昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

昭和のマロの考察(93)女と男(24)

2010-12-06 06:12:00 | 昭和のマロの考察
 <独裁者、毛沢東をめぐる女と男>


 毛沢東夫人、江青の罵倒に、毛沢東の主治医、忍従のリチスイ先生もついにキレた。

もはや何がなんだろうと問題ではなくなった。私はすっくと立ち上がる。こうなっては逮捕されるだろう。主席に害をおよぼそうとした廉で死刑を宣告されるのは必死だ。私はあきらめた。ついに最期がおとずれたのだ。
 ドアに向かってゆっくりと歩きながら、周恩来の様子だけが目に入る。
 首相は金縛りにあったかのごとく硬直し、顔からはまったく血の気がうせている。両の手もぶるぶる震えていた。

 私がドアにちかづこうとしたとき、「待て」毛沢東のとどろくような声が聞こえた。
「もし君に対し不利な証言がなされるのなら、おおっぴらに述べられなくちゃいかん」
 そう言って毛は江青のほうをふりむき。「なぜ陰口をきくような真似をするのだ?」と妻をきめつける。
 私は崖っぷちから落下しながら軟着する岩のように感じた。もし自己弁護の機会があたえられるなら、私には勝てる自信があった。周恩来もほっとしているのが見てとれる。


 リチスイ医師は毛が食欲をうしなった理由について説明しだした。

 だが、毛沢東は聞いていなかった。頭をふりふり、手でソファをたたいていた。「江青、君がよこしたあのハスの茎をだれかが持てって煮た。飲んだら吐いてしまった。君の煎じ薬だってちっとも効かないぞ」

 毛沢東が江青に対しずけずけ言うのを聞いてリチスイ医師は思わず笑顔になりそうになった。江青はむっつりと額にハンカチをおしあて、ため息をついた。
 

「君たちがくれた薬はどれも効く気がしないな」と言ってから、私のほうをふりむき、「投薬は全部やめた。私に薬を飲ませたい者がいたら、とっとと出てってくれ」私はぞくっとした。
 毛沢東は病んでいるのだ。薬なしでは死んでしまうだろう。


 毛は周恩来のほうに向きなおった。
「私の健康は最悪だ。助かるとは思わない。いまや何もかも君の双肩にかかっておる・・・」
 周恩来はあわてた。「いや、いや、主席の健康問題は深刻じゃありません」とさえぎって、「私どもはみんな主席の指導力をたよりにしているのです」
 毛は弱々しげに頭をふった。
「だめだ。助かりっこない。とうてい助からないよ。私が死んだあとは、君がすべてをとりしきってくれ」
 毛沢東は消え入りそうな声で言った。
「いいか、これが私の遺言だ」
 江青はぎょっとした。目を大きく見開き、両の手を小さく握り締める。いまにも怒りが爆発しそうであった。


 ─続く─

 


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