さて給与所得の総額、平均共に低下を続ける中で企業の内部留保は増え続けているわけですが、その内部留保を巡る詭弁の一つに「内部留保が増えていると言っても現金で持っているわけではないので人件費には使えない」というものがあります。確かに「内部留保=現金預金」ではないのですが、ただ非金融法人の現金預金残高は内部留保と歩みを揃えて増加の一途にありますので、個別の企業はともかくとして全体で見れば現金は余っているわけです。そうでなくとも給与の大半は働いた翌月の支払いですから、将来的な入金予定や回収予定があれば当然ながら給与は支払えるものですし、雇用維持のために必要となる金額は積み増された内部留保から見れば微々たる金額に過ぎないとか色々とツッコミどころには事欠きません。
それはさておき、相も変わらず給食費の滞納なんかが騒がれ続けているわけです。その滞納額は20億円超で給食費全体の0.5%相当とのこと、つまり裏を返せば回収率99.5%ということになります。この回収率は一般的な民間企業における売掛債権の回収率を大きく上回るものであるように思われますが、その辺は理解されているのでしょうか。そしてこの給食費の滞納はモラルの低下が原因だと「思う」学校関係者が多いとの調査結果があって、それは単に学校関係者がそう「思っている」ことを示しているに過ぎないのですが、ともあれ給食費の滞納は親のモラルの問題であるかのごとく描かれがちです。
モラルに欠ける給食費滞納者の例として「滞納を続ける親の中には、高級車に乗っている者もいるという」みたいな物言いが垂れ流されてきました。この辺の真偽は大いに疑わしいものではありますが、まぁ1億人を超える日本在住者の中には、本当に高級車に乗りながら給食費の支払いを渋っている人も二人か三人くらいはいるのでしょう。そこで内部留保を巡る詭弁を思い出してください。内部留保は現金ではないから人件費の支払いには回せないと、さもわかった風に語る人が多いわけですが、そういう言説を是とするなら給食費の場合はどうなるのでしょうか?
高級車や持ち家があったとて、手元に現金が残っているかは人それぞれです。いかに資産が多くとも、それが即座に現金化できるものでないのであれば支払い能力はない、支払えと言われても不可能なのだ――企業の内部留保に関してはこのように語られがちです。じゃぁ、高級車に乗っているけれども手持ちの財布には小銭しか入っていない、車と持ち家のローンを支払ってしまったので銀行口座にもお金がない、そういう家庭はどうなるのでしょう。資産を積み増す余力があるのなら従業員給与なり給食費なりを支払えるだけの余力もあると考えられそうなものですが、前者に関しては余力ナシ、後者に関しては余力アリと、対象次第で基準を違えて物事を語っている人が、とりわけネット上には多い気がします。
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いや、でも高級車に乗りながら給食費払えないって他人ごとじゃないですね。私も大手企業時代に買った高級時計や高級ブランド服を身につけてますが、リストラ後、収入が激減して預金残高0に近いですからね(笑)
ある意味、内需拡大に貢献している人ほど社会的には非難を浴びそうなところがありますね。ちょっと無理をしてでもお金を使ってくれる人がいてこそ国内経済は回るというものですが、手持ちのお金が足りずに給食費を滞納したり、あるいは派遣村に集ったりする人は、必ずしも世間から好意的に見られていませんし。
統治する側の観点でしか考えられない、経営する側の目線でしか物事を考えられない人も多いですからね。内部留保に関する詭弁も給食費滞納に関する道徳論も、根っこでは繋がっているところがあると思います。