二日間連続観戦で、世界とつくタイトルマッチを5試合見たので、
どんどん感想文を書いていきます...忘れないうちに(笑)
そういうことでとりあえず大晦日、大田区の方から。
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中国でゾウ・シミンを倒しての戴冠、日本より中国で有名、
王座獲得後も、初防衛戦までは配達のバイト、家賃5万ワンルーム住まい...
いかにもTV局、それもTBSが好んで取り上げそうな横顔の王者、木村翔に挑むは、
妻子に再起を誓う、崖っぷちの元王者、というこれまたTV局好みの?五十嵐俊幸でした。
カードとしては、五十嵐が日本王者を争奪していた頃にやった試合のいくつかと、
果たしてどちらがグレードとして上なのかなと、試合前には思ったりもしました。
しかし木村が王者として自信をつけ、密度の濃い練習をその上に積み上げる、という
上昇期のサイクルのまっただ中にある、それが如実に見える試合になりました。
序盤から木村が積極的に攻め、五十嵐は左ヒットも単発。
両者疲れもダメージもない段階では、五十嵐の質の高さも見えるが、いかんせん数が乏しい。
2回も右ジャブと足で捌くが、木村の攻める印象が強いか。
3回、懸念していた負傷が起こる。五十嵐左目上カット。
五十嵐は古傷を持ち、木村は試合が進むにつれて、体が前にのめる選手。
それがサウスポーとオーソドックスで対するのだから...と心配していました。
しかしこれは木村のヒットによるもの。
五十嵐は足と右で捌くか、左でインサイドを打って攻め込むか、どちらかに徹することなく、
中途半端に見えましたが、その傾向がこの負傷で強まった印象でした。
五十嵐は基本、もっと木村から遠ざかって動くべきかと思いましたが、そうならず。
4回以降、さらに木村の攻勢、ヒットが支配していく。五十嵐が遠いときはミスもあるが。
五十嵐はジャブが良いが、続かず。
6回は五十嵐も左を当てるが、手数では木村。五十嵐にすれば取りたい回。
この回また五十嵐、右目上カット。これはバッティング。
これで五十嵐、いよいよ動きが乏しくなり、木村がさらに攻め込んでくる。
7回木村もカットがあるが、右から左の返しを決めて攻める。
8回木村の左フックが決まり、9回猛攻、コーナーで乱打してTKOとなりました。
「質」と「量」で言うなら、散発的には五十嵐が質の高さを見せるも、
木村の質も、以前見た試合より高まっていた、そんな印象でした。
さすれば量の比較ですが、これはもう圧倒的に木村。
そこで勝負が決まった、という試合でした。
木村は自分の持ち味を出して攻め続け、五十嵐が遠いときはミスもありましたが、
徐々に近づき、好打を重ねて、最後は捉えました。
もしこの両者が、数年前に後楽園ホールで闘っていれば、
果たしてこのような試合になったかどうか、と思うと、
木村の現状は、驚異の大躍進、というべきでしょう。
率直に言って、その試合ぶりは、まだ攻撃面での良さだけが見えるもので、
世界上位のボクサーとして、今後違う展開を強いられたときにどうなのか、
という疑問は残っています。
ゾウとの再戦、転級してきた田中恒成ほか、上位陣との対戦において、
そのあたりはシビアに問われるだろうと思います。
しかし、1位挑戦者としての現状に不足あれど、元WBC王者のサウスポーを
初防衛戦から攻め落とした試合ぶりは、観客にもTV視聴者にも印象的なものだったでしょう。
強豪がまとめて去り、ひとつの転換期にあるフライ級において、
今後さらなる成長があれば、台風の目にもなりうるファイターかもしれません。
闘志、スタミナ、手数が相まって、積極果敢に攻め続け、好機を逃さぬ試合ぶりは
今後、思う以上に注目され、人気が出る可能性もあるでしょうね。
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TVの生中継前に行われた、京口紘人vsカルロス・ブイトラゴは、
