Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

ノイズ乱れて絡まって

2019年11月22日 | 映画など

森達也監督「i — 新聞記者ドキュメント—」を見る。

東京新聞の社会部記者、

望月衣塑子さんを追いかけつつ、

国政に携わる人たちや、

それを報じるメディアの混迷ぶりを映し出す。

ノイジーな情報に溢れた本作から何を見て取るか。

そのあたりは観客に委ねられていて、いかにも森監督らしい作り。

 

 

望月衣塑子さんは、自著からもわかるように、

ことさら正義漢でもなく、

権力に憎悪を膨らませている人でもなさそうだ。

実際、本作で映し出される望月さんは

いい意味でオーラがなく、

ちょっと男前のさばさばした女性、という風情。

突然、新聞記者の顔になるわけでもなく、

タクシーの中で自分の子供に

電話しているときの顔とさほど変わらない。

とてもタフな人だとは思うけれど、

新聞記者としての役割を果たそうとする姿は、

普通というか真っ当。

 

森監督はそんな望月さんの

素の表情を追おうとするけれど、

取材の合間に急いでハンバーガー(だったかな?)をぱくついたり、

キャリーバッグをガラガラ言わせて「あれ?」と言いながら

ちょっと方向音痴なところを見せるぐらい。

 

そんな普通の女性が立ち向かうのは、

会見場での管官房長官とか麻生副大臣、

不正を働いたと疑われる役人たちであり、

本作の中では、まさに極悪人にしか見えない。

とくに望月さんが管さんに質問をする際に

妨害を受ける場面に怒りを覚える観客は多いことだろう。

 

慌ただしく取材を続ける望月さんは

沖縄に飛び、辺野古の海を取材したり

デモでごった返す霞ヶ関で、

安倍政権打倒を目指す人たちと交流したり、

森友問題の重要人物である篭池夫妻と対談したりと、大忙し。

次第に何が正しくて何がまちがっているのか

わからなくなってくるほど情報過多になっていくのを見て、

少しだけマイケル・ムーア的だなあと思ったりするのは

シネフィルの悪い癖なのかな。

 

ともあれ、本作の最高の場面は、

籠池夫人が、撮影している森監督に向かって

どら焼きを勧める場面。思わず爆笑してしまう。

この奥さん、けっこういい人なんじゃないかと思うし、

意外と寡黙な印象の籠池さんもリベラルな物言いをするわけで、

メディアでは詐欺師とか言われる人の

違う面を見せられて戸惑ってしまう。

こういう絵が撮りたいんだろうな、森監督は。

 

だからこそ望月さんが会見で

管さんに質問している絵を撮りたかったんだろうし、

森監督なら、既存のメディアでは紹介されない

望月さんや管さんの表情を捕らえることができたと思うし、

記者クラブの人たちや、管さんの後方に控えている官僚たちの

姿も見られたのに、と考えると実に惜しい。

 

会見の場を撮ろうとして、

警官に止められたときの森監督の気持ちが

痛いほど伝わってくるのだけど、その警官が決して威圧的ではなく、

ひたすら低姿勢で「すみません撮影はできないんです」と言う姿に

複雑な思いがさらに募っていくのでした。

コメント
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