遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

はるかなる岸辺

2012年03月26日 13時22分45秒 | 読書

        はるかなる岸辺      キャリル・フィリップス(著)21011年10月発行

  
   読んでいる途中、徐々に暗い不安、なんともいい現せぬ不安が心を占有し始め、
   読後、その不安感が鉛のように心に沈んだ。そんな小説でした。

   「いったいどんな場所に僕はきてしまったんでしょう」
   本書の主人公の一人「ソロモン」は、問いかける。
   内戦に荒れ狂うアフリカの地から命からがら逃れ、困難な旅をなんとか生き延び、
   彼が辿り着いた『はるかなる岸辺』イングランド。
   そこに辿り着けば、人生をやり直せると思い、、、。
   難民として保護を受けて、いずれは市民として、少なくとも安全に生活できるだろう
   と思って、、、。
   兵士として人を殺め、大切な家族を目の前で虐殺された悪夢の記憶を薄めて生きたい
   という密かな願いを胸にイギリスに辿り着いたソロモン。
   しかし、そんな彼の願いは叶わなかった。
   安全な地であるはずのイングランドで彼は殺されてしまうのだから。
   「ソロモン」の隣人として登場するもう一人の主人公中年のイギリス人女性
   「ドロシー」もまた、自分の故郷にありながら自分の居場所をなくしている。
   礼節をなくしたイングランドの現状に戸惑い、アフリカからやって来たと思われる
   住宅地の管理人となり隣りに住む「ソロモン」に、今は消えゆく礼節を見出し、
   彼に対しかすかな友情を抱き始める。が、突然ソロモンの死とその原因を知り、
   ますます孤独に苛まれ精神のバランスを崩していく。
   
   なんとも救いのない小説で気が滅入るが、これが現代のイングランドの姿なのだろう。
   訳者あとがきによると、
   著者のキャロル・フィリップは、
   生後4ヶ月で両親に連れられカリブ海のセント・キッツから移住してきて
   イングランド北部の町リーズの小学校に通っていた。が、この黒い肌の少年は、
   自分が暮らす場所より他に故郷を知らないにも関わらず、ことあるごとに
   「どこから来たのか」と訊かれつづけたという。
   著者はその頃のことを
   「有色人種(カラード)になるにはもう遅い、イギリス人(ブリティッシュ)に
   なるにはまだ早すぎた」とエッセイに記しているそうだ。
   イギリスにとって、二十世紀最後の四半世紀は、まさに世界中からやってきた
   「よそ者」とその子供達が、イギリス人に、即ちブラック・ブリティッシュに
   なっていった時間といっていいだろう、と訳者は語っている。
   悪名高い1968年の保守党「血の河」演説で
   「西インド人やアジア人はイギリス生まれだからといってイギリス人になるわけ
   ではない。法律では、イギリスで生まれればイギリス市民だが、やはりそれでも
   西インド人であり、アジア人なのだ」と言い放っている、とある。

   そんな背景を知って読むと、小説でこの著者の謂わんとしていることが痛いほど
   突き刺さってくる。
   様々な困難な問題に埋もれつつある日本でさえ楽園なのではないか、と
   一瞬だけでも思えてしまうほど。
   問題のない国などないのだ、孤独じゃない人なんていないと、憂いてしまう一冊。
   
   気分転換に、ブータンの子供達の写真でも観てみよう・・・。

     わがまま母
   
   
コメント
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