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非国民通信

ノーモア・コイズミ

「不適切な申請」など誤差の範囲に思えるのだが

2011-01-17 23:15:26 | ニュース

奨学金貸与基準、厳格化へ 文科省、両親の年収を合計(朝日新聞)

 文部科学省は、日本学生支援機構による大学生らへの奨学金事業について、新年度から貸与基準を厳しくする方針を決めた。貸与の判断材料になる学生の家庭の年収を、両親の合計で把握する。不景気で奨学金の希望者が増えるなか、経済的に困っている学生を正確に選び、支援する考えだ。

 学生支援機構の奨学金は無利子の第一種と、有利子(上限年3%)の第二種がある。貸与を決める際は学校での成績のほか、年収998万円以下(無利子奨学金で、私立大に通う4人世帯の大学生の目安)といった家計基準を満たしているかどうかをみることになる。基本的に自己申告だが、年収を証明する書類の提出が必要になる。

 この家計基準はかつては、世帯全体の収入の合計が対象だったが、貸与規模を拡大した1999年度、手続きを簡素化するために対象を「主たる家計支持者」の収入に限定。基本的に父母どちらか1人の収入が基準になっていたが、共働き世帯が増加しており、家計の収入状況を正確に把握できないと指摘されていた。

 年収が基準を超えないよう、父母のうち収入が低い方を「主たる家計支持者」と指定する不適切な申請もあることから、11年度から第一、二種ともに共働きの場合は父母2人の収入の合計を基準にするよう制度を変更し、それぞれの年収を証明する書類の提出が義務づけられる。

 奨学金は現在、大学生の3人に1人が利用している。第一種の場合、条件によって違うがおおむね月3万~6万円ほどが貸与されている。10年度の貸与人数は第一種が34万9千人、第二種が83万5千人。進学率の上昇や景気低迷を背景に人数は増加傾向が続いている。

 だが、特に無利子の奨学金には貸与枠に限りがあり、成績や現行の家計基準を満たしているのに奨学金を受けられない学生が、2万6千人ほどいるという。文科省は基準を満たす全ての学生に貸与できるよう枠を広げたい考えだったが、新年度政府予算案で認められたのは、9千人増にとどまった。

 家計基準を父母の合計収入に変更すれば、基準を超過する年収がある家庭が出てくるとみられている。文科省は基準変更によって、不適切な申請を防ぎつつ、本当に経済的に困っている学生に優先的に貸与できるようにしたい考えだ。

 「本当に経済的に困っている学生に~」と書けば聞こえは良いのでしょうけれど、どこか引っかかるものを感じないでもありません。あたかも不適切な申請のせいで経済的に困っている学生に奨学金が回らないかのような印象を与える記事ですが、その実態はどうなのでしょうか。本文で示されるところによると、無利子の貸与が34万9千人、有利子が83万5千人、そして奨学金を受けられない学生が2万6千人いるとのことです。奨学金で利子を取るなど言語道断ですので無利子分だけを分母にするとしても、奨学金の補足率は93%に上ります。15~20%と推計される生活保護の補足率に比べると、格段に優秀な数値ではあります。

 ともあれ奨学金を受けられない学生は2万6千人いるわけです。では、あたかもその原因であるかのごとく示唆されている「不適切な申請」とやらは果たして何人いるのでしょう? これは重大なことのはずですが、不適切な申請の存在はほのめかされるばかりで数値は一切、示されていません。数値化できるほどの数にはならないと言うことでしょうか。具体的な数値を挙げることなく、ただ不正の存在を匂わすことによって、その不正が原因で必要な人に奨学金が回らないかのごとく思い込ませるとしたら――その辺は生活保護行政と似たような狙いがあるのかも知れません。

 生活保護の不正受給の総額は約90億円、一方で生活保護費の総額は2兆5000億円程度ですから、その不正受給の占める割合は全体の0.36%程になります。つまり不正受給の存在は誤差の範囲レベルで財政的には何ら影響がない、不正受給があろうとなかろうと必要な人に行き渡らないことには変わりがないのです。しかるに、この不正受給の金額と生活保護費の総額が並べて報じられることは皆無と言っていいでしょう。必ず片方だけ、大抵は不正受給額の方だけが単独で取り上げられるわけです。そうなると、それが全体から見れば微々たる額でしかないことに気づかれなくなります。その結果として「不正受給者がいるから本当に経済的に困っている人に生活保護が回らない」などという事実に反するイメージが作り上げられてきました。この誤ったイメージに沿って国民の脳内では不正受給者像が肥大化し、そこに責任がなすりつけられることで行政の根本的な不備が免罪されてきた、それが生活保護制度と言えます。

