前回は <債権者代位権> とくれば 当然のごとく ? <詐害行為取消権>のお出ましです
債務者の財産を少しでも多く確保するためのものとして 民法は<債権者代位権> と <詐害
行為取消権> の 制度を用意しています
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客であるZに製品を販売し 売掛代金債権を得る業者Yの債権者であるXは もしも
Yの資力が急激に乏しくなっているかもしれないという状況を知ったならば Yの商品
を買い取り 自分を経由して Zに転売するという手法を作ろうとすることがあります
転売という形にしておくだけで 商品はそれまでどおりYからZに届けられる
・・・どうして そのような形が採られるのか ?
XはYに対しての債権と YのXに対する売掛代金債権とを相殺し 他の債権者に抜け
駆け的に債権回収ができることを目論んで そのような形を採ることがあるのです
相殺に適した債務をあえて負うことで 不良債権を優良債権に変えてしまうような法的
効果を作るというようなことです
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相殺は 相殺に適した状態(相殺適状)のときに 一方の相殺の意思表示により生じて
その対当額について その債務を免れることができる
効果は 相殺適状の時点にさかのぼって生じる(相殺適状になった時点で当事者には相
殺の期待が生じるので それ以降 互いに不履行をとがめることはできないこととし遅
延損害金も発生させないのが妥当なので)
(相殺の要件等) ※ 以下 条文に省略もアリ
第五百五条
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期
にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れること
ができる。
(相殺の方法及び効力)
第五百六条
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼ
ってその効力を生ずる。
上の例で
もし 転売という形を採らないままだと 他のYに対する債権者と平等の立場で 原則
どおり(Yに雇用されている者のための先取特権とか 約定で抵当権を持っている融資
銀行とか 国の租税債権とかの優先的なものは別にして)債権者平等の原則での仕組み
による差押え・競売・配当での回収があるだけとなる
さらに 極く厳しい状況だと 無理やりに債務を負うこともあるでしょう
ともかくYから商品を買い受けて引き渡しを受けてしまう
ときには強引にYのところに残っている商品を奪ってきて それをXに売るという契約
をさせる
そのYに対して負った売買代金債務と自分の債権の相殺をし それから商品の転売先を
見つけ 転売できた分だけ債権が回収できるようにしてしまう
こういった形も含む抜け駆け に対しての制度として<詐害行為取消権>があります
おおよそ
破綻が察せられると 債務者は営業資金をナントカ作ろうとして重要な備品を安く処分
してしまったり 財産隠しに出たり 不動産を家族に贈与・名義変更してしまったり
離婚して財産分与ということで配偶者に多額な支払をしたりする なので
債権者にとっては 差押え可能な財産を いかに保全するかが 大きな決め手となる
(詐害行為取消請求)
第四百二十四条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求する
ことができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益
者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、こ
の限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
詐害行為取消権の対象となる相手方は 契約等によって 権利を得た者 です
(債権者代位権の相手は 弁済の義務を負っている者とか解除権行使を受けざるを得ない
ような立場の者ですが)
それを取り消すということなので どういう要件ならそうされても止むを得ないと評価できる
のかが問題となります
債権者代位権 とは異なり 裁判上での取消請求となっています
債権者代位権では できるのにやらないでいる行為を債権者が代わって為すということですが
それとは違って 為した行為を他の人が取消す(介入のレベルが強い)という違いがあるので
より慎重な手続を要することとして 裁判上での取消請求としています
さて 債務者の立場で考えたとき どういった場合なら債権者の介入も止むを得ないだろうと
理解できるでしょうか ?
財産権を目的としないのなら介入できない
その例として 債務者が相続放棄してもその取消しは認められないとされる
自由意思に任せるべき事であるし 財産が増加しないだけのことで減少ということではない
が 離婚による財産分与では その外観をとりながらも不相当過大なものは 取消しの対象
となる
また 債権者を害する行為であって そのことを債務者が知っていたことが要件になる
(債務が3000万円もあるのに4000万円贈与したとしても 財産が2億円あるの
なら残りで債権は回収可能で害することにはならないので その贈与は取消しの対象
とはならない)
では 2億円相当の不動産を売却し 現金に変えるのはどうか
不動産としての存在が現金というものになってしまうのだから 差押えのことを考えると
とても困難なことになってしまうので 総財産額に変わりがなくとも債権者を害するとも
いえる
一部の者への弁済は 義務の履行をするのだし 債務も減るのだから問題なしか?
