昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「レロレロ姫の警告」改定版(10)誕生(6)雨

2018-01-16 05:59:12 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 朝から雨が降っている。だんだんひどくなる。
 
 今日はママは会社を休んで、愛を連れて市役所へ手続きに行っている。
「こんな雨の中を自転車で行ったけど、愛はだいじょうぶかしら?」
 おばあさんが窓の外を見ながら言っている。       

 しばらくしてママから電話があった。
「えっ! なんですって? 愛のチューブが抜けちゃったの? どうして?」
 おばあさんの声が上ずっている。
「チューブを留めている絆創膏が雨に濡れて、愛がごしごししたもんだからはがれちゃって、おまけにチューブを引き抜いちゃったんだって・・・」
「チューブが外れちゃった?」
「一人じゃムリだから来てくれって。おじいさん、車出して!」
 
 おばあさんはおじいさんとママの家へ向かった。
 ママが馬乗りになって愛を押さえ込み、鼻にチューブを差し込んでいる。
 
 愛のほっぺがゆがんで、目の端から涙が溢れている。
 顔を左右に動かすものだからチューブがなかなか入らない。
 おばあさんも愛の頭を押さえて協力する。
 愛はますます泣き叫ぶ。
 ヒイヒイという声が大人たちの胸をえぐる。
 いつもは病院で手慣れた看護師が交換してくれるが、ママは今日が初めてだ。

「こんなことが起きるたびに病院へ行くわけにもいかないし・・・。わたしも出来るようにしておかなければ・・・」
「・・・」
「・・・」
「あら、血が付いちゃった。愛、ごめんね。もうちょっとだからね・・・」
 入れやすいようにチューブの先は少し尖っている。
 それを鼻から胃まで通すのだが、手加減が微妙なのだ。
 鼻孔の粘膜を傷つけてしまったかもしれない。
 ママは新しいチューブに変えて試みるが、なかなかスムースに入らない。

「この際、チューブなしでミルクを口から飲ませたらどうだろう・・・」
 見るに見かねておじいさんが横から口を出した。
「ダメ! 誤嚥したらどうするの! 肺炎になっちゃう・・・」
 ママが即座に拒否した。
「無責任なことを言わないで!」
 おばあさんもおじいさんを睨みつけた。

「ほんとうはそうしたいのはやまやまだけど・・・。もう一度やろう!」
 ママはおじいさんが信じられないほど強く、冷静に、泣き叫ぶわが子を押さえ込んだ。
「あ、入った・・・」
 別な鼻の孔にトライして3度目にようやく入った。
 
 ママの額に汗の玉が浮かんでいた。

 ─続く─
  




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