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さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

技巧派王者の輝き、またも 堤聖也、若き強敵を退ける

2023-09-02 00:07:24 | 関東ボクシング



ということで実質この試合がメインかな、と思っていた日本バンタム級タイトルマッチ、兼、バンタム級トーナメント準決勝戦。
試合の度に技巧の冴えが増していく王者、堤聖也と、僅か4戦目ながら、一回戦の試合において、一躍「ホンモノ」のホープと目される力を見せた強打者、増田陸。

アマチュア時代に対戦があり、年長の堤が勝っているそうですが、アマからプロに舞台が移ると、時に驚くほど、力関係が激変することもあります。ボクシングに限らず、どんなスポーツでも。
とはいえ、プロでも僅か4戦目、そのうち2戦は外国人選手に圧勝で、真のキャリアと言えるのは僅かという増田陸ですから、プロ入り後、その技巧で勝ちを掴みきれない悔しさを経て、遂に王座を手にした堤聖也の方が有利だろう、というのが普通の予想でした。


ただ、試合前から増田の顔付き、身体付きを見ていると、日本の若手ボクサーというよりは、昔日の強い韓国人ボクサー、或いは世界戦でもないと日本には来ないレベルの、強いタイ人ボクサーのような風情ですらある。
出来る限り失礼にならない表現を心がけて言いますが、この押し出しの強い面構えは、他ではなかなか見られない代物。
これは何か、一発しでかすんではないか、という気もして、試合前から気持ちが沸き立ちました。


初回、立ち上がりからすぐ、サウスポーで始めた堤聖也が下がって回り、増田陸がじりじり出て、左を打っていく構図に。
堤の「目利き」が確かなところがさっそく出る。適当に構えて立っていたら、増田の強くて正確なパンチが来る、という判断。
普通なら王者らしく、ええ格好のひとつもしたいところだろうに、そういう「要らんこと」は考えない。
増田をいかに強敵と見て、警戒しているか。それが開始早々から、はっきりと伝わってきました。


2回、増田の攻めが堤を脅かす。左は最短距離で飛び、右の返しも鋭い。打ってもバランスに乱れが無い「抑えた」フォームで、でも強打が来る。
3回、増田は離れても右ジャブが良い。その上で左強打があるから、堤も苦しいところ。左フック互いに当たるが、増田の方が優勢。

4回、引き続き増田のワンツーが怖いが、低い姿勢から色々探っていた堤が、ガードに構えていた右をリターンする。
増田が打つ左のパンチがガードに戻る前に、この右が入る。昔、ハグラーがやっていたようなリターンパンチのテクニック。
この右から左と、ワンツーを決め、次は右構えにスイッチして、左から右のワンツー。巧い。増田効いたか、クリンチに逃れる。

さすが堤、この辺から攻め口を増やしていくか、と思ったが、この回増田の左アッパーが飛び、一発で堤の眉間から出血。縦に傷が出来ている?怖ろしい切れ味。
けっこう派手に出血。堤、左を再三ヒットして、この回は取るが、同時に、TKO負けの危機に立つことに。


5回、増田が右ジャブ、左で狙う。傷を負った堤がどの程度出てくるものか?堤、少し見たあと、行くと決めたようで、左フックを決めてさらに前進。
増田は左アッパーを織り込んだコンビがよく出るが、堤は打ち終わりを左フックで狙い打ち。

堤、圧力かけて出る。傷を負った次の回に、勝負を賭けている。単に巧いだけでない、胆力というか気合いが見える。
増田は鋭いコンビを決めるが、打ち終わりに堤の左が強打で来る。両者のガードにも、差を感じるところ。数は増田だが、強打しているのは堤。
この回、堤が右ボディから左を決めて増田を下がらせる。増田押されてスリップダウン。明らかに威圧され始めている。

途中採点は3対2で割れ、2-1増田リード。この採点だと、計算も何も無い。互いに勝負するのみ。


6回、堤が飛び込むように左フック決め、細かいパンチをインサイドへ集め、左右フックを外から叩く。
増田の左クロスも鋭いが、堤ガードで受ける。そしてまた左右フックで攻める。攻めるときには右構えに変わっている。
増田、後退し、サイドに逃れ、という場面も。
7回も堤が出る。増田は右ボディ、コンビも繰り出すが、堤の左クロスを打たれる。両者右ガードの「防御率」に、はっきりと差がある。

