桜井昌司『獄外記』

布川事件というえん罪を背負って44年。その異常な体験をしたからこそ、感じられるもの、判るものがあるようです。

特別抗告批判第5弾

2008-08-07 | Weblog
抗告書に書かれていないことがある。
事件当夜、俺は野方のバージュンへ行った。確か、8時か9時ころだった。店には客二人がいて、ママの妹と踊ったりしていた。
このアリバイに付いて、ママだったFさんは「桜井は午後11時半ころに来た」と証言したことになっている。その調書も長年隠され、今度の再審で開示された。同時に開示された成田線布佐駅から西武新宿線野方駅までの乗り継ぎ検証調書によれば、野方駅着が11時47分だったことから、Fさんの調書と、この検証調書を開示しては、自白が成立しなくなるために、検察官が隠し続けたことも明らかになった。
当然、この点は、今度の高裁決定にも含まれ、正しく認定された。
ところが、特別抗告書のどこを見ても、この点の反論は無い。出来るだけはずは無い。
この件は、既に書いたが、ろくに確認もしないで、俺たちに11時30分ころに帰り、当日のアリバイだったバージュンへ行ったことも犯行後に有ったと自白させたが、乗り継ぎで不可能と判り、かなり焦ったことだろう。そのとき、素直に調べ直せば、ママさんは真実を話し、俺たちも冤罪生活を重ねないで済んだかも知れない。
俺たちがシャバに帰った後、ママさんに会ったことがある。彼女は「8時か9時に来たことを覚えている」と語り、「警察が遅い時間だと言って私の言うことを聞かなかった。客のところへ行く、と警察が言うので、店を始めて5年目だったし、客に迷惑を掛けたくない気持ちで、仕方なく11時30分ころに来たと言ったのだ」という旨も話してくれた。
大林さん、この矛盾、どうしました?知らんぷりですか?
Fさんの証言調書は一通で、Mさんのように誘導によっての言葉の揺らぎも現れていないために、非難出来ないよね。だから無視して反論もしない、ですか。
大林さん、俺たちの自白は、ただМさんの証言によって不成立になるだけじゃない。犯行後の行動も不成立になる代物なのだ。
もし検察庁が真に反省して、今、ママさんを訪ねたならば、彼女は真実を話してくれるだろう。桜井は8時が9時に来ていたとね。
如何に我々を犯人だと力説しても、大林高検の書いた特別抗告書には瑕疵が多すぎる。俺が貴方だったら、大林さん、俺は恥ずかしくて、こんな抗告書は提出できなかったよ。

仕事

2008-08-07 | Weblog
俺は土方をしている。真夏の炎天下、遮るものがない陽射しを受けて生コン作業などをすると、痺れる。頭の芯が痛くなるようだ。
昨日も、そうだった。汗が滴り、水を飲んでも飲んでも足りないくらいになった。
このところ夕方になると身体が汗で臭くなる。でも、仕事をして、身体全体が疲れると、何か生きているという思いになり、楽しい気分だ。
俺は仕事をしている時が、一番自分らしい時かも知れない。ただ、仕事が続くと、夜はパソコンを開いて書く気持ちにならずに寝てしまい、ブログの更新が出来ないのが困るのだが。

特別抗告批判第4弾

2008-08-07 | Weblog
突然思い至ったことがある。
先に書いたМさんの証言を否定する抗告書の馬鹿馬鹿しさだが、これを書いた検察官は、絶対に真実を知っていると思った。
Мさんは、事件が発覚した日、すぐに息子と一緒に交番に目撃を話に行った。それから連日、彼女は息子とともに事情聴取されたと言う。彼女は、その時に被害者を訪ねようとしたのだから、当然の事情聴取だろう。
ところが、Мさんの最初の調書と言うのは、彼女が初めに行った8月30日付けではなく、10月16日付けなのだから、これはおかしいよね。
検察は「不見当」と言うが、嘘に決まってる。絶対にある。
抗告書の中で、大林高検は「Мさんの証言は、曖昧で信用できない」旨を言っているわけだが、この主張は、Мさんの初期供述を隠していからこそ出来るのだ。
俺が嘘の自白をしたのが10月15日。その「自白」を得て警察は、改めて彼女の事情聴取をした。そこから、今度は、Мさんの証言を我々の「自白」に合わせようとしたのだ。その日かのМさんの言葉には、確かに検察の言う証言の揺らぎがある。彼女の言うままでは、俺たちが被害者宅に到着しない前に、彼女が通り過ぎてしまうのだから、証言を変えさせようとするのは、ある意味では当然のことだ。警察に言われれば、証言の揺らぎが生まれて当然ではないのか?
だから俺は、Мさんの本当の初期供述である8月30日付けからの「連日の事情聴取調書」を見たいと思う。その調書には、警察の誘導も無く、彼女が見たままを語っているのだから、絶対に言葉の揺らぎ、証言の曖昧さなども無かろう。であるから、検察は隠し通すのだ。この調書が提出されてしまえば、検察が彼女の証言を否定することはできなくなる。そればかりか警察の激しい誘導の形跡すらも発覚する。俺たちが犯人ではないことが明確になる。
これじゃ検察は証拠開示出来ないよね、大林さん。
その調書を見ている検察官が「Мさんの証言は揺らいでいて信じられない。嘘さえ言ってる」と非難する。汚いね、怖いね、本当に汚いね東京高検も。ねえ、大林さん!





記念日

2008-08-07 | Weblog
「記念日」という獄中詩がある。逮捕されてからの月日にあった苦難の体験を書いたものだが、社会に帰って12年、新しい「記念日」が沢山生まれた。勿論、その記念日は、獄中とは違って楽しく嬉しい記念日ばかりだ。
昨日8月6日も、その一日だ。二年前、新しい命の誕生した日だった。川上洸大、ヒロトと読む。
やっと言葉が出始めたが、俺に向かっては「チョージ!」とビックリするような大声で呼ぶ。この前は、二人で連れ合いの実家へ遊びに行ったこともあったが、俺とはどこへ行くのも平気らしい。二人の兄がしていることを真似する思いなのか、不思議と懐いてくれる。小さな命に慕われるのは、実に不思議な気持ちだ。子供を待てない俺には、ヒロトとの時間が「子供体験」をしているような思いになる。