そんなに悪い試合でもないのに、なぜか場内があまり沸かないのが不思議でした。
序盤から京口が出る。ブイトラゴはあまり動かず防ぎ、微妙に芯を外して返す、という流れ。
初回左ダブル、2回はトリプルと京口が左のコンビを押し立てて出る。
ブイトラゴ、リターンを当てるが押し込まれ、少しずつ下がる。
京口は意欲的に攻め手を繰り出す。
3回ダイレクトの右。左ボディを効かせるが、右はミス。
4回ワンツー、右フックから左ボディ。
ブイトラゴは5回、京口に攻められながら左右フックを好打。
京口、休みなく攻めようとするが、微妙に外され、仕留められない。
というより、最初から探り、崩しを半ば省略したような攻め口で、
仕留めにかかっていること自体に無理がある。
一打のハードヒッターというより、それこそ辰吉丈一郎同様の、
コンビネーションパンチャーなのだから...と、この段階で少し不安も。
しかし6回、たぶんセコンドが言ったのでしょうが、目に見えて左ジャブが増える。
無理な突っ込みがなくなり、リズムが出て、後続打が出る。
右フック、右アッパー、連打で攻め込む。ブイトラゴ外しきれず、押される。
7回京口左ボディ、ブイトラゴ両手を挙げてノーダメージをアピール。
しかしこういうときは大抵...ということで、京口さらに出る。
上下にパンチを散らし、対角線のコンビも。ブイトラゴ懸命にしのぐが、
8回、反撃もかなわず、TKOとなりました。
なんか、見ていて、いろいろ見所ありというか、京口が若者らしく攻め立て、
世界上位に長いブイトラゴがそれをきわどく外して返す、という攻防は
悪いものではけっして無かったと思うんですが、場内いまいち盛り上がっていませんでした。
メインとの比較は酷なれど、セミと比べてグレードの劣る試合ではなかったのですが。
この試合だけ切り取って、別日にホールへ持ってったら良かったのに、なんて思ったりも。
何にせよ、京口紘人は、かつて辰吉丈一郎が敗れ、名城信男がけっこう苦戦した
「9戦目での初防衛」という難関に、果敢に挑んで突破したわけです。
序盤から積極的に攻め、それが難しくなったら、ジャブから仕切り直して、
悪くなりつつあった展開を変えたあたり、並の若手ボクサーとはひと味違う、と思います。
しかしそこまでの途上では、まだまだ経験不足やなあ、と見えたのも事実です。
だからこそ、爆発的なものはないにせよ、世界上位のベテラン、技巧派のブイトラゴと、
9戦目で闘って、勝った上で、今後に向けての反省も出来る、というのは、
非常に良いキャリアとして積み重なった、有意義な一戦でした。
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この日の前座は、和氣慎吾を筆頭に、谷口将隆、松本晋太郎といったメインクラスが
続々登場、揃ってタイ人を倒しました。
試合としては、特に語るところもないですが、知った選手が見られる、というのは
アンダーカードとしては悪くはなし。
和氣は「来年の大晦日は自分が世界戦を」と意欲を語っていました。
たぶん、TBSや陣営としては、今回ダニエル・ローマンに挑ませたかったのでしょうが、
まあその辺は仕方ないとして、本人の言どおり「来年(もう今年です)の大晦日」を目指すなら、
そこに至る過程が大事かなと。
松本亮はひとまず置かざるをえないとして、同級には間の良いことに?
大竹秀典や大森将平といった「TBS系」のボクサーがいるわけです。
次の大晦日、世界戦に辿り着くのはどっちだ!とかいって、盛り上がれるカードを
是非とも組んでもらいたいものです。ていうか、組むべき、です。
年末世界戦ラッシュは、日程集中のしわ寄せなど、多々問題がありはしますが、
その年末、大晦日を目指して、その課程をさらに楽しめるような流れがあれば、
ファンとしては、問題点にも目を瞑れようというものですしね。