さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

またも技巧の冴え、存分に 井岡一翔、2年ぶりの国内リングで4度目の戴冠

2019-06-20 00:06:48 | 井岡一翔




前所属ジム離脱後、3試合めの井岡一翔、2年ぶりの国内リングで、見事な勝利でした。

大柄な強打のアストン・パリクテ相手に、距離も違えばパワーも違うのがまざまざと見えた立ち上がりで、ジャブは食らうわ、右打ち下ろしは来るわ、アッパーのお出迎えもあるわで、まともに行ったらこら大変、という感じ。
実際、1、2回は失点していたと見ました。

しかし、普通なら距離詰めたいな、打ちたいな、となるところ、一見懐取りたそうに見せといて、実は逆に相手を釣って、誘っているのでは、と見え始めたのは3回くらいから。
ジャブを敢えて「置いた」り、前に出る振りをして、パリクテの右クロス被せを外したり。
本当に外したいときはサイドに回り、「来て」欲しいときは、わざと真っ直ぐ下がったり、という使い分けが、この辺りから見えた気がしました。

さらに、4回になると、パリクテの右被せのきっかけになっていた左ジャブを控え、フェイント入れてから打つように。
さっと入って左ボディを決め、ジャブ打ちながら脱出、という鮮やかな技も。
この回、左フックの返しを好打。
5回は探り合いに戻るが、6回になるとパリクテの空振りが明らかに増える。

思うに任せ、好きに、気持ちよく打てていた序盤が嘘のように、思うに任せぬ流れになりつつあったパリクテ、自発的な判断か、セコンドの指示か不明なれど、7回に左アッパーから右ストレートのコンビを連発、攻めて出る。
ひと山作ろうという狙いだったか。
これに井岡がどう対するか、ちょっとでも迷いがあったらまずいことになっていたかもですが、井岡は離れず、外し、防ぐ自信があったと見え、踏み留まって打ち合う。右クロス、左ボディが決まって、やや優勢かというところ。
レフェリーが何事か注意のため割って入ったあと、距離が空いても、ワンツー決めて優勢を維持。

8回、井岡の右ショートがパリクテのアゴの先に入る。これ以降、パリクテ、口が開き加減。これ、ダメージけっこうあったように見えました。
9回、左ダブルが続けて決まる。苦しそうな様子のパリクテに、井岡が10回、ロープ際から右カウンター。
ぐらついたパリクテに右フック、左ボディ、相打ちの右カウンターもう一度。左フック、連打でストップでした。


改めて、大柄な強打の相手に、正面からの力比べになっていたら、とても敵わないところだったでしょうが、そこを埋めるのが、熟練というか、もはや老練とさえ言うべきか、井岡一翔の技巧と、それを支える冷静な試合運びでした。
最初はジャブの差し合いで勝てず、追撃も鋭く、迫力満点だったパリクテが、徐々に、好きなように打てなくなり、逆に軽くではあっても(或いは、そう見えても)打たれる頻度が増していく。
思うに任せぬ展開を、打開せんとして7回に出たが、それに失敗したあと、あまりに露骨に消耗した点は、世界の上位としては不足も感じましたが、逆に言えば、その脆さをここまで出さずに勝ち続けてきたのは、持ち前の攻撃力が、それだけ突出していたことの証でもあります。
実際、ドニー・ニエテス相手に、井岡一翔とはまったく違った趣の試合展開で、フルラウンド渡り合っているのですから。

しかし、そういう相手に、井岡一翔は改めて、正しく尊称としての「技巧派」という表現に相応しい、見事な闘いぶりで勝ちました。
まるでMSGでデビー・ムーアに勝ったときのデュランのような...とは、さすがに大仰かもですが、そんなイメージが浮かぶような、鮮やかな「技」の勝利、でした。


正直言って、日本初の4階級制覇、というお題目には、あまり関心がありません。
過去のいくつかの「階級制覇」の実情がああだった、こうだった...と言いたい気持ちもありますし、そもそも今回の試合とて、あれこれ言おうと思えば、いくらでも言い様はあるもの、でした。