8回、増田ワンツー増やして反撃。堤も変わらず左ヒットで対抗。
9回も増田が左決めるが、打ち合いで左決めたあと、堤の小さい右フックを食らい、ダメージあり。前にのめってクリンチ。
増田踏ん張って左決めるが、堤はそれに倍するヒット、攻勢を続ける。

最終回、堤がポイントリードを得て迎えた、と見える。しかしここまで、増田の攻撃を抑えて攻勢を取り続けるのは、当然楽なことではない。
疲労が見える堤に、増田が最後の意地で迫る。左強打、左右のコンビを決め、堤のリターンもものともせずに攻める。
最後、右が相打ち気味、ここは堤がまさったが、ラウンド全体は増田のもの。


判定は前半やや増田リードも、後半堤が挽回、という見た目通りのもので、6対4がふたり、7対3がひとりと、3-0で堤の勝利でした。




まずはこの試合、増田陸の健闘に拍手、です。
このトーナメント出場選手が決まったとき、外国人に圧勝したふたつの勝ち星しか無いB級デビューの新人が、人もあろうに堤聖也と、名勝負という表現もおかしくないようなファイトを繰り広げるとは、まったく思っていませんでした。
先の一回戦を見て、これは思った以上に良い選手だ、と思いましたが、それでもここまでやるとは。

振りの鋭い強打。バランスが良く、ほどよく膝が降りたフォーム。打たれて危機に立っても堪え、王者相手に10ラウンズ、緊張を強い続けた闘志と体力。
いずれも4戦目の選手とは思えない水準にあります。日本のバンタム級シーンに、改めて、次世代のホープが登場しました。
相手が堤聖也のレベルにない王者だったら、おそらく4戦目での戴冠が、現実になっていたことでしょう。
防御の面で、技巧の王者堤に劣ってしまい、今回は敗れましたが、それは今後の課題ですね。



そして、その若い強敵に相手に、堅いガードと的確な攻防の選択でもって、見事に勝利した王者、堤聖也の闘いぶりも見事でした。
序盤は離れ、増田の良い距離を見た上で、徐々に増田の強打で抑えられていたスペースに、右リターンを端緒に侵入。
その上で距離を詰め、離れていれば問題にはならなかった増田の、若干低い右ガードを、左フックで再三打ち崩す、という展開に持ち込む。
カット、出血というトラブルがあったものの、それも乗り越えての勝利、見事なものでした。


キャリア序盤は、勝っていたような試合を引き分けにされ、敗者扱いもされ、という具合で、悲運の技巧派という印象もありましたが、心倦まずに闘い続け、今はその技巧の冴えが、結果に繋がるようになっています。
トーナメント決勝で穴口一輝を破れば、賞金とともに、世界挑戦のチャンスが得られるかも知れない、ということも含め、かつての悲運の影は、完全に取り払われたと言えるのではないでしょうか。
澤田京介、南出仁に勝利し、今また次世代のホープ増田陸を下す過程において、その試合がライブで見られましたが、今回のLemino配信での試合ぶりもまた、堤聖也の名を高め、そして広めることでしょう。



心配は傷の治癒ですが...出血はかなりあったように見えましたが、実況解説が言うように、ドクターチェックが入らなかったのは、傷自体は大きくも深くもない、ということだったのでしょうか?ならば幸いなことですが...。
見た印象では、12月に次戦というのは、厳しいようにも思ったんですが。気がかりなところです。


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3 コメント

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Unknown (海の猫)
2023-09-02 08:58:46
堤はスピードとタイミングで上回っているとはいえ、常に狙っている強打者相手、しかもカットもある状態であの戦いぶり。痺れました。技術以上に、その技術をあの状況で発揮できる精神力に圧倒されました。前半僅かにポイントリードされましたが、その焦りも傍目には見えず。自分は前半もやや堤?と思いましたが、割れそうですし、生で見たら増田のパンチの迫力は更に映えるでしょうね。堤にはこのまま優勝して、賞金と拓真への挑戦権(多分)を手にして欲しいです。
増田に関しては、4戦目らしからぬ落ち着きとらしい単調さの両方が見えました。プロでの経験の差とも言えますが、ハードパンチャーゆえとも見え。今のままでも大概の相手に勝てるでしょうから、ここからどこまで伸びるかは、本人の意識次第で大きく分かれそうです。

