今回の井上尚弥世界戦は、他に世界戦がラインナップされていなかったのですが、下手な世界戦飛ぶなコレ、という試合が、セミで闘われました。
日本バンタム級タイトルマッチ、兼モンスタートーナメント決勝戦、堤聖也vs穴口一輝戦は、目を引かれる技巧の応酬から、終わって見れば誰にも予想外の、壮絶な闘いが繰り広げられました。
初回、スイッチヒッター堤聖也の選択は、サウスポーでのスタート。右リードが最短距離を通る。正確。
しかし新鋭、穴口一輝、右左のワンツー伸びる。やや穴口か。
とはいえ、堤からすれば、別に悪いスタートとも見えない、普通の偵察戦かと思ったが、堤は穴口の速さと、柔軟な様子を見て、好きな間合いでやらせていてはまずいと判断したのものか、2回早々に左のオーバーハンド。圧し、叩きにかかる。
穴口の右へのステップを左フック(打った瞬間は右構え)でヒット。しかし前後のステップが速い穴口にワンツー、左カウンターをヒットされ、逆に失点。穴口の回。
展開を変えに行って裏目に出た堤、悪いことが続き、3回穴口のショート連打で左瞼を切って、出血。
傷の深浅は不明ながら、幅はけっこうなもの。
堤なおも出て、打ち合いで左クロス当てる。穴口倒れるがスリップ。「Lemino」の白いロゴの「L」の字の上で右足が滑った模様。
穴口のジャブに、堤左クロス被せるが当たらず。ドクターチェックが入ったあと、穴口の左ショートカウンター決まる。穴口の回。
4回、穴口好調続く。ジャブ、左カウンター、堤が左振っても、右引っかけてサイドへ。右フック外して左カウンター。ワンサイドの様相。
ところが2分半過ぎ、堤が少しだけ遅らせた?左クロスをヒット、左右で追撃、さらにフォローすると、穴口ダウン。
最初の左を逃せず食った後の、堤の追撃に足が動かず、打たれてしまった。
優勢だったラウンドを落とし、良い流れを失う、痛恨のダウン。10-8で堤。
5回、当然堤が出る。しかしショートの打ち合いで、徐々に穴口が盛り返し、終盤左の好打が数回。迷うが、穴口。
6回、堤少し疲れが見え、穴口の距離が出来る。ジャブ突いて、左アッパー、右フック引っかけ、飛び込みの右。
合間に、堤に二度目のドクターチェック。「余裕で見えてますよ」と声が聞こえる。セコンドもかなう限りの止血をしていると見えるが、しかし右を打たれていて、苦しいところ。
7回、傷があるけど出ないとならない、堤も勝負どころ。前に出て攻め、クリンチの間になるまで詰める。
穴口踏み込まれてカウンターも取るが際どいものに。ここでクリンチの離れ際に、堤が右ヒット、穴口が二度目のダウン。
穴口立って再開、堤ショートで連打し攻める。しかし詰めるには至らない。両者疲れ、ダメージありか。ジャブがまともに相打ちになる。
終盤、穴口の左ストレート、左右のヒットあり。ダウンがあるので10-8、堤だが、凄いラウンド。
8回、堤はスイッチするフェイントを入れながら前に出る。堤がボディ攻めると、穴口も左カウンター、アッパー。堤の攻勢、穴口のヒット。やや穴口?
9回、最初は同じ構図。堤が手数、穴口が左カウンター。しかし堤が踏み込んで、右ジャブとフックの中間のようなパンチがタイミング良く決まり、穴口ロープへよろめく。
堤すかさず身体を寄せて、左右のボディブローを連打。追い立てるように攻め、また左右のボディが入ったか。穴口が両手をつく。三度目のダウン。
穴口立つ。堤攻めるが、穴口粘る。左右共に腕の遠心力だけで打つようなパンチだが、それが堤にヒットする。
互いにリング中央に立って、最後の力を振り絞って、という絵。またも凄い、としか言えないラウンド。10-8堤。
実況によると、リングサイドにジェシー・ロドリゲスが来ていて、拍手を送ったとのこと、でした。
最終回、堤出るが、信じられないことに穴口が盛り返す。ボディ打ち合いから左ストレート、右フックなど、コンタクトの度にヒットを取り、打ち勝つ。
出血で顔を朱に染めた堤を、穴口さらに打ち込む。堤は身体ごと打っていく感じだが、足がついてこず、間が空くところに穴口の左が伸びてくる。
この回穴口が取って、判定はどうなるか、と思っていたところ、ラスト10秒の拍子木が鳴った、と思ったら堤が足を踏み換えて、右構えにスイッチ。
ここに来て...と、右ストレートと左フックが入って、穴口が前に崩れるようにダウン。4度目。10-8、堤。
優勢に進めたラウンドを、ダウン食って落とす、というのは、4回と同じ構図。
判定は3-0、堤でした。
堤聖也は、南出仁、増田陸に続いて、またも若き強敵、穴口一輝を退けて、日本バンタム級チャンピオンの座を護るのみならず、その名を一段二段高めたことでしょう。