 奨学金に関しても、生活保護と同様のペテンを狙っているのかも知れません。つまり不適切な申請(不正受給者)の存在を示唆することで、あたかも受給できない人がいるのは不正を働く輩がいるからだと錯覚させる、それによって行政の不備から目を逸らせようとするわけです。不適切な申請とやらが全体の中でどの程度の割合を占めるのか、それを明示しようとしない辺りは生活保護行政における不正受給者の扱いと同質のものを感じさせます。不適切な申請者のせいで、本当に経済的に困っている学生に奨学金が回らないのだ――そう国民に思ってもらうことに成功すれば、行政側が非難に晒される恐れはなくなる、行政側にとっては好都合ですから。

 ちなみに「年収998万円以下」が家計基準として挙げられています。しかるに年収が1000万円を超える世帯は全体の13%程度、つまり「年収998万円以下」という申請基準を満たさない世帯は13%しかいないのです。母集団が僅かに13%しかいないのなら、必然的に「不適切な申請」の占める割合も少ないと見るのが自然と言えます。

 そもそも給付ではなく貸与でしかないくせにケチ臭いことを言うなとか、この超低金利時代に学生から利子を取るなどは貧困ビジネスの域ではないのかとか、まぁ不満に感じるところは少なくありません。でもまぁ、世界経済フォーラムでは高学歴の人材不足が懸念される中(参考)、学生への投資を惜しみ、貧乏人は進学せずに働けと説くのが日本社会です。次代を担う若手に勉強させるよりも、変に知恵を付けないで欲しい、安価な単純労働者であって欲しいと願うのが日本経済でもあります。そういう中では奨学金という未来への投資も歓迎されない、むしろ抑制の対象とみなされるものなのでしょう。

 

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カンフル剤中毒

2011-01-15 22:32:25 | ニュース

国家公安委員長に中野氏=江田氏が法相-菅再改造内閣、今夕発足(時事通信)

 菅直人首相は14日夕、菅再改造内閣を発足させる。これに先立ち、官房長官に決まった枝野幸男民主党幹事長代理(46)が閣僚名簿を発表。岡崎トミ子国家公安委員長(66)が退任し、後任に中野寛成元衆院副議長(70)を、古川元久官房副長官(45)に代え、藤井裕久元財務相(78)をそれぞれ充てることとなった。再改造内閣の顔触れをみると、法相に起用された江田五月前参院議長(69)を含め新任4人、横滑り2人、11閣僚が留任で、小幅の改造にとどまった。参院議長経験者の入閣は初めて。

(中略)

 岡崎氏に関しては、野党からテロに関する警視庁の内部文書が流出した事件の責任を問う声が上がっていた。新任は中野、江田、枝野の各氏のほか、たちあがれ日本を離党して経済財政担当相に起用された与謝野馨元財務相(72)。中野氏は拉致問題と公務員制度改革も担当する。

 海江田万里経財相(61)は経済産業相に、大畠章宏経産相(63)は国土交通相に玉突きで異動。仙谷氏と同様、参院で問責決議を可決された馬淵澄夫国土交通相(50)は閣外に去った。前原誠司外相(48)、野田佳彦財務相(53)、民主党政調会長を兼ねる玄葉光一郎国家戦略担当相(46)、国民新党の自見庄三郎金融・郵政改革担当相(65)、民間出身の片山善博総務相(59)ら他の閣僚や参院の福山哲郎(48)、事務の滝野欣弥(63)両官房副長官は続投することとなった。 

 この内閣改造で早くも支持率が上昇に転じたという話も聞きますが、遠からず元に戻るでしょう。それでも内閣改造というカンフル剤に頼る辺りは、ますます以て末期自民党政権と似てきたように思います。まぁ内閣改造と言いつつ留任や横滑りが多く、新任は4人と意外に小幅な改造ではありますが、どの辺から突っ込んだらいいのか迷うところです。

 まず官房長官が仙谷から悪しき隣人である枝野に変わりました。枝野のアホだけは勘弁してくれ、と思わないでもないが、冷静に考えてみれば枝野以外の誰が起用されようと最悪であることには変わらない気がするのでなおさらどうしようもありません。まぁ仙谷は小泉カイカクを右から批判していた輩で、その官僚嫌いも合わせて本来ならみんなの党辺りとよろしくやっている方が自然な人物、沖縄に向けて米軍基地を甘受せよと説くなど左派からすれば決して容認できない政治家ではあります。その実質的な罷免は歓迎できなくもないですけれど、そこに至るまでの流れはどうなんでしょう。フィクションと現実の区別が付かない人々からサヨクと設定されて嫌われていたようですけれど、そんな脳内設定に基づく批判に応えるような形で政治家がポストを追われるというのは、何とも呆れる話です。学生運動をやっていた時期があるからサヨク、その仙谷を重用する菅内閣は左翼政権というのなら、共産党活動歴のあるナベツネは今でもコミュニスト、読売新聞は共産党機関誌と言うことになりそうなものですが。

