非国民通信

ノーモア・コイズミ

会社の扱い方

2009-02-03 22:53:47 | 編集雑記・小ネタ

 昨日は、ある派遣会社社員の自殺を取り上げました。派遣社員ではなく派遣会社社員の自殺ですね。「派遣切り」が横行する中、派遣する側の派遣会社で働く社員もまた解雇の憂き目に遭っているわけです。派遣契約の打ち切りによって派遣社員は収入を失いますが、同時に派遣会社も収入源を失いますから、派遣会社の末端の社員には営業成績未達という形で重い影を落としているのかもしれません。

 さて、残業代の不払いを考えてみましょう。よくあることですね。ただこの残業代の支払いに関しては、むしろ派遣社員の方が正社員より丁重に扱われているのではないでしょうか。非正社員であれば法律なんぞ糞喰らえとばかりの解雇、契約打ち切りが罷り通る一方で、正社員の場合は自主退職を強要するなど解雇という強制手段は相対的に少ない、大体の場面では正社員を扱うときの方が雇用主の遵法意識は高い傾向にあります。ところが残業代となると立場が逆転、正社員の残業代は一銭たりとも支払わないのに、派遣社員の残業代は契約通りの割増賃金を支払う、こういう会社も結構あるはずです。

 正社員はどうでもいいが、派遣社員は大事にしようとか、そう思っての行動ではないですよね。会社から見れば、正社員だろうが派遣社員だろうがモノと一緒です。残業代の不払いなんて屁とも思っちゃいません。社員に残業代を支払うなんてもったいない!と。その割には、派遣社員にはちゃんと時間通りに残業代が支払われていることもあったりします。正社員はサービス残業なのに、ですよ。

 相手が社員なら、怖くないのでしょう。自社の社員に支払うべき賃金を支払わないことぐらい、会社からすれば経営努力の一環みたいなものです。しかるに、派遣社員への不払いは別です。派遣先企業はまず派遣元企業に代価を支払うものであって、そこで残業代を支払わないことはすなわち、取引先企業に対する不払いを意味します。社員に対する不払いなど気にしない雇用主でも、取引先企業に対する不払いは躊躇するでしょう。個人を敵に回しても怖くないかも知れませんが、他所の会社を敵に回すような事態は、まぁまともな経営者だったら避けたいはずです。だから、派遣先企業は派遣会社に契約通りの残業代を支払う、ゆえに派遣社員の方が残業代の不払いは少ないわけです。残業代を含めてもその賃金は……という問題はあるにせよ、とりあえず残業代は派遣社員に対しての方が、適正に支払われる傾向にあります(ピンハネの横行する日雇い派遣はまた別かも知れませんが)。

 で、まともな派遣会社だったら、自社の派遣社員が残業した分はきっちり請求するものです。派遣社員がちゃんと残業代を受け取れるようにするため、でしょうか? いやいや、違います。派遣会社の売上を伸ばすためです。時間外の利用料金をちゃんと徴収することが派遣会社の利益にも繋がりますから。あくまで、派遣会社は派遣会社の利益のために動くものです。でも、それでいいのです。派遣会社が残業代を受け取る、その結果として派遣社員にも残業代が適正に支払われることになれば、言うまでもなく派遣社員にとっても好ましいことですから。(逆に言えば、派遣先企業に残業代を請求できない「無欲な」派遣会社は働く人にとってもプラスになりませんね。さっさと潰れてください。)

 戦前の日本は道徳的だったが、今の日本はモラルが崩壊していると、そう繰り返すメディアもあります。さらに言えば、昔の企業経営者は社会や労働者のこともよく考えていたが、今の企業経営者は自社の利益を追うばかりでダメだ、そう語る人もいます。これは、間違っていると思います。昔も今も、「普通の」人のモラルが変わらないように(むしろ潔癖になったくらいで)、社長のモラルだって大差ないでしょう。昔の経営者の名言の中には聞こえの良いものもあるかもしれませんが、そんなものは後付の美談です。昔も今も、会社は自社の利益を最大化するためだけに動いてきました。