中嶋一輝や比嘉大吾とのドローの頃には、この選手は悲運の技巧派に終わるんではないか、と心配もしましたが、時代はあっという間に変わり、日本王座獲得後の、トーナメント企画に挑む決断をし、リング上では苦しみもあったものの、それを乗り越えて勝利を重ねたことで、その試合ぶりは以前とは比べものにならないほど、多くの目に触れたはずです。
しかもLeminoのライブ配信ですから。比嘉大吾戦など、確かTBSが一ヶ月遅れの関東ローカル録画放送という有様でしたから、えらい違いです。
そして何より、ホールで観戦した中嶋一輝戦、まさかのドロー判定、しかも敗者扱い(二重の意味で理解不能でした)でゴッドレフトトーナメントの優勝を逃し(奪われ)、優勝賞金を取り損ねたことを思えば、今回、大橋ジム主催のトーナメントで賞金1000万円のプレートを手にする姿は、痛快な気持ちにもなりました。
今後の彼が、井上拓真やジェイソン・モロニー、エマヌエル・ロドリゲス、或いはサンディアゴvs中谷戦の勝者らと対し、誰かを攻略して世界のタイトルホルダーになれるものかどうかは、私にはわかりません。
その実力は世界上位ランカーとして通じるものだとは言えますが、試合の度に出血することなど、不安要素もなくはないですし。
しかし、彼の闘ってきた試合の記憶と、日本チャンピオンとして堂々たる戦績をもって、彼がこの後、世界のタイトルに挑む日が来るなら、ボクシングファンならば誰もが当然のこと、堤聖也の勝利を心から願うでしょう。
敗れた穴口一輝についても、まだ浅いキャリアながら、真正ジム山下会長の期待を受けるだけのことはある、と改めて納得の素質を証明した、と思います。
死力を尽くした、という表現がぴったりの大健闘でした。
心身共に相当なダメージではあるのでしょうが、やはり、彼が再び起つならば、これまたボクシングファンは、その姿に惜しみなく声援を送ることでしょう。
井上尚弥の試合となれば当然、場内は大盛況で、しかし高額のリングサイド席に陣取った観客の内、この試合の注目度を理解していた層がどの程度いたものか、ちょっとわかりませんが、試合が終盤に進むにつれ、場内は騒然とし、感嘆の声が上がっているように見えました。
本当に、下手な世界戦などよりも、よほど端的にボクシングの持つ熱量、凄みを表現する試合だったと思います。
現地に行って見られなかったのを悔やむのは、この日に関して言えばメインよりもこの試合だったかもしれません。
堤聖也、穴口一輝に改めて拍手したいと思います。素晴らしい、凄い試合でした。
堤は個人的には十分、世界を狙える実力があると思っている側の人間ですが、今回の穴口戦を見ると現王者たち相手では厳しく映りますね。ほとんどが穴口以上の技術とアマ歴を持つ王者ばかりですし、空転させられることはないであろうサンティアゴもおそらく中谷に取って代わられそうですし。サンティアゴのままでもそれはそれでそのくらい強い選手という証明になりますから
世界を取るには厳しい戦いになると思いますが、こういう試合、サバイバルマッチをした選手はしっかり応援と期待をしたいです
メインも十分楽しめましたが個人的にはあまり状況を描写していない解説者に邪魔された感が強かったです
主に解説していた西岡は選手として好きですが、井上の解説だと、嫉妬?ではないと思いますが、大分ずれて相手よりの解説が多い気がするんですよね
今回、視聴者の多くが(全くそうではないのに)苦戦と感じたのもあの解説をメインにしたことと、それを実況がもとに表現していたためと感じました。タパレスにダメージはないような解説を続けていたため最後のKOも、なんで?怪しくない?みたいなライト層の視聴者が多かったように見えました
状況を無視したあまりにも日本人選手よりの解説も嫌われますし自分も好きではないですが、一番良くないのは状況を無視した相手よりの解説だと個人的には思います。それは状況を解説できていない上に勝利した自国の選手の功績に水を差すことになると思うので
堤くん打たれすぎとか、穴口くん勿体なかったとか言うのは不粋。スイッチして戦う、そしてその割に乱れも少なく芯の強い王者をあれほど不利な状況に追い込んだ穴口くんのスピードと技術、カンの良さには驚きました。ダウン無ければ勝ちでしたが、実力充分。むしろあれほど劣勢、しかも出血でストップ負けの可能性まで追い込まれながら、ダウン取れる、勝ちをもぎ取れる堤くんの驚異的な底力にただただ敬服します。
両者とも今回の経験、そして穴口くんは自分の技術戦術は日本タイトルで充分やれるという自信、堤くんは劣勢を盛り返した成功体験と、正の蓄積はものすごいでしょう。
ただ同時に両者のダメージ、負の蓄積が心配。
スタッフ皆様のケアや配慮が行き届き、両者ともさらに前に進む事を願います。
いや下町くんの日本タイトル戦が国内最高試合かと思いましたが、持ってかれましたかね。この試合見られて幸せです
