デヴィッド・フィンチャー監督「Mank/マンク」を見る。
「市民ケーン」の脚本を書いた、
ハーマン・J・マンキーウィッツの伝記映画。
映画史上の名作中の名作「市民ケーン」が
オーソン・ウェルズだけのものではなかったということ。
映画は多くのスタッフキャストでつくられるものだから、
それは当然のことなんだけど、
一人の天才監督が作り上げた映画だという
間違った認識を新たにするのが本作だ。
主役の脚本家はマンクことマンキーウィッツ。
ってどこかで聞いた名だなと思ったら、
「イヴの総て」や「三人の妻への手紙」の
名監督ジョセフ・L・マンキーウィッツの実の兄なんだな。
本作を見るまでこの人のことを
よく知らなかった自分はシネフィル失格です。
オーソン・ウェルズは大好きだし、
てっきり「市民ケーン」のメイキング映画だと
大いに期待して見たら、いつまで経っても
偏屈な脚本家がグチグチ文句を垂れている映画だったという。
ウェルズはただの脇役で、
とても感情移入できない独善的な男だ。
彼の盟友と言われたジョン・ハウスマンも
小心な人物として描かれるし、弟のジョセフ・L・マンキーウィッツも
ハリウッドの因習に呑み込まれていくところが描かれ、
つまりは、みんな汚れちまっているのです。
唯一、この偏屈なおっさんだけが誠実かつ正直であり、
そんな彼がささやかな勝利を掴むまでの物語だ。
マンクを演じるゲイリー・オールドマンは
実にいやらしく、というか、体臭漂う演技で主役を張る。
本作はフィンチャー監督念願の企画だったらしい。
普通のメジャー映画会社だったら、
全篇モノクロで時制があちこち飛び、
40年代のハリウッド事情に精通していないと
理解が難しい映画にお金を出さないような気がする。
配信がメインとはいえ、こうした映画が
劇場で見られるのはネトフリのおかげなのだろう。