「はやぶさ、そうまでして君は~生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話」を読み終えた。
「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授の著作。
難しい専門用語はあまり出ていなくて、出ていてもきちんと分かりやすく説明されてあったので読みやすかった。教科書に載ってもおかしくない、素晴らしい本だった。
はやぶさ、7年間の旅の最後。
「大気圏再突入」
その事実を科学者としてクールに受け入れて説明しようとしているんだが、言葉の端々に「生みの親」としての人情味溢れる川口先生の人柄が滲み出ていた。
実際、再突入の際、川口先生は研究室のパソコンで、一人ではやぶさの最期を見届けた。
インターネット中継の画面に無数の星がまたたく夜空が映し出され、しばらくすると緞帳が上がったステージを、ひと筋のスポットライトで照らしたように、はやぶさが駆け抜けていった。打ち上げ以来、川口先生がはじめて見るはやぶさの姿が最後の姿だなんて悲しすぎる。責務と親心の狭間において川口先生が感じたことを想像してみたら涙が止まらなかった。
その時、川口先生は、はやぶさに声をかけようとしたのだが、うまく口が動かなかったそうだ。
そして、過酷なミッションから解き放たれたはやぶさは、川口先生の記憶のなかで永遠に羽ばたく不死鳥になった…と書かれていた。はやぶさの最後を見るのが嫌で、目をそむけようとしたけれども、それではここまで頑張って来たはやぶさに失礼だろう、と目に焼き付けた。曇った視界を何度も拭いながら…というくだりで、嗚咽。
7年間、川口先生と一緒に苦楽を共にしてきた、はやぶさ。
イトカワの写真を「見て!見て!」と言わんばかりに送り続けた、はやぶさ。
どんな指令にも健気に応答し「もっと自信を持ってぼくに指令してください」と言っているかのような、はやぶさ。
科学者と機械という関係を超越した絆、まさに心と心の交信の連続が、あのプロジェクトにはあったのだということを改めて知った。
カプセル分離後のはやぶさをどうにかして存続させたいと、様々なことを考えたそうだ。
でも無理だと分かった。
>イオンエンジンの不調は、そんな運命を知った「はやぶさ」の、無言のメッセージだったのかもしれません。でも、彼はまた我々の指令を受け入れ、地球へ向かって加速をはじめました。
どうして君は、それほどまで、我々の指令に応えてくれるのか?
地球へ向かう軌道の精確さ、大気圏再突入の精確さを追求するということは、自身の最後、熱に焼かれて燃え尽きるという残酷な運命を徹底するということにつながるというのに。そして、その冷酷なシナリオを書いているのが、我々だというのに。
どうして、そうまでして君は……。
タイトルの「そうまでして君は」は、ここを取ったものだ。
この数文字に、川口先生がかけた愛情の重さを計り知ることができる。
はやぶさの再突入の際、川口先生が詠んだ歌
「まほろばに 身を挺してや 宙繚う 産の形見に 未来必ず」
身を挺して、はやぶさは子(カプセル)を地球に落とし、自分は宙に輝いて散っていった。産声(ビーコン)をあげた子は、いわば「はやぶさ」の形見。
そして、未来への光…。
事業仕分けのときの「二番ではだめなんですか?」発言にも、きちんと反論していた。
そもそも「二番を狙う」などという、器用な真似はできません、と川口先生。
…ごもっとも!
