さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

過不足なき引退試合 パッキャオ、難敵ブラドリーをクリアに下す

2016-04-10 16:15:07 | マニー・パッキャオ



ということで生中継を見ました。

過去二試合では、懸命に動いては打つティモシー・ブラドリーに、好打はあれど強打は決まらず、
時に手こずり、持てあまし、という風だったマニー・パッキャオでしたが、
結果は判定でも、三試合目ではこれまでよりも相手を捉え、攻めきった印象でした。

初回はこんな感じがまた続くのかと思ったのですが、2回から、パッキャオが距離を目に見えて詰め、
狭い空間での攻防がスタートラインになって、そこから踏み込み、打って外す展開。
ブラドリーの速い動きで外され、速い連打を浴びたら、悪い流れになってしまうリスクもありながら、
敢えて遠くから見て闘うのでなく、自らリスクを取って出たように見えました。

ブラドリーも当然ながら、これまで通りに抵抗しましたが、距離が詰まって密度の濃い攻防になれば
パッキャオとの根本的な質の差が徐々に露わになります。

パッキャオの警戒を誘うために高く掲げて振りかざす右も、懸命なボディーワークの繰り返しも、
パッキャオの設定した密な攻防ライン、速いテンポ、狭いスペースでは、余裕を持って展開出来ず、
どうしても隙間が出来、漏れ落ちが見えました。7回のスリップは気の毒ながら、9回の左被弾、
直後の軽い左アッパーでのダウンは、結局は全体敵な質の差が、形になって表れたものでしょう。

ブラドリーはそれでも次の10回に反撃したように、全力を出し切って闘いました。
しかし、選手としての質、格という部分で、明確にパッキャオが差を示した、そういう試合でした。


パッキャオについては、晩年というべき今でもなお、これだけのレベルを示した、流石だと思います。
しかし彼が過去の試合で見せた、階級の壁を破壊し続けた常識外れの爆発力、技術面での質の高さは
それぞれ、確実に一定程度は目減りしてしまっている。それもまた同時に見えた試合でした。


これで引退と本人が改めて明言しましたが、メイウェザー級ならともかく、他の選手となら
誰とやってもまだまだ、興味深い新旧対決が見られるのでは、という気はします。

純正ウェルターの強打、ブルックやサーマン、またはクロフォードのような完成度の高い技巧、
いずれもパッキャオにとり脅威であり、それが敗北へと繋がるのかもしれません。
それでもなお、ボクシングの歴史を彩ってきた、新旧交代なるか否か、というテーマの試合に臨むのは
スーパースターたる者こそが果たすべき、ひとつの責務なのではないか、と思います。賛否あるでしょうが。

しかし、あまり言いたくないことですが、パッキャオ本人がそれを望まず、そういうつもりで
再起してきたわけでもない、というのが現実であり、今日の試合はあくまで、それ以上の意味はない試合でした。
そういうものだ、と思うしかないのでしょう。
その意味では、過不足ない内容であり、引退試合としてはきれいに収まりがついた試合でした。



改めて、過去に彼が見せてくれた数々の驚異的な試合ぶりには、賞賛と感謝しかありません。

そもそも、フライ級時代の大柄な強打者ぶり、タイでの王座強奪、比国での感動的な王座防衛だけで
彼は充分「東洋のヒーロー」だったわけです。
ですから、その後の「労働者」としての渡米を経て、代打出場でのスーパーバンタム級王座奪取は、
それだけで充分「アジアの枠を越えた快挙」でした。

ところがさらに勝ち続け、バレラ、モラレス、マルケスらとのライバル対決に勝ち越す頃になると、
彼は真にワールドワイドなスーパースターとなりました。
東洋の選手が米国のリングで、王国メキシコのフェザー、ライト近辺のトップ選手3人を総なめにするなど、
あの頃(というか、パッキャオを除けば今でも)には、とても思いつかないレベルの「夢」だったのです。

そしてその先、デラホーヤ戦以降のウェルター級進出になると、もはや妄想の域でした。
本当に、振り返れば現実味を感じられない出来事の数々でした。
感動、興奮というものを越えた衝撃的な勝利の数々は、おそらく今後、二度と見られるものではないでしょう。


今後の活動については、報じられているとおりのものになるのでしょうが、
どのような道であれ、つつがなく第二の人生を生きてほしいものだと、それだけを切に願います。
偉大な英雄が、その余生を、幸福なまま生き抜くことは、それもまた、ひとつの闘いかもしれません。
彼がそこでもまた、勝利者であることを信じたい気持ちです。彼への感謝と敬意故に。


コメント (8)
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