Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

平凡は非凡

2021年01月06日 | 読んでいろいろ思うところが
藤本和子「ブルースだってただの唄」
(ちくま文庫)を読む。
一言で言ってしまえば、
市井の黒人女性たちの聞き書きだ。
話される内容はかなりショッキングなものも
あるのだけど、あくまで語り口は淡々として、穏やか。
ドラマチックにハッタリを効かせて
語ることはいくらでもできるはずなのに、
そうしたタイプとは遠く離れた描写と筆致。


黒人であること。そして、女性であること。
この2つの属性を持たされた人たちの過酷な現実。
肌の色の「濃い/薄い」で決定的な差異が生まれる。
でも肌が薄くて白人に近いからといって、
黒人であるアイデンティティーが頭をもたげてくるわけで、
その苦しさを語る女性たちの半生を丁寧に再現していく。
さらに白人との混血で生まれた女性は、見た目が白人なので、
そのまま出自を隠して生きようとするが、
やはりアイデンティティーが邪魔をする。

「こんなにいろいろな目にあってきたのに、
わたしたちはまだこうして生きているんだから。
そう感じると、こころに誇りが満ちてくる」

と語る女性の佇まいに、
根源的な強さを感じるのだけど、
単純に「強いなあ」「逞しいなあ」と賞賛する資格は
ただのヘタレ読者である自分には、ない。

白眉はラストに置かれた104歳の女性の語り。
奴隷制度が敷かれていた時代の空気を知るこの女性は、
幼い日の記憶を思い起こしながら、
100年以上にわたる人生を訥々と語る。

「夫はほんとにやさしい人でした。生活はうまく行って…。
 夫とは8年ぐらい一緒に暮らしたのかしら。それから、死んで。
 そのとき階下に部屋をつくろうと考えてね。
 それからずっと階下に住んでいました」

という淡々とした語り口の重み、というか凄み。
100年以上生きた人の言葉だなと思ったりする。

さらに、巻末に添えられたMという女性への聞き書きが、
今まで読んだことのない語り口で度肝を抜かれる。
こんな風に書けたらどんなにいいだろう、
とヘタレなライターは憧れの眼差しで読みふけるのでした。
どんな語り口かは、興味がある人、
ぜひ読んでみてくださいな。

コメント
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