(弁済のありようでは 他の債権者の回収比率が下がってしまうこともあるので
その場合は 残りの債権者を害しているともいえる)
相当な対価での処分の場合には 財産を金銭に換えて隠そうと債務者が思っていて そのこ
とを相手も知っている場合 や 特定の債権者に対する弁済などは 債権者と通謀して特別
な利益を与えようとするものである場合に限って 取消し可能となっている
(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則) 第四百二十四条の二
(特定の債権者に対する担保の供与等の特則) 第四百二十四条の三
(過大な代物弁済等の特則) 第四百二十四条の四
相手方の立場について(取消されても止むを得ないといえるかは 取消しの相手方は
誰かということとも関係する)は
金銭による弁済 や 債務者が借金を帳消ししたことの場合の相手方は 債務者のし
た法律行為の相手方(受益者)が 取消しの相手方となり その者が債権者が損害を
受けるということを知っていたときにだけ 取消しが認められる《424条の2~4は
要件が加重されている》
(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
第四百二十四条の二
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価
を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、
その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更によ
り、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下こ
の条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿
等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを
知っていたこと。
(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
第四百二十四条の三
債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、
債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をする
ことができる。
一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のう
ち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。
次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われ
たものであること。
(過大な代物弁済等の特則)
第四百二十四条の四
債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為
によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要
件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の
額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。
金銭による弁済 や 債務者が借金を帳消ししたことの場合の相手方の場合ではなく
例えば 土地が不当に廉く売却された場合には その土地を債務者の所有物として回復
して差押えの対象とする必要があるので 現在 それを所有している者を基本的には取
消しの相手方と捉える(債務者からの直接の買主とは限らない)
さらに転売されていることもあり その場合は債務者がした売却行為を取消すとともに
直接の買主を相手に土地の価額の支払を請求していってもよいし 転得者に対して土地の
返還を求めたり土地の価額の支払を請求していっても可
第二目 詐害行為取消権の行使の方法等
(財産の返還又は価額の償還の請求)
第四百二十四条の六
債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しととも
に、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がそ
の財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求すること
ができる。
2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しと
ともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還
をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
けれど
転得者を相手にする場合は 債務者の行為が債権者を害するものであったことについて
転得者が悪意であったことが必要となるし 再転得者がいてその者に取消権を行使する
場合は双方が悪意でなければならない(取消しの相手方の前に登場の者全員の悪意が要件
となる 取消しをされた者は自分に売った者に損害賠償をしていくので 悪意では
ない者に賠償責任を負わせることは取引の安全を害してしまうので 取消しの相手方より
も前の者全員の悪意が要求されている ← 改正でハッキリとされた)
悪意の立証責任は 取消しをする債権者に課されます
(転得者に対する詐害行為取消請求)
第四百二十四条の五
債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者
に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当
該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることがで
きる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務
者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得
した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害する
ことを知っていたとき。
前回の<債権者代位権>は 事実上 優先弁済を受けるための手段として行使される
こともあると説明される では <詐害行為取消権>は どうなのか ?
結論を先に記しておくと 現実には 同様の状況といえる
[取消された法律行為によって給付されていたものが 金銭 の場合]
〔特定の債権者にだけ弁済した場合を考える〕
取消しを訴訟上為した債権者は自分に対して金銭の引渡しを請求できる
(債務者に受領を強制する方法はないので 取消債権者が引渡しを請求してくると
認めざるを得ない)
つまり 債務者に対して持っている債権と 債務者の自分に対する債権(取消権で受け
取った金銭を引き渡せという債権)とを相殺し 事実上 優先的な債権回収ができてし
まう(このことは 取消しの相手方に対して価額賠償請求していくときも同様)
(債権者への支払又は引渡し)
第四百二十四条の九
債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者
に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引
渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対して
その引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。
2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得
者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。
[取消された法律行為によって給付されていたものが 動産・不動産の場合]
[動産の場合] 取消債権者は自分への引渡しを求めることができる(424条の9)が
取消債権者はその動産の所有権を持っているわけではないので 債務者
に返還せざるを得ない
[不動産の場合] 取消債権者は存在している登記を抹消し債務者の名義を回復することを
請求できるだけで自分に引き渡すこと・登記移転を求めることはできない
ということで 不動産の場合は 総債権者のために差押えできる財産を増やすという制度の
目的に適う解決のようだが そうはいかないのです
例えば 詐害行為取消訴訟で 取消の相手と和解を成立させて 抜け駆け的な回収をして得
をしてしまう というようなこともあるようです
<詐害行為取消権>についても 今までサマザマに議論がなされてきていたので それを追
って学習していた方にとっては 理解しやすいでしょうけれど 今まで三個の条文(424
~426)だったのが 同じ(424~426)でも14個になってしまっています
実務にも 多くの国家試験受験にも必須の範囲のもの なのでポイントだけでも つかまえ
ておくべき と 思われます