山崎ナオコーラ
「ベランダ園芸で考えたこと」(ちくま文庫)を読む。
なぜかちくま文庫ばかり読んでる今日この頃。
自宅マンションのベランダで
プランターに種を植え、水をやり、
育てたり愛でたり、時には枯らしたり
あるときには美味しく食べたりするなかで
人生の来し方行く末を考察する。
作家になって、野心に燃えるナオコーラさんは、
吉祥寺のマンションの11階に住み、ベランダで植物を育て始める。
ドラゴンフルーツや、朝顔に薔薇。
ゴーヤに長ネギ、
ミニトマトやミニニンジン、シソにバジル。
すくすくと育ち、実をつけ食卓を彩るものもあれば、
うまく育たず、そのまま枯れてしまったり、
枯れたと思ったのに、あるとき急に芽を出して大きくなったり。
そんな植物たちの様子と、ナオコーラさん自身の今の生活。
やがて賃料の高いマンションを去り、
郊外の手頃なマンションの1階に引っ越し、
窓の外にある小さな庭で、再び植物を育て始める。
そのあいだに、結婚したり子供を授かったり。
作家としての浮き沈み。自分の身の丈。使命感とエゴ。
そうした身辺や感情を植物たちに重ね合わせていく。
「人間は、季節のうつろいを感じると快感を味わう。それは、自分のリズムだけで生きるのを乱される快感なのかもしれない」
と書くナオコーラさんは、
植物との交流を経て、こうも続ける。
「毎日見ている景色が、自分のタイミングとは関係なく変化していく。世界にとって自分が重要人物ではないとう救い。自分が仕事を一所懸命やろうがやるまいが、世界にとってはどうってことないのだという軽さ。インターネットに自分の悪口が溢れても、世界は美しく変化をし続けるのだという明るさ」
これからの人生を歩いていくために、
背中を押してくれている、というか。
諦めと絶望の先に、少しの明るさを与えてくれるのが
植物たちなのだろう。
ナオコーラさんは、近作の「リボンの男」が
非常に素晴らしくて、これまでこの作家さんを
読んで来なかったことを後悔しているところなのです。