スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ロゴージンと去勢派&第一部定理三三備考二の意味

2015-02-16 19:19:01 | 歌・小説
 ナスターシャと鞭身派には関係があるという読解が『ドストエフスキー 謎とちから』には示されているのですが,同時に,そのナスターシャをムイシュキン公爵と奪い合う関係になるロゴージンには,去勢派との関係が濃厚であるという読解も呈示されています。僕はスメルジャコフとムイシュキンには似たようなところがあると思っていたのですが,スメルジャコフの場合は江川卓も去勢派との関係を示唆していますので,亀山郁夫の読解が正確なら,スメルジャコフとロゴージンの間にも相似的関係があることになります。
                         
 ロゴージンが住んでいる屋敷の構造が去勢派のそれに該当するのだそうです。つまり去勢派はロゴージンの父親で,ロゴージンは去勢派の家庭で育ったとみられます。もっともこの点は僕には分かりません。ただ,去勢派にとって神の愛を得るための近道は,蓄財なのだそうです。僕はこの点に,ロゴージンを去勢派とみる有力な根拠を見出します。しかしそれは,ロゴージンが金持ちであるからという理由だけではありません。
                         
 僕が『白痴』で最も不思議に感じられたのは,ムイシュキンのライバルである男は,性的な事柄を嫌う,あるいは性的不能者とも考えられるムイシュキンと正反対に,好色なあるいは性に達者な男であるべき筈なのに,ロゴージンからはそういった要素がいっかな感じられなかったことです。なぜ単に金持ちで,性には執着心を感じさせないような人間としてドストエフスキーはロゴージンを設定したのかということは,僕にとって『白痴』の謎のひとつでした。しかしもしもロゴージンが去勢派であるのなら,この謎は解けるわけです。
 『白痴』が書かれた時代,去勢の措置は義務付けられていたわけではないそうですが,もしロゴージンの父が厳格な去勢派なら,ロゴージン自身も去勢されていた可能性はあると亀山は書いています。ロゴージンの殺人のときに使われたナイフは,ロゴージンが大事に持っていたものです。そのナイフは,去勢されてしまったことのロゴージンなりの代償であったのかもしれません。

 第一部定理三三備考二の引用部分でスピノザがいいたいのは,概ね次のようなことだと僕は解しています。
 スピノザは,意志voluntasが神の本性natura,essentiaに属することを是認しません。したがって第一部定理三二系一にあるように,神が意志の自由によって働くことはありません。むしろ第一部定理一七で示されているように,神は神自身の本性の必然性necessitasによって働くのであり,それ以外の一切の要因によって働くことはありませんし,作用するようにほかから決定されるということもありません。
 だから,神の本性に意志が属するという意見,いい換えれば,神が自由な意志によってすべての事柄を決定するとか,神はその自由意志によって神自身の原因でありまた万物の原因であるという意見は,真理とは隔たった意見であるといわねばなりません。しかし,この意見は,神が善意によってすべてのことをなすという意見に比べれば,まだましな意見であるとスピノザはいっているのです。つまり,神が善意によってことをなすという意見は,おおよそ神を認識するあり方として,最悪のものに近いとスピノザは考えていたと推測できます。ライプニッツは,その最悪の仕方で神を措定せざるを得なかったということになるのです。
 この部分は,かつてテーマとして説明したように,僕がスピノザ主義という立場を選択することになった契機といっていい部分です。これが現状の考察と深く関わってきますので,改めて繰り返しますが,その前に,なぜ神に自由意志があるという意見の方が,神が善意によってことをなすという意見よりもましであるといえるのかを検討しておきましょう。
 備考の引用部分に,ライプニッツであれば神からの人格の排除を発見するでしょう。そしてこの意味において神から人格を剥奪することは,スピノザの哲学にとって大きな仕事であったと僕は考えています。しかしそれは無神論的な意味においてではありません。スピノザは,単に神が存在するということを証明するということよりは,人が神について十全に認識するということの方を重要視していました。『知性改善論Tractatus de Intellectus Emendatione』がそのテーマを中心視していることから,これは明白だといえます。
コメント
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