ステージおきたま

無農薬百姓33年
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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

終わった!定期公演『キル』その②

2008-06-09 22:40:32 | 演劇

 昼の公演がゲネプロだった。なんて、ほんとお客さんには申し訳ない。ともかく、段取りを打ち合わせして、わずか一度稽古しただけで、幕が上がった。見ている僕もどきどきだったが、やってる方は、もっと気が気じゃなかったことだろう。

 だが、意外といいじゃないか。スムーズに進むじゃないか。場転はスローだし、せりふもかむし、照明も微妙にずれる。でも、ああ、勘弁して!見てらんねえよ、ってほどじゃない。ミシンから繰り出された布も見事に宙を舞った。せりふもしっかり聞こえた。大切な小道具を落とすという痛いミスもあったが、まずは、無事に終了した。

 夜の部との間、短い休憩時間に指示したことは、さらに上の演技を目指そう!大人の芝居を作ろう!だった。愛憎のもつれ、欲望が失望へと失墜していく空虚感、禁断の愛にふるえる心、そんな人間心理の細やかなひだを演じてみよう、無理は承知で注文を付けた。

 夜の部は、のっけからテムジンのせりふは聞き取れないし、布は捩れて出てくるし、どうなるんだ?この先、と、ひやりとしたが、その後は、しっかりと立ち直り、大きなミスもなくカーテンコールを終えた。やれやれ、お疲れさん!生徒たちの表情は実に晴れ晴れとしたものだった。やり遂げたものな。こんな大作をわずか2ヶ月でだもの。しかも、舞台を使わなくちゃできない稽古が思う存分できない中での成功だから、これは価値がある。逆境を乗り越えていく逞しさがさらに増したと感じた。

 さて、この公演、最初から賭けだった。2ヶ月で『キル』はどう考えたって無理がある。かと言って、全国大会があるから、期日をこれ以上後には延ばせない。じゃあ、簡単なものでお茶を濁すか、それも正直考えた。でも、それじゃあまりに安易ってもんだろ。全国だけが、この子たちの一年間ではないはずだもの、定期公演やる以上は、今まで通りめいっぱい背伸びしたものをやりたいじゃないか。

 定期公演が、全国に弾みを付け、役者もスタッフもレベルを上げて行かれるもの、で、『キル』を選んだ。この難しい作品を仕上げられれば、間違いなく自信がつくし、確実にレベルアップできるだろう。部員たち、中でも三年生は納得できることだろう。でも、もし失敗したら、・・・・恐ろしい予想が頭をよぎることもしばしば。でも、よかった!本当によかった!

 さて、この公演の総括だ。まず、役者は確実に上達した、上手くなった。何より発声がよくなった。しっかりしてた。テレビドラマみたいな口先のせりふじゃなく、腹の底からしっかり響くがっしりとした舞台のせりふになっていた。一部滑舌に難のある者は、いたにはいたが、声は出ていた。役作りも不十分ながら、基礎ができたと感じた。繊細な表現は、まだまだ、これからだけどね。

 次にスタッフ、これはもう、今年に入って全取っ替えだったから、まず自分たちでやり遂げられただけで、すごい経験になったと思う。これも、まだまだ独り立ちには時間がかかるが、まずは、スタートラインに立てたってところだ。

 一年生には、かなり酷な公演だった。裏方だけでも、かなり大変な芝居なのに、モデルとしてファッションショーでダンスを披露しながらのスタッフなのだから、容易じゃなかったろう。でも、この経験はきっと役に立つよ、この先。それと、置農演劇部の芝居作りがどんなもんか、わかったってことも貴重だ。先輩を尊敬したんじゃないかな。ついでに僕や顧問Nのこともね。下級生が上級生を素直にリスペクトできないようじゃ、たいした部活じゃないものね。今、感じている大きな隔たりを君たちも超えていくんだ。

 さて、最後に、どうしてこんな難解な芝居に挑戦したかってこと。そうそう、アンケートにも、定期公演ならもっと楽しんでいいんじゃないですか?って高校生の感想があったっけ。でもね、僕はそうは思わない。今、高校生がちゃちゃっとやって面白い芝居って、底が浅いんだよ。テレビのバラエティ番組みたいなもんだ。わかりやすい芝居ってのは、自分の懐に簡単に入る芝居ってことだろう。なんの発見もないじゃないか。未知なるものとの出会いもない。

 年取って、もう楽しむしかないってお年寄りならいざ知らず、これから人間の高校生なんだよ。知らない世界に飛びこんでみようじゃないか。せっかく高校生活を演劇に賭けたんだから、年に一度は、先端的な芝居に触れてみようじゃないか、わけわかんなくてもいい。芝居は論文じゃない、一から十まで理解出来なくたって、十分に楽しめるものなんだ。いや、楽しくなくたってかまわない。圧倒されてもいい。めちゃめちゃ分からなくてもいい。なんか、別の世界を感じられればそれでいい。役者の存在感であったり、力あるせりふであったり、ワンシーンのすばらしさであったり、雰囲気であったり、なんでもいい。それまでの自分が知らなかった異質な世界が実感できればそれでいい。

 で、今回の『キル』の公演について言えば、間違いなく伝わるものがあったんだと思う。わかんなかったけど、終わってみて、もやもやしたものが残らなかった。すっきりした。不思議!これ、別の高校生のアンケートだ。ね、これだよ、こう感じてもらえれば、上出来じゃない?わからないものにどんどんぶつかって行こうよ、高校生。今からすべて分かったとしたら、君の世界はおっそろしくちっぽけなもので終わっちまう。世界は不可解だ。だから、魅力的なんだ。おっと、僕らみたいな年寄りも、その心意気忘れないようにしなくっちゃ。

 

コメント (3)
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