水道橋博士「藝人春秋Diary」(スモール出版)を読む。
刊行されたのが去年の10月。
一気読みするつもりが、550ページの大著で、
仕事の行き帰りに読むのは重すぎるため、
寝る前にちびちびと晩酌をするように読んでいたら、
読了するのに10か月ぐらいかかり、
そのあいだに博士は参議院議員になっていたという。
相変わらず練りに練った文体と言葉遊び、
張り巡らされた伏線と回収の妙。
反則とも言えるオチの付け方に泣かされる。
竹中労をこよなくリスペクトする博士は
「芸能ルポライター」を自称し、
師匠のたけしや高田文夫はもとより、
交流のあった芸能人や政治家たちの
キャラクターとその息づかいを紙上で再現する。
彼ら彼女らがまさに目の前にいるような
ライブ感あふれる書きっぷりだ。
たとえば松任谷由実との出会い。
ラジオ収録の現場におけるつかの間の会話の応酬で、
ユーミンの姉御肌な言動を活写する。
そして、24年前に「アサヤン」で
一度だけ共演した小泉今日子と再会し、
「あなたに会えてよかった」と呟くくだりは、
よくできた漫談のようだ。
麻生太郎のマンガ好きを世間に知らしめたのは、
浅草キッドの番組で、博士が麻生に
思う存分喋らせたからであり、その麻生が
ヒトラーがらみで失言したのを受けて、
手塚治虫「アドルフに告ぐ」か、水木しげる「劇画ヒットラー」
あるいは藤子不二雄A「ひっとらあ伯父さん」を
読んでいたのでは、と推測する過程も興味深い。
そうした個性豊かな人たちの描写に加え、
江口寿史の挿絵がいちいち毒気があって楽しい。
500ページを超える大著になったのは、
挿絵をすべて収録したかったからだと博士は語っているが、
それは大正解だし、この厚さになっても致し方ないと思うで。
終盤に向かうにつれて、
竹中労のイベントを通じ、樹木希林の知己を得た博士は、
彼女との会話を続けるうちに、
自分自身の精神的なルーツである
竹中労への思いと、ルポライターとしての矜持を
あらためて持つにいたる。
そして博士の妻について。まったくの一般人でありながら、
実はたけしとの偶然の繋がりがあったことが明かされたり、
愛娘と江口寿史の出会いが最後の最後に語られる。
芸能ルポの形を取りながら、私小説みたいな締めくくりに
唖然としながらも、感動させられてしまったという。
この人しか書けないものを読んだ、
というのがよくわかる読書体験。