目先の利益につながらないと思われがちな宇宙開発だけれども、日本の誇りを保持するためには、川口先生が仰るように、この分野での「投資」が必要なのだと思う。「二番でいい」という国には誇りは持てない。本当にそう思う。
私なんて子供のような柔軟な心なんかとっくに失いかけているカチカチの32歳の会社員だけれども、はやぶさ帰還で学んだことは物凄く多い。人生観が変わった。こんなにファンタスティックなことに出会えて、正直、生きてて良かったとさえ思った。
諦めない勇気、チャレンジすること、粘り強さ。
はやぶさ帰還から半年が過ぎたのに、星を見る度に、そして困難にぶち当たったときに、はやぶさが教えてくれたことを胸で反芻する。
たぶん、これからもそうだろう。
いや、そうしたい。
そうするということで、はやぶさは心の中で生き続けるのだから。
誇りを失いかけたとき、またこの本を読み返そう。
はやぶさ奇跡の帰還 ED
「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授の著作。
難しい専門用語はあまり出ていなくて、出ていてもきちんと分かりやすく説明されてあったので読みやすかった。教科書に載ってもおかしくない、素晴らしい本だった。
はやぶさ、7年間の旅の最後。
「大気圏再突入」
その事実を科学者としてクールに受け入れて説明しようとしているんだが、言葉の端々に「生みの親」としての人情味溢れる川口先生の人柄が滲み出ていた。
実際、再突入の際、川口先生は研究室のパソコンで、一人ではやぶさの最期を見届けた。
インターネット中継の画面に無数の星がまたたく夜空が映し出され、しばらくすると緞帳が上がったステージを、ひと筋のスポットライトで照らしたように、はやぶさが駆け抜けていった。打ち上げ以来、川口先生がはじめて見るはやぶさの姿が最後の姿だなんて悲しすぎる。責務と親心の狭間において川口先生が感じたことを想像してみたら涙が止まらなかった。
その時、川口先生は、はやぶさに声をかけようとしたのだが、うまく口が動かなかったそうだ。
そして、過酷なミッションから解き放たれたはやぶさは、川口先生の記憶のなかで永遠に羽ばたく不死鳥になった…と書かれていた。はやぶさの最後を見るのが嫌で、目をそむけようとしたけれども、それではここまで頑張って来たはやぶさに失礼だろう、と目に焼き付けた。曇った視界を何度も拭いながら…というくだりで、嗚咽。
7年間、川口先生と一緒に苦楽を共にしてきた、はやぶさ。
イトカワの写真を「見て!見て!」と言わんばかりに送り続けた、はやぶさ。
どんな指令にも健気に応答し「もっと自信を持ってぼくに指令してください」と言っているかのような、はやぶさ。
科学者と機械という関係を超越した絆、まさに心と心の交信の連続が、あのプロジェクトにはあったのだということを改めて知った。
カプセル分離後のはやぶさをどうにかして存続させたいと、様々なことを考えたそうだ。
でも無理だと分かった。
>イオンエンジンの不調は、そんな運命を知った「はやぶさ」の、無言のメッセージだったのかもしれません。でも、彼はまた我々の指令を受け入れ、地球へ向かって加速をはじめました。
どうして君は、それほどまで、我々の指令に応えてくれるのか?
地球へ向かう軌道の精確さ、大気圏再突入の精確さを追求するということは、自身の最後、熱に焼かれて燃え尽きるという残酷な運命を徹底するということにつながるというのに。そして、その冷酷なシナリオを書いているのが、我々だというのに。
どうして、そうまでして君は……。
タイトルの「そうまでして君は」は、ここを取ったものだ。
この数文字に、川口先生がかけた愛情の重さを計り知ることができる。
はやぶさの再突入の際、川口先生が詠んだ歌
「まほろばに 身を挺してや 宙繚う 産の形見に 未来必ず」
身を挺して、はやぶさは子(カプセル)を地球に落とし、自分は宙に輝いて散っていった。産声(ビーコン)をあげた子は、いわば「はやぶさ」の形見。
そして、未来への光…。
事業仕分けのときの「二番ではだめなんですか?」発言にも、きちんと反論していた。
そもそも「二番を狙う」などという、器用な真似はできません、と川口先生。
…ごもっとも!
目先の利益につながらないと思われがちな宇宙開発だけれども、日本の誇りを保持するためには、川口先生が仰るように、この分野での「投資」が必要なのだと思う。「二番でいい」という国には誇りは持てない。本当にそう思う。
私なんて子供のような柔軟な心なんかとっくに失いかけているカチカチの32歳の会社員だけれども、はやぶさ帰還で学んだことは物凄く多い。人生観が変わった。こんなにファンタスティックなことに出会えて、正直、生きてて良かったとさえ思った。
諦めない勇気、チャレンジすること、粘り強さ。
はやぶさ帰還から半年が過ぎたのに、星を見る度に、そして困難にぶち当たったときに、はやぶさが教えてくれたことを胸で反芻する。
たぶん、これからもそうだろう。
いや、そうしたい。
そうするということで、はやぶさは心の中で生き続けるのだから。
誇りを失いかけたとき、またこの本を読み返そう。
はやぶさ奇跡の帰還 ED