Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

置いてけぼりの矜恃

2021年01月21日 | 日々、徒然に
世間の流行というものに疎いと自覚したのは
いつ頃だっただろうか。というか、
昔からそもそも流行を追っていたという
意識がなかったような気がする。

必死になって流行に乗ることの見苦しさと、
いまさら流行に乗れない諦めとの間で揺れながら、
結局のところ、世の中から置いてけぼりにされている感は
ますます強くなっている。こんなんで編集とかライターを
よくやっているなあと思いつつ、日々やさぐれて生きております。

と、なんでこんな愚にもつかない
戯れ言をほざいているかというと、
昨日発表された芥川賞で、
「推し、燃ゆ」という作品が選ばれたという報道があったから。
流行に疎いので、宇佐見りんという若い作家さんの
ことは全く知らず、へえそうなんだ。
よくできた娘さんだなあと呟いた瞬間、
このタイトルに見覚えが。


そうだ。昨年の夏に出た
「文藝」のシスターフッド特集号の
巻頭に掲載されているではないか。
特集の方ばかり読んで、この小説は読んでいなかった。

ということで、読む。
決して受賞したから読んでるんじゃないですよ。
たまたま手元にあるから読んでるんですよ、という
めんどくさい言い訳をしながら、仕事場に向かう電車の中で読む。

あっという間にひりひりした小説の世界に引き込まれる。
読むまでの動機がどんなに不純でも、読んでいるときは、
キレイな心になっていると信じる
おっさんの心は、やっぱり汚れているのでしょう。


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愛情の決算

2021年01月21日 | 読んでいろいろ思うところが
山崎ナオコーラ
「ベランダ園芸で考えたこと」(ちくま文庫)を読む。
なぜかちくま文庫ばかり読んでる今日この頃。
自宅マンションのベランダで
プランターに種を植え、水をやり、
育てたり愛でたり、時には枯らしたり
あるときには美味しく食べたりするなかで
人生の来し方行く末を考察する。



作家になって、野心に燃えるナオコーラさんは、
吉祥寺のマンションの11階に住み、ベランダで植物を育て始める。
ドラゴンフルーツや、朝顔に薔薇。
ゴーヤに長ネギ、
ミニトマトやミニニンジン、シソにバジル。
すくすくと育ち、実をつけ食卓を彩るものもあれば、
うまく育たず、そのまま枯れてしまったり、
枯れたと思ったのに、あるとき急に芽を出して大きくなったり。
そんな植物たちの様子と、ナオコーラさん自身の今の生活。
やがて賃料の高いマンションを去り、
郊外の手頃なマンションの1階に引っ越し、
窓の外にある小さな庭で、再び植物を育て始める。
そのあいだに、結婚したり子供を授かったり。
作家としての浮き沈み。自分の身の丈。使命感とエゴ。
そうした身辺や感情を植物たちに重ね合わせていく。

「人間は、季節のうつろいを感じると快感を味わう。それは、自分のリズムだけで生きるのを乱される快感なのかもしれない」

と書くナオコーラさんは、
植物との交流を経て、こうも続ける。

「毎日見ている景色が、自分のタイミングとは関係なく変化していく。世界にとって自分が重要人物ではないとう救い。自分が仕事を一所懸命やろうがやるまいが、世界にとってはどうってことないのだという軽さ。インターネットに自分の悪口が溢れても、世界は美しく変化をし続けるのだという明るさ」

これからの人生を歩いていくために、
背中を押してくれている、というか。
諦めと絶望の先に、少しの明るさを与えてくれるのが
植物たちなのだろう。

ナオコーラさんは、近作の「リボンの男」が
非常に素晴らしくて、これまでこの作家さんを
読んで来なかったことを後悔しているところなのです。





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