やはりいいカードを組めば、いい試合って生まれるのですね。時間はかかるかもしれませんが、好カードを組み続けていれぱ、Leminoでボクシング視聴する人も定着して行くのでは。NTTさんには長い目で見て欲しいです。そして映像で見ても会場の盛り上がりが伝わり、こういう図を見せられれば会場に足を運ぶ人も増えそうです。

番組に関しては細かいですが、もう少しだけ入場曲の音量を上げて欲しいですね。曲のチョイスは選手の個性が出ますし、試合に向けて盛り上げるところなので。他は文句ありません。

あのリングアナさん、声も良いし読み上げも上手いので、もう少しシンプルにしてくれれば、普通に好評だと思うのですけどね。その方がミスも防げますし。
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Unknown (モノクマ)
2023-09-02 14:53:28
堤はサウスポーからの自然なスイッチが前回の南出戦から板についてきて、そのトリッキーさで生まれる隙を、持ち前のタイミングの良さでうまく突き有効打を与えられた一方で、パワーの面では、南出が打たれ弱すぎたのか、このスタイルでもダメージを与えられるのか疑問に思ってました。仮にパワーレスでも有効打で勝れるので世界でも通用しそうだなとは思ってましたが、今回を見るにパワーも十分ありそうでしたね
世界王者になれるかは相手次第なところもあるので難しいですが、個人的には既に世界王者クラスと感じます

増田も現時点での良い部分がうまく発揮できていましたね。ただ、やはり堤と戦うには経験が足りなかったでしょうか。今後、引き出しを多くすることができれば一気に化けるのではと期待が持てる内容でした。そのためにも、増田のパンチ力はとてつもない武器になると思いますが、それだけに頼るのではなく、より生かせるように伸びてくれると嬉しいです
返信する
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2023-09-04 17:16:18
>海の猫さん

堤聖也はキャリア序盤で苦労も多い選手でしたが、それ故に(と、簡単に言って良いのかはともかくも)単に巧いだけでない据わりの良さ、粘り強さを感じますね。次は穴口一輝ですが、もちろん油断大敵なれど、予想は有利でしょう。井上拓真戦、ないしは彼を破る者がいればその相手との世界戦へ、ルートは出来ているはずですので、頑張ってほしいですね。
増田はさすがにこの相手に4戦目の戴冠とは行きませんでしたが、改めて大器であることを示したと思います。今の自分に不足するものについて、率直な気持ちで向かい合ってほしいですね。また、ジムの同僚、矢代博斗というカラーの違うライバルもいますし、出世争いが楽しみです。
今回は特にセミとセミセミが、Leminoのボクシング配信の価値を上げる、見合うものとしてのグレードあり、でしたね。仰る通り会場の雰囲気も良好でした。入場曲については、あれは何ですかね。権利関係で、はっきり聞こえるようには出来ないんでしょうか?あのリングアナについては、全試合引退試合みたいやな、というに尽きます。コンパクトに抑えめにやれば、まだ良いかもしれませんがね。


>モノクマさん

堤、南出戦でのダウンシーンは、確かに偶発的に何かあったかな、という印象でしたね。しかし今回はしっかり打ち込めてもいました。増田が良く鍛えていて、耐えたなあ、とも見えましたし。ただ、世界戦のレベルで決定打として通じるものがあるかというと、そこは今後の課題かもしれません。総合的には、世界挑戦者としては充分、奪取成るかは...これも今後次第、というところで逃げます。
増田は現時点ではこれ以上望めない健闘だったと思います。トーナメントの組み合わせなくば、帝拳がじっくり育てる選手のひとりだったでしょう。ただ、それだけでは停滞も生じたでしょうし、難しいところでしたね。しかし今の時点で、けっして力に頼ったボクシングではないですし、方向性については心配要らないかも、と見ています。敗れて名を上げたホープの今後、楽しみですね。
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