、何時も言い年頃とする考え方だ。しかりッ!いきなり20歳になった人はひとりもいない。2、3年で70歳なった御仁もまたいない。








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2 コメント

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Unknown (群馬の山口と申します)
2009-11-17 18:53:34
沖縄芝居塾『ばん』のお稽古にビセカツさんに連れて行ってもらいました。

大工さんの六度めになるゆんたしょうらにはお手伝いで参ります。よろしくお願いいたします。
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Unknown (Ai_Nyai)
2009-11-16 11:05:47
登川誠仁さんのくんじゃんジントヨーしか知らないのですが、本歌にはそんな意味があったんですね.こんどは本歌を練習します.
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