ネロは本質的にはナイーブでデリケートな人間でした。心も決して強い人間ではありませんでした。
そもそも彼は非常にデリケートな男、アウグストゥスの血をひいているのです。(非常にタフな男アグリッパの血もひいてはいますが、それはアグリッピナという女性を通して、というのも興味深いのですが) ネロは基本的には繊細でデリケートな男だったのでしょう。
友人たちと街で騒ぐことも好みましたが、彼が最も愛したものはギリシャ芸術です。決して知性も劣っていたわけではありません、いやむしろ当時のローマ人の中では高いほうだったはず。
そういう人間は物事を即断即決するタイプではありません。が、しかし、追い詰められて危機になったときにパニックに陥り最も極端な、『短絡的な解決策』に走ってしまうこともあるタイプです。
セネカ、ブルスの力を借りて当初は決して悪帝ではなかった皇帝ネロの名。しかし後にその名を地に落とすことになるいくつかの事件はすべてそんな彼の「短絡的な解決策」によるものでした。
残念ながらアクテとの初恋は母アグリッピナの猛反対により終わっていました。アクテとの恋は異母弟ブリタニクスの死、いや、ネロによる暗殺という犠牲すら伴っているものでした。
しかし、若き男性の恋心はそんな犠牲でおさまるものではありません。20歳になったネロ、彼は新たな女性に恋をしていました。
名をポッペア。アクテと違い身分もそれなりの女性でした。美貌も名高く明るく聡明でした。
もちろんネロには妻がいます。いわずと知れたオクタヴィア。母により政略結婚させられた前皇帝の実娘です。しかしネロはオクタヴィアを愛することが出来ませんでした。それは決して母に強引にさせられた政略結婚だからというわけではなく偏におとなしく地味なオクタヴィアの性格によるものです。
ポッペアはオクタヴィアとは違っていました。明るく、聡明で、しかも血統も申し分ない。そして、何よりも地位と名誉が好きでした。そう、アグリッピナのように。
ここで陳腐ながら「男は母に似た女性を求める」という言葉を思い出さずにいられません。
ネロは彼女に恋に落ちます。
しかし、ポッペアとの付き合いにはいくつか障害がありました。
まず彼女には夫がいました。ネロの友人でもある軍人オトーです。
皇帝ネロにとってこの障害の排除の仕方は簡単です。早速、軍部に手を回しオトーを遠い属州の担当にと配置換えをしました。
(この出来事は遊び人だったオトーの性格を変え、以降、彼は軍人として職務に励むこととなります。結果、皇帝の座を狙い『四皇帝の一年』と呼ばれる年の主役の一人になることになりますが、それはまた別の話。)
(オトー)
これで障害が消えたと考えたネロ、ポッペアに愛人になるよう迫ります。
そうです、彼女に夫がいる、という障害以上にネロにも妻がいるのです。
ネロからの求愛にポッペアは承知しませんでした。彼を愛していなかったからでも、今は辺境の軍人となった夫を愛していたからでもありません。アグリッピナに似て野心のあった彼女は「皇帝の愛人」という2番目の立場には納得がいかなかったのです。
困り果てたネロはオクタヴィアとの離婚を画策します。これに猛反対を示したのがはい、当然、母アグリッピナ。
母アグリッピナにしてみれば「可愛そうなオクタヴィア」は自らの人気を維持するための重要なカード。更には息子ネロが前皇帝の娘と結婚している、という事実はネロが正当な皇位継承者である証明でもあったのです。
もしネロとオクタヴィアが離婚などしようものならオクタヴィアは単なる「可愛いオクタヴィア」となりどこかの貴族と結婚し、自分にとっては何の意味も持たなくなるでしょう。そして皇帝ネロの地位も危うくなります。アグリッピナは前皇帝の妃とは言え、今ある彼女の地位はすべて『現皇帝の母』というもの。もし万万が一ネロが皇帝で無くなれば彼女は単なる女性です。
更にはネロがポッペアと結婚しようものなら。
アグリッピナは既にポッペアの性格を見抜いていたのかも知れません。ポッペアはネロと共に邪魔者、つまり自分を追い落とすでしょう。
自分の半生をかけて勝ち得た「皇帝の母」の座をむざむざ渡すわけにはいきません。アグリッピナは強く反対します。
現妻との離婚したいネロ、そして自分との結婚をせがむポッペア、顔をあわせれば強く叱責してくる母アグリッピナ。
デリケートなネロが選んだ解決策は最も極端で短絡的なものでした。
…to be continued...
