Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

存在証明を鳴らせ

2021年01月04日 | 映画など
武正晴監督「アンダードッグ」を見る。
前編が131分で、後編が145分。
4時間半以上の上映時間をかけて
この映画が目指すものはシンプルだ。
主人公たちはどうして戦うのか、
なぜ戦わなければならないのか。
彼らの自問自答を観客も反芻しながら、
クライマックスに向かって高揚していき、
あとはひたすら殴り合い、どつきあいの馬鹿騒ぎ。
いまどきこんな真っ当なボクシング映画が見られるとは。
「百円の恋」以来だなあ、と思っていたら同じ監督だったという。


とにかく、出てくる人みんながみんな、
ことごとくやさぐれているのが、いい。

森山未來演じる晃は、
ボクシングが好きなくせに、そこそこ実力はあるのに、
そこに甘えて、ちゃんと人生に向き合わない。
デリヘルの送迎バイトをしながら、
咬ませ専門のボクサーとしてダルな日常を送る日々。
一緒に住む父親(柄本明)を空気のように扱い、
散らかった家でただ寝るだけ。
いかにも不味そうな弁当を頬張り、
やることがないから仕方なくタバコを吸う。
そんな男が、唯一自分をカッコいいと思ってくれている
一人息子の言葉に背中を押されて、リングに立つ。

そうだ。こういう主人公こそ、
日本映画の伝統的なヒーローではなかったか。
松田優作やショーケン、原田芳雄と比べると大袈裟かもしれないが、
森山未來のやさぐれたヒーロー像というか、
アウトロー然とした佇まい。
自分がいま高校生ぐらいだったら、
きっと憧れたんじゃないかな、と。

お笑い芸人を演じる勝地涼も素晴らしい。
ひょんな乗りから、ボクシングの試合をすることになり、
最初はおふざけだったのに、だんだん本気になっていく。
コンプレックスだらけの自分が初めて
本気になれるものがボクシングだったという偶然。
勝てるわけないのに、それでも森山未來に立ち向かっていく。
この人は、「あまちゃん」で前髪クネ男を演じて以来、
ずっと面白く見ていたけれど、本当にいい味が出ている。

そして最後に対戦相手となる
北村匠海演じる新進ボクサー。
最初は単なるお坊ちゃんキャラかなと思ってたら、
施設育ちで手のつけられなかった不良だったことが語られていく。
この男も、自分の存在証明のために、
自分をボクサーの道に導いた森山未來をぶっ倒そうとする。

戦う理由は、みんな身勝手きわまりないけれど、
それぞれ自分のために、生きる証のために戦うというか。
負け犬たちの決死の叫びに圧倒される。
前編と後編のクライマックスで描かれるファイトシーンは、
主人公の森山未來を応援しなくても全然構わない。
というか、戦う二人のどちらを応援したらいいかわからなくなってくる。
つまりはこの映画の作り手の術中にはまったということで、
心地良く映画の世界に埋没していくのでした。

脇を固める俳優陣はみな濃いけれど、
娘を虐待するデリヘル嬢を演じた瀧内公美と、
吃音のデリヘル店長役の二ノ宮隆太郎の存在感は出色。
そして、主人公の父親を演じた柄本明。
あれほど怠惰でみっともない「我が子を見守る」演技ができるのは、
さすが柄本さん、というか。
自分もあんなジジイになれたらいいなと思った次第。

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