 もう1人、フィクションと現実の区別が付かない人々から嫌われた閣僚であった岡崎トミ子氏も任を解かれ、後任には旧民社系が入ることになりました。法相としての適性が皆無だった旧民社の柳田氏が先だって閣僚を辞したこともあり、旧民社系の政治家にポストを与える必要もあったのでしょう。まぁ拉致問題担当のポストに右派が据えられるのは既定路線で、岡崎氏の起用の方こそ気の迷いだったのかも知れません。ちなみにこの人事異動の結果として新内閣の女性閣僚は蓮舫のみとなりました。鳩山政権発足時から一貫して、民主党政権は女性閣僚の起用に消極的に見えます。単に女性の頭数を増やせば済むものではないにせよ、こういうところにも民主党と自民党の同質性は窺えるはずです。

 目新しいところでは与謝野馨の入閣があります。菅首相自らが明言したように菅と与謝野の考え方は共通性が高い、それは私も同意するところです。とはいえ昨今では政策の共通性よりも政治家同士の好き嫌いや党利党略の方が優先されるだけに、かなり意外な結果にも感じました。たとえば新官房長官の枝野がみんなの党に秋波を送っては肘鉄を食らうような一幕もあったわけです(参考)。確かに、みんなの党と枝野の政策的な距離は非常に近いでしょう。しかし「民主党なんかと組めるか!」という感情論が勝った結果として連携は拒絶された、落ち目の与党に付くより与党批判の受け皿であり続けた方が党利に叶うという判断が勝った結果として連携は拒絶されたのではないでしょうか。民主、自民、みんなと似たような政策の党が幅を利かせているからこそ、政策論議ではなく「我こそが真の改革者だ」と訴えるような不毛な主導権争いや与党の不祥事をつつくようなことしかできなくなっている点は否定できないはずです。そんな中でも好き嫌いや損得勘定を抜きにして、政策的な共通性から入閣を選んだ与謝野の決断は政治家として筋の通ったものだと思います。政策的には何一つとして賛同できる相手ではありませんが、政策本意で行動しているだけでも今時は貴重ですから。

参考1、無能な経営者の考えそうなこと

参考2、デマに媚びるな

参考3、悪いのは相手だとしても

 ちなみに新官房長官の枝野を端的に評するなら、「考えが足りない人」と言ったところでしょうか。前任の仙谷が菅内閣の「サヨクという脳内設定(曲解)に基づいて批判される」という一面を代表する人物であるとすれば、枝野は菅直人の「ええかっこしい」の部分を象徴しているように思えます。あまり物事を深く考えない、というより政策的な芯がない、その場その場でウケの良さそうな、とりわけネット世論に受けが良さそうな言動を選んでしまう傾向があると言えるでしょう。中国を声高に非難すればウケは良いけれど、その結果までは考えない、公務員を叩けばウケはよいけれど公務員削減の影響までは考えが及ばない、それが枝野です。しかるにネット世論に近い立場を取りながら、菅や仙谷のようにサヨクと設定されてネット上では叩かれる、そういう憐れな末路を枝野も辿るような気がしないでもありません。

 

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極東戦線異状なし

2011-01-14 23:32:05 | ニュース

死体遺棄容疑で沖縄のIT社長夫婦を逮捕 社員暴行し死なす「勤務態度悪かった」(産経新聞)

 沖縄県警は2日までに、経営するIT関係会社の社員とみられる男性の遺体を同県南城市の山林に捨てたとして死体遺棄の疑いで、会社社長、真田由紀則容疑者(42)=同県浦添市港川=と、妻の美貴容疑者(42)の2人を逮捕した。

 2人の逮捕容疑は、2009年3月下旬~4月上旬の間に、共謀して同県南城市の国道331号沿いの山林に男性の遺体を遺棄した疑い。美貴容疑者の供述から、県警が1日に遺体を発見した。

 県警によると、由紀則容疑者は「勤務態度が悪かった」と容疑を認め、美貴容疑者は由紀則容疑者が男性を暴行して死なせ、遺体を遺棄したと話している。県警は遺体は男性とみて確認を急いでいる。

 

暴行は「教育の一環」と供述…白骨2遺体事件(読売新聞)

 埼玉、群馬両県にまたがる神流(かんな)湖岸で、新潟県南魚沼市、土木作業員佐野 航(わたる)さん(当時19歳)とみられる白骨遺体など2遺体がみつかった事件で、佐野さんへの傷害容疑で逮捕された建設土木・人材派遣会社の社長更科 朗(ほがら)容疑者(35)と従業員の計5容疑者の一部が、新潟、埼玉、群馬3県警の合同捜査本部の調べに対し、「教育の一環だった」などと供述していることが12日、捜査幹部への取材でわかった。

