スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

叡王戦&補完

2024-03-22 19:14:48 | 将棋
 19日に指された第9期叡王戦挑戦者決定戦。対戦成績は永瀬拓矢九段が1勝,伊藤匠七段が4勝。
 振駒で永瀬九段の先手となって角換わり。後手の伊藤七段は右玉に構えました。
                                        
 先手が飛車を打ち込んだ局面。局後の話だとここまでは予定だったということですので,事前の研究があったものと思います。
 後手は☖2二角と打ちました。これは飛車を捕獲しにいった手。どうも先手の研究にはなかったようです。
 先手は☗2五桂と打ちました。これは☖3一金なら☗同飛成☖同金に☗3三角と打とうという意図。
 そう進んではいけないので後手は☖3一金打で飛車を捕獲しました。この場合は☗2二飛成☖同金寄で飛車角交換。ここで☖9八飛を避けて☗6八王と早逃げしたのですが,☖2四歩と突かれ☗7三角☖2五歩と打った桂馬を無条件で取られ,一気に悪化しました。
                                        
 第1図まで予定だったのに,☖2二角と飛車を捕獲しにくる手を研究していなかったのは僕にはすごく意外です。その局面で☗9一龍と香車を取るのが最善とされましたが,それなら飛車を打たずに取れたわけですから,研究に不思議な穴が開いていたという感じを拭えません。
 伊藤七段が勝って挑戦者に。叡王戦五番勝負には初登場。第一局は来月7日に指される予定です。

 ハンマーを作るための道具instrumentumが必要で,その道具を作るための道具が必要でといった具合に無限遡行するにしても,ハンマーによって人間は鉄を鍛えることができないということにならないというのはその通りというほかありません。現に人間はハンマーで鉄を鍛えているからです。しかしこれはあくまでも知性intellectusの道具の比喩なのであって,比喩である以上はそのまま知性の道具に適用することができるというわけではありません。ところがスピノザは,ハンマーに関するこの比喩をもち出すだけで,知性の道具についてこの比喩が成立する確たる理由を語っているわけではありません。つまり,ハンマーについて妥当するのだから,知性の道具についても妥当するであろうと推定しているのです。ですがこれは気楽な推定なのであって,事の重大さにスピノザは気付いていなかったというのが國分の指摘であるといえます。
 なのでこの指摘は,『知性改善論Tractatus de Intellectus Emendatione』が未完に終わったことに関するドゥルーズの見解を補完するような内容になっています。ドゥルーズGille Deleuzeによれば,スピノザは『知性改善論』を書いている段階では共通概念notiones communesの理論を持ち合わせていなかったので,知性の道具に関する無限遡行を免れることができず,後に共通概念の理論を発見することでこの無限遡行を解消したのだけれども,その時点では『知性改善論』の議論があまりに錯綜してしまっていたためにそれを導入することができず,方法論の執筆は断念して『エチカ』に共通概念の理論を導入したのです。『知性改善論』を執筆しているときのスピノザが,知性の道具の無限遡行の問題の重大さに気付いていなかったということは,確かにそのドゥルーズの見解を補完する内容になっているといえるでしょう。
 ただしこれはあくまでも補完なのであって,國分がドゥルーズの見解に同意しているということではありません。國分は『知性改善論』が未完に終わった理由についてここで語ろうとしているわけではなく,知性の道具に関する無限遡行を『知性改善論』は逃れていないということを指摘しているだけだからです。僕はドゥルーズの見解には同意しませんが,そのことについてはここでは繰り返しません。
コメント
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