奨学金貸与基準、厳格化へ 文科省、両親の年収を合計(朝日新聞)
文部科学省は、日本学生支援機構による大学生らへの奨学金事業について、新年度から貸与基準を厳しくする方針を決めた。貸与の判断材料になる学生の家庭の年収を、両親の合計で把握する。不景気で奨学金の希望者が増えるなか、経済的に困っている学生を正確に選び、支援する考えだ。
学生支援機構の奨学金は無利子の第一種と、有利子(上限年3%)の第二種がある。貸与を決める際は学校での成績のほか、年収998万円以下(無利子奨学金で、私立大に通う4人世帯の大学生の目安)といった家計基準を満たしているかどうかをみることになる。基本的に自己申告だが、年収を証明する書類の提出が必要になる。
この家計基準はかつては、世帯全体の収入の合計が対象だったが、貸与規模を拡大した1999年度、手続きを簡素化するために対象を「主たる家計支持者」の収入に限定。基本的に父母どちらか1人の収入が基準になっていたが、共働き世帯が増加しており、家計の収入状況を正確に把握できないと指摘されていた。
年収が基準を超えないよう、父母のうち収入が低い方を「主たる家計支持者」と指定する不適切な申請もあることから、11年度から第一、二種ともに共働きの場合は父母2人の収入の合計を基準にするよう制度を変更し、それぞれの年収を証明する書類の提出が義務づけられる。
奨学金は現在、大学生の3人に1人が利用している。第一種の場合、条件によって違うがおおむね月3万~6万円ほどが貸与されている。10年度の貸与人数は第一種が34万9千人、第二種が83万5千人。進学率の上昇や景気低迷を背景に人数は増加傾向が続いている。
だが、特に無利子の奨学金には貸与枠に限りがあり、成績や現行の家計基準を満たしているのに奨学金を受けられない学生が、2万6千人ほどいるという。文科省は基準を満たす全ての学生に貸与できるよう枠を広げたい考えだったが、新年度政府予算案で認められたのは、9千人増にとどまった。
家計基準を父母の合計収入に変更すれば、基準を超過する年収がある家庭が出てくるとみられている。文科省は基準変更によって、不適切な申請を防ぎつつ、本当に経済的に困っている学生に優先的に貸与できるようにしたい考えだ。
「本当に経済的に困っている学生に~」と書けば聞こえは良いのでしょうけれど、どこか引っかかるものを感じないでもありません。あたかも不適切な申請のせいで経済的に困っている学生に奨学金が回らないかのような印象を与える記事ですが、その実態はどうなのでしょうか。本文で示されるところによると、無利子の貸与が34万9千人、有利子が83万5千人、そして奨学金を受けられない学生が2万6千人いるとのことです。奨学金で利子を取るなど言語道断ですので無利子分だけを分母にするとしても、奨学金の補足率は93%に上ります。15~20%と推計される生活保護の補足率に比べると、格段に優秀な数値ではあります。
ともあれ奨学金を受けられない学生は2万6千人いるわけです。では、あたかもその原因であるかのごとく示唆されている「不適切な申請」とやらは果たして何人いるのでしょう? これは重大なことのはずですが、不適切な申請の存在はほのめかされるばかりで数値は一切、示されていません。数値化できるほどの数にはならないと言うことでしょうか。具体的な数値を挙げることなく、ただ不正の存在を匂わすことによって、その不正が原因で必要な人に奨学金が回らないかのごとく思い込ませるとしたら――その辺は生活保護行政と似たような狙いがあるのかも知れません。
生活保護の不正受給の総額は約90億円、一方で生活保護費の総額は2兆5000億円程度ですから、その不正受給の占める割合は全体の0.36%程になります。つまり不正受給の存在は誤差の範囲レベルで財政的には何ら影響がない、不正受給があろうとなかろうと必要な人に行き渡らないことには変わりがないのです。しかるに、この不正受給の金額と生活保護費の総額が並べて報じられることは皆無と言っていいでしょう。必ず片方だけ、大抵は不正受給額の方だけが単独で取り上げられるわけです。そうなると、それが全体から見れば微々たる額でしかないことに気づかれなくなります。その結果として「不正受給者がいるから本当に経済的に困っている人に生活保護が回らない」などという事実に反するイメージが作り上げられてきました。この誤ったイメージに沿って国民の脳内では不正受給者像が肥大化し、そこに責任がなすりつけられることで行政の根本的な不備が免罪されてきた、それが生活保護制度と言えます。
奨学金に関しても、生活保護と同様のペテンを狙っているのかも知れません。つまり不適切な申請(不正受給者)の存在を示唆することで、あたかも受給できない人がいるのは不正を働く輩がいるからだと錯覚させる、それによって行政の不備から目を逸らせようとするわけです。不適切な申請とやらが全体の中でどの程度の割合を占めるのか、それを明示しようとしない辺りは生活保護行政における不正受給者の扱いと同質のものを感じさせます。不適切な申請者のせいで、本当に経済的に困っている学生に奨学金が回らないのだ――そう国民に思ってもらうことに成功すれば、行政側が非難に晒される恐れはなくなる、行政側にとっては好都合ですから。
ちなみに「年収998万円以下」が家計基準として挙げられています。しかるに年収が1000万円を超える世帯は全体の13%程度、つまり「年収998万円以下」という申請基準を満たさない世帯は13%しかいないのです。母集団が僅かに13%しかいないのなら、必然的に「不適切な申請」の占める割合も少ないと見るのが自然と言えます。
そもそも給付ではなく貸与でしかないくせにケチ臭いことを言うなとか、この超低金利時代に学生から利子を取るなどは貧困ビジネスの域ではないのかとか、まぁ不満に感じるところは少なくありません。でもまぁ、世界経済フォーラムでは高学歴の人材不足が懸念される中(参考)、学生への投資を惜しみ、貧乏人は進学せずに働けと説くのが日本社会です。次代を担う若手に勉強させるよりも、変に知恵を付けないで欲しい、安価な単純労働者であって欲しいと願うのが日本経済でもあります。そういう中では奨学金という未来への投資も歓迎されない、むしろ抑制の対象とみなされるものなのでしょう。