しかし、過去にさんざん重ねてきた「レベコ上限」の「寸法」に収まる対戦相手との、半ば予定調和のような雰囲気の、数々の試合を経て、本人の心情がどうだったかは知らず、そこから離れて再起するという決断の後、幻の王者MWアローヨ戦、ニエテスとの東洋スター対決を経て、ひとつ間違えば倒される可能性も大いにあった強打者と闘い、見事に勝利した。
その事実は当然として、結果以前の問題としても、井岡一翔が、どう見ても体格面で不利は否めないと見える階級で、世界の上位陣と「素」の勝負を立て続けに闘い、勝ったり負けたりしながら、自身のボクシングをさらに磨き上げつつある。
その事実に、一人のボクシングファンとして、私は大いに拍手を送り、心から称え、脱帽もします。


そして、今の井岡一翔を称賛するのに、記録がどうだという話など、良くも悪くも必要の無いことだ、とも思います。
同じTV局の系列にいる田中恒成との対戦話については、最近、言下に否定したらしいですが、実際どうなるかはさておいて、本人の言の通り、米大陸のリングで、王者クラスと闘いたいという希望を追うのだとしたら、なおさらのこと、でしょう。
もし、事態がそのように、或いはそのための段階を踏むような試合の実現へと動くのなら、やはり彼は、過去の自分自身が置かれた状況との決別を求めて行動している、と見なすべきでしょう。そして、記録云々というのもまた、彼にとっては過去の些事に過ぎないのだ、とも。


今後、そのような闘いに挑むならば、その先に、厳しい結果が待っていることも当然、ありましょう。
しかし、井岡一翔が求める闘いが、そのようなものであるならば、ボクシングファンとして、それを見たいのは当然のこと、心底から応援もし、結果以前に、その挑戦自体を称えたい...というか、当然称えることでしょう。

現実がどう動くかはともかくとして、井岡一翔は今回、その過程において、見事な勝利を手にしました。
見応えある試合展開、見どころ多い闘いぶり、そして見事な「仕留め」での終幕。改めて、お見事でした!


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ということで、今日は自宅にてTV観戦。さすがに千葉、幕張まで観戦に出かけはしませんでした(笑)
paraviでセミまでを見て、メインのみTVを見たんですが、メインはTBSとparaviで、実況解説が違いました。
TBSは内藤大助、内山高志解説。paraviは佐藤修でした。

TBSはいつもの感じ(笑)の実況解説でしたが、paraviは解説の佐藤修のみならず、実況の方も、全体的に抑えめのトーン。
TBSの実況が「当たった、当たったー」とやっているのを尻目に?なんか渋め、大人の雰囲気というか。
最後のストップシーンも、ぎゃあぎゃあ騒がず、わりと淡々としていました。

これ、paraviの方でメインも見ようかな、と途中で思ったんですが、どうしても画質で、TV放送の方が良い。
ならば画面だけTVにして、音声はparaviで、と思ったら(私の環境では、なんでしょうが)タイムラグが1分前後くらいか、ありまして、断念しました。
しかし、こういう感じのも、やろうと思えば出来るんやな、という意味で、ひとつ発見?をしたような気持ちではありましたね。



で、セミの京口紘人vsタナワット・ナコーン戦は、残念ながら前後のステップがほとんどで、サウスポー相手にサイドに出ることをしない(出来ない?)京口が効率の悪い闘い方に終始しました。

立ち上がりは、メインのパリクテ以上に優勢でしたが、タナワットがスタンス広めに取って構え直し、上体を柔軟に使って外す防御を作り直すと、遠回りの位置から強振するパンチの的中率が一気に落ちて、逆に打たれる頻度も増えていき、その流れを引き戻せませんでした。
京口が取った回は、一打の威力と攻勢で抑えたものが多く、タナワットはしっかり外し、当てた回が多かった、という印象。
ポイントは中差で3-0でしたけど、私は7対5くらいか(迷ったのも当然ありますが)と見ました。

タナワットは、実際の採点の読みがどうだったかはともかく、自分なりに捌いた感覚のまま闘い終えた、という風でした。
ムエタイ強豪王者の凄みは見えませんでしたし、それを見せようという意志の強さも伝わってきませんでしたが、それでも闘い方ひとつで、こういう試合が出来てしまう。

井岡一翔とは違い、感心したわけではないけれど、一言、やっぱり奥深いなぁ、というところ、でした。



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ということで、最後に一曲。
THE YELLOW MONKEY で “Horizon“ です。





コメント (9)
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