穴口は本当に上手いですね。あそこまで堤をコントロール出来るとは思いませんでした。距離の取り方もタイミングも抜群。技巧派の堤が不器用に見えるくらい。しかし堤の勝利を掴む嗅覚といいますか、一瞬のチャンスを逃さない。最終ラウンド、このままでは僅差で負けると思ったら、あのダウン。
自分がボクシングを見始めて、最もメンタルが強いと思ったのは田口なのですが、堤はそれに並ぶかもしれません。自分は堤が世界を穫れるとまでは思っていなかったのですが、ひょっとしたらその精神力で、技量で上回る相手からのアップセットもあるかもしれないなと。
穴口の試合後の情報がないので、非常に心配です。何もなければ良いのですが。
Lemino はまだ見れていないのですが、メインの実況と解説はモノクマさんのおっしゃるような感じだったのですか。自分は基本的には井上の圧勝、完勝、ただタパレスが非常にやりにくく倒すのに手こずった、くらいに思っていたので、SNSなどで「苦戦」「採点が井上寄り」など見て驚きました。井上に対するハードルが上がり過ぎと思いましたが、解説の影響もあったのですかね。
日本タイトルマッチのブランディング確立を日頃から主張している身としては、ほれ見ろ、これや、こういうことや、と快哉を叫びたくなるような試合でもありました。今回は普通よりも多くに見られる場ではありましたが、基本的にはこれがメインじゃないと駄目だ、と思ってもいます。井上尚弥という超特大ボーナスのような存在とは別にしても、充分に成り立つくらいじゃないと、という。
堤の世界タイトル挑戦については、他の元王者とか上位に長い人とかが、勝負先送りみたいな試合をしている内に、上昇期の若い好選手をことごとく退けた堤が一気に並んだか追い抜いたか、と見ても良いと思います。ただ、勝算となるとそれぞれに手強いし難しいのは当然でもありますね。井上とか、次の中谷とか、挑戦者なのに有利と目される方が本来おかしいので(笑)。
でも、そういう試合に挑み、結果どうあれ挑むこと自体に、ファンの納得があるかないかというのはとても大事なことです。そこをおろそかにするから、世間からそっぽを向かれるのですよね。堤聖也は仰る通り、応援に値する挑戦者だと思います。
メインの解説については、西岡や長谷川、畑山のような世界のトップで闘った競技経験者ならでは、井上尚弥の凄さというか、あらゆる面でレベルが違うことを、我々とはまた違う角度、次元で理解しているが故に、その高い評価からして...という面があるのかな、と感じました。また、リングサイドで見ていると、映像で見るのと違う印象になってしまうこともあるのでしょうね。結果的に「一見さん」をそういう方向へ誘導してしまったのなら、残念なことではありますが、さりとて大本営発表みたいに、最初から自分がどう見たかよりも、井上への忖度を最優先したような解説を意図的にするよりは良い、という面もあります。昔日のTBSみたいなことをされたら、それこそ冷めますから。ただ、今回は裏目に出た部分あり、でしたね。
>アラフォーファンさん
堤本人はスイッチという概念はない、というコメントをしていて、我々が思うより一段上の域にあるようですね。相手との位置関係に応じて打つ、その流れの中で起こる事象に過ぎない、ということでしょうか。穴口は優れた素質と、危機にあっても堂々と闘える芯の強さを証明しましたね。
ただ、仰る通りこの試合が今後に残すものとしては、端的にいって身体のダメージが心配になります。ボクシングというのは厳しいもので、この辺りはごまかしが効かないものです。あんな素晴らしい試合をした選手が何故こんな...と思うようなことは珍しくもありません。我々の感動と引き換えに、多くを得て、同時に多くを失っているのがボクサーです。スペクタクルな試合を求める心の反対側に、そういう思いも抱えつつ、ボクシングファンは試合を見ているものだと思います。ならばこそ、送るべき拍手に力も入ろうというものですね。
>海の猫さん
両者とも、この試合に懸けたものの大きさに見合う佇まいでもありましたね。穴口は普通の相手だったら、西に逸材現る、衝撃の王座奪取、となっていた選手かもしれません。それを許さず、すんでのところで「撃墜」した堤の凄みが光りましたね。
堤の世界奪取なるかについては、だいたい上記コメントのとおりですが、適度なインターバルを空け、なおかつ時を失わぬうちに(勝手なことを書いていますが)、挑戦の機会があるといいですね。穴口は身体的に相当な疲弊があったようで、試合後の様子など精根尽き果てた、という様でしたね。心配です。
メインの解説については、これまたモノクマさんへの返信コメントのとおりですが、最近は井上に対して妙な言説を用いて腐す方々も増えて来たらしいですね。有名税、という感じなのかどうかわかりませんが。