 ただ違うのは、会社の利益を最大化するために何をすべきか、そこが様変わりしたのではないでしょうか。たとえば日本の貧弱な社会保障は、企業が従業員を家族ぐるみで定年まで抱え込むことによって補われてきました。昔の日本企業は従業員を大事にしていたから、でしょうか? そうではなく、社員を抱え込むことが往年の日本社会で会社を成長させる最良の方法だったからこそ、会社は社員の一生を保証しようとしたわけです。あくまで会社の利益のために行動し、それが結果として社員を守ることに繋がっただけと、そう考えてみる必要があります。

 モラルの問題にすり替えることは、常に問題を見誤らせます。昨今では企業の社会的責任などと語られる機会も多く、企業のモラルに訴えることで雇用を維持させようとする人もいるようです。しかし、血の通った「個人」ではなく法律上の人格でしかない「法人」にモラルを求めても空回りするばかりでしょう。あくまで企業は利潤を追求するもの、それを踏まえた上で企業の暴走を抑止し、労働者を守っていくための方策を練るべきです。その一つは企業の規範意識や道徳に期待するのではなく、監督と罰則を伴う法律によってルールを守らせることですね。そしてもう一つ挙げるならば、企業と労働者の利害関係を一致させること、会社が儲かれば社員も儲かる、会社が利潤を追求した結果として従業員も幸せになれる、こうした関係を再構築することです(これは自然に出来上がるものではなく、行政の介入が必要です)。労働者の取り分である人件費を減らすことで会社が利益を出す、会社が利潤を追求すればするほど労働者が貧しくなるような関係を葬らなければなりません。

 

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4 コメント

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労働者による (介護員)
2009-02-03 23:16:00
労働者の為の労働者の法律を
悪徳労働環境労働賃金悪徳な労働方粉砕
スキルの付かない使い捨て労働粉砕
返信する
賢明に使おう (観潮楼)
2009-02-04 01:00:25
最近は地方の誘致企業(特にメーカー)の首切りも問題になっています。
一方では税金を注ぎこんで企業誘致をしている所もあります。
さすがにこの現状ではしおらしくなっていますが、
労使関係を立て直してからじゃないと税金の無駄になります。
首切りが決まってから地方の首長が企業の本社に行って、
泣きを入れるなんてまさに無駄。
返信する
初めまして (znkk)
2009-02-04 12:20:42
初めてコメントさせていただきます。
znkkと申します。
 
「企業の利益=従業員の利益」の構造は、従業員が自社の株を保有する、いわゆる従業員持株というもので実現できそうな気もするのですが
政府が介入する場合、具体的にどのような介入をすれば上記の構造が実現できるかが思いつきませんでした。
もしよろしければ、その辺りについてのお考えをもう少し詳しく聞きたいものです。
と思う次第です。

追伸。
いつもトラックバックの承認をしていただき、ありがとうございます。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-04 22:40:05
>介護員さん

 まぁ、その法律がないわけでもないはずなのですが、既存の法律を「守る」意識型入りナイトもうのですよ。

>観潮楼さん

 ありますね、企業誘致と称して莫大な補助金に加えて税制優遇など、諸々の形で企業にカネを渡してきた、そうやって企業をつなぎ止めることで地域の雇用が増えるという建前だったわけですが、結果はご覧の有様ですね。搾り取られるだけ搾り取られて、あとは捨てられるだけです。

>znkkさん

 反対の方向から考えてみると方向性は絞られてくるのではないでしょうか。つまり現行の、企業が利潤を追求すればするほど労働者の待遇は悪くなるような関係の「反対」を向かせることですね。最低賃金の大幅な引き上げや雇用規制の強化によって、労働者の取り分=人件費を引き下げることで企業が利益を上げる、こうした手口を封じていくことが第一歩になると思います。
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