そもそも彼は非常にデリケートな男、アウグストゥスの血をひいているのです。(非常にタフな男アグリッパの血もひいてはいますが、それはアグリッピナという女性を通して、というのも興味深いのですが) ネロは基本的には繊細でデリケートな男だったのでしょう。
友人たちと街で騒ぐことも好みましたが、彼が最も愛したものはギリシャ芸術です。決して知性も劣っていたわけではありません、いやむしろ当時のローマ人の中では高いほうだったはず。
そういう人間は物事を即断即決するタイプではありません。が、しかし、追い詰められて危機になったときにパニックに陥り最も極端な、『短絡的な解決策』に走ってしまうこともあるタイプです。
セネカ、ブルスの力を借りて当初は決して悪帝ではなかった皇帝ネロの名。しかし後にその名を地に落とすことになるいくつかの事件はすべてそんな彼の「短絡的な解決策」によるものでした。
残念ながらアクテとの初恋は母アグリッピナの猛反対により終わっていました。アクテとの恋は異母弟ブリタニクスの死、いや、ネロによる暗殺という犠牲すら伴っているものでした。
しかし、若き男性の恋心はそんな犠牲でおさまるものではありません。20歳になったネロ、彼は新たな女性に恋をしていました。
名をポッペア。アクテと違い身分もそれなりの女性でした。美貌も名高く明るく聡明でした。
もちろんネロには妻がいます。いわずと知れたオクタヴィア。母により政略結婚させられた前皇帝の実娘です。しかしネロはオクタヴィアを愛することが出来ませんでした。それは決して母に強引にさせられた政略結婚だからというわけではなく偏におとなしく地味なオクタヴィアの性格によるものです。
ポッペアはオクタヴィアとは違っていました。明るく、聡明で、しかも血統も申し分ない。そして、何よりも地位と名誉が好きでした。そう、アグリッピナのように。
ここで陳腐ながら「男は母に似た女性を求める」という言葉を思い出さずにいられません。
ネロは彼女に恋に落ちます。
しかし、ポッペアとの付き合いにはいくつか障害がありました。
まず彼女には夫がいました。ネロの友人でもある軍人オトーです。
皇帝ネロにとってこの障害の排除の仕方は簡単です。早速、軍部に手を回しオトーを遠い属州の担当にと配置換えをしました。
(この出来事は遊び人だったオトーの性格を変え、以降、彼は軍人として職務に励むこととなります。結果、皇帝の座を狙い『四皇帝の一年』と呼ばれる年の主役の一人になることになりますが、それはまた別の話。)
(オトー)
これで障害が消えたと考えたネロ、ポッペアに愛人になるよう迫ります。
そうです、彼女に夫がいる、という障害以上にネロにも妻がいるのです。
ネロからの求愛にポッペアは承知しませんでした。彼を愛していなかったからでも、今は辺境の軍人となった夫を愛していたからでもありません。アグリッピナに似て野心のあった彼女は「皇帝の愛人」という2番目の立場には納得がいかなかったのです。
困り果てたネロはオクタヴィアとの離婚を画策します。これに猛反対を示したのがはい、当然、母アグリッピナ。
母アグリッピナにしてみれば「可愛そうなオクタヴィア」は自らの人気を維持するための重要なカード。更には息子ネロが前皇帝の娘と結婚している、という事実はネロが正当な皇位継承者である証明でもあったのです。
もしネロとオクタヴィアが離婚などしようものならオクタヴィアは単なる「可愛いオクタヴィア」となりどこかの貴族と結婚し、自分にとっては何の意味も持たなくなるでしょう。そして皇帝ネロの地位も危うくなります。アグリッピナは前皇帝の妃とは言え、今ある彼女の地位はすべて『現皇帝の母』というもの。もし万万が一ネロが皇帝で無くなれば彼女は単なる女性です。
更にはネロがポッペアと結婚しようものなら。
アグリッピナは既にポッペアの性格を見抜いていたのかも知れません。ポッペアはネロと共に邪魔者、つまり自分を追い落とすでしょう。
自分の半生をかけて勝ち得た「皇帝の母」の座をむざむざ渡すわけにはいきません。アグリッピナは強く反対します。
現妻との離婚したいネロ、そして自分との結婚をせがむポッペア、顔をあわせれば強く叱責してくる母アグリッピナ。
デリケートなネロが選んだ解決策は最も極端で短絡的なものでした。
…to be continued...
どんな解釈になるのか楽しみにしてます。
あくまで僕の趣味で書いてるものなのでエマさんがご存知の続きと違っててもご容赦くださいねー。
>Cilliegeさん
はい、頑張って書きます。
>クメ
もうちょっとさくっと書くつもりだったけど長引くわ、これ。