スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部公理と人間の精神&非真理

2015-02-05 19:20:07 | 哲学
 『スピノザとわたしたちSpinoza et nous』には訳者である信友建志による「成功への希望は反乱の傾向を生じさせる」という長めの文章が付随しています。解説の代わりということですが,別個の論文として成立する内容だと思います。たぶんスピノザの哲学の方に関心がある場合は,ネグリAntonio Negriの本文よりもこちらを読む方が有意義です。この中で,僕が以前から考えていたことに少しだけですが触れられていました。
                         
 第四部公理は,すべての個物res singularisに妥当します。だから人間にも妥当します。人間は身体corpusと精神mensが合一しています。なので人間の身体にも精神にも妥当します。とりわけ人間の精神を眼中に置くなら、第二部定理一一から,第四部公理が妥当すると結論されます。
 ところが一般的な見方としては,身体に第四部公理が妥当することを人は容易に認めるのですが,精神に妥当するということを容易には認めたがらないという傾向があるように思えるのです。
 第四部定理四というのは,自然Naturaという語句を用いていて,いかにも人間の身体について言及しているかのようですが,この定理Propositioもまた人間の精神に妥当します。信友は第二の自然といういい方をして,たとえばコンピュータ環境を例示しています。圧倒的な自然の猛威に対して人間が無力であるということと,コンピュータの圧倒的な計算能力に対して人間の精神が無力であるということは,同じことであり,それはとくに問題ではないと結論しています。
 情報化社会といわれた時代もそうであったと思うのですが、とりわけ現在のようなIT社会の内部においては,個々の人間がコンピュータ環境の中での一因子であるといえます。というかそれを認めないとこうした社会は本来的には成立しない筈なのです。そしてそれは,人間が自然環境の中において,ときに厳しい状況に晒されることもあるということと同じです。自然の恵みを人は多く得るように,コンピュータによる利便性を得る機会も少なくないからです。
 登山家とか冒険家が自然に挑むことが無意味なわけではありません。同様に人間がコンピュータのある能力に挑むということも,無意味なことではないだろうと僕は考えます。

 ライプニッツの真理の規定から帰結する虚偽falsitasが,スピノザの哲学でいわれる虚偽の積極性を少しも有していないことはもはや明白でしょう。ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizの哲学における虚偽は,それを規定するなら,真理veritasではないもの,あるいは真理に反するものとしかいいようがありません。このような規定は,何ら積極的な規定ではなく,消極的な規定であると僕は解します。このゆえに僕は,ライプニッツの哲学には,真理である事柄と,真偽不明の事柄だけが存在し,虚偽は存在しないようだといったのです。
 こうした事情ですから,ここでひとつの約束事を決めておきます。ライプニッツの哲学にも規定できる,真理に反するものに関してそれを虚偽といってしまうと,スピノザの哲学における虚偽と混同されるおそれがあります。なので混同を回避するために,ライプニッツの哲学における真理に反する事柄に関しては,非真理ということにします。実際にライプニッツの哲学から流出するのは,真理であるものに反するものとしては,真理ではないものということになるので,それを非真理というのは,虚偽というよりも相応しい記号化であると僕は思います。
 真理はあらゆるモナドのうちで表現されます。これに対して非真理は,どんなモナドのうちでも表現されることはありません。いい換えれば,非真理が成立するような可能世界をライプニッツは認めていないことになります。そして僕の推測では,これが神の力の制限という疑問に対する,ライプニッツの解答ということになります。神Deusが非真理を創造するcreareことはできないというならば,確かにそれは神の力potentiaを制限していることにはならないというように解することが可能だからです。
 このような解答が与えられるのだとしても,なぜライプニッツが神は真理を現にあるものとは異なったものにすることはできないということを主張したのかは判然とはしません。自身の構築するべき哲学にとって不利になることを主張することで,ライプニッツが何を回避しようとしたのかが僕には理解できないからです。ただ,神の力が制限されているわけではないと解することはできるので,この点についてはこれ以上は追及しません。
コメント
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