 佐野さんは更科容疑者の会社に勤めており、2009年12月中旬~10年2月下旬頃、勤務先で、拳や木刀で殴られるなど日常的に暴行を受けていたとみられている。5容疑者の中には、「手は出したが、道具は使っていない」などと供述する者もいるという。

 合同捜査本部は、もう1人の遺体は行方不明になっている佐野さんの同僚男性とみて、両遺体の身元特定を急ぐとともに、死亡した経緯を慎重に調べている。

 

<賃金未払い>09年、最多2万7133件 解決率も最低水準--厚労省調査(毎日新聞)

 全国の労働基準監督署に09年、労働者から申告があった賃金未払い件数が2万7133件に達し、過去最多を記録したことが厚生労働省のまとめで分かった。前年からの繰越件数を含めた3万602件のうち、是正勧告により支払われた解決件数は1万4868件(48・6%)で少なくとも05年以降では割合は最低で、08年秋のリーマン・ショックが与えた影響の深刻さが浮き彫りになった。

 同省のまとめによると、賃金未払いの新規申告件数は、99年は1万7125件で10年で約1・6倍に達した。09年の新規申告総額は229億9100万円。総額は「ITバブル崩壊」の影響を受けた02年などに、より高額化したことがあり、比較的賃金の安い中小企業で賃金支払いが滞っている現状が浮かぶ。

 前年からの繰り越しを含めた未払い賃金259億700万円のうち、是正勧告により賃金が支払われたのは69億6900万円で、額面上の「解決率」は26・9%。10年に繰り越された分などを除く1万1784件(148億4200万円)は倒産、是正勧告に従わなかったことによる書類送検、事業者の行方不明などで労基署では「解決不能」と判断された。厚労省によると、90年代前半のバブル崩壊以降、解決不能の割合が増えているという。

 

極東戦線異状なし、報告すべき件なし

 

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「主義」としてのベーシックインカム

2011-01-12 23:11:40 | ニュース

「主義」としてのベーシックインカム(DIAMOND online)

 さて、ベーシックインカムとは、国民の全てに無条件で一定額の現金を給付する制度だ。困窮者への生活保護、高齢者への年金、失業者への失業保険といった、受給のために詳細な条件や手続きがある社会保障制度ではない。

(中略)

 国の予算は、新しい支出に対して厳しく「恒久的財源」を求めるが、財源の問題はどうか。一人月5万円のベーシックインカムだとすると、年間に必要な財源は約75兆円だ。これは、巨額に見えるかも知れないが、現在の社会保障給付は既に年間約90兆円ある。年金、雇用保険などで既に負担している保険料も含めて税金に置き換えてベーシックインカムの財源とすることができれば、健康保険など医療関係の支出約30兆円を除外して、追加財源は15兆円程度で実施可能だ。消費税で賄うなら、5%程度の税率引き上げでいい。また、税金を払う人もベーシックインカムを受け取るので、お金の出入りに重複があり、見かけほど負担が増えるわけではないから、規模的には月5万円以上のベーシックインカムも実現可能だろう。

 昨今は俄にベーシックインカム論が流行っています。なぜ流行りだしたのかと言えば、それは従来の社会福祉的な観点からではなく、全く反対の立場からのベーシックインカム論が出てきた、それによって社会福祉的なものには否定的な立場の人がベーシックインカム推進の側に立つようになったことが挙げられるでしょう。具体的には後ほど見ていくつもりですが、今回の引用元の見出しにある「『主義』としてのベーシックインカム」という表現は言い得て妙です。なにぶんにもダイヤモンドですので本文はまさに糞ですが、合理性や必要性ではなくイデオロギー的な、つまりは「主義」的な側面からベーシックインカムを唱えている人が多いように思われますから。

 ここでは実現可能な範囲として月5万円ほどのベーシックインカムが考えられています。その財源として必要なのは75兆円で、現在の社会保障給付90兆円から医療関係30兆円を除外した60兆円をベーシックインカムへと切り替えれば追加財源は15兆円で済む、消費税を5%増やせば足りるとのことです。果たして、こういう形でベーシックインカムを導入してしまうと、いったい何が起こるのでしょうか。

(1) 手続きが簡単で、先の生活が計算できる「シンプルさ」
(2) 受益者に偏りが少ない「公平さ」
(3) 使い道や、資源配分に関して、政府の介入が少ない「自由さ」
(4) 相対的低所得者にとって有利な「格差是正効果」
(5) 運営コストが安い「低コストな制度」

 引用元ではベーシックインカムの長所として、上記5つが挙げられています(引用は見出しのみ)。1,3,5辺りは小さな政府を好む層からウケが良さそうですね。一方で論者は日本でベーシックインカムが実現しない理由として「官僚の仕事が減るからだ! 官僚が抵抗するから改革できないんだ!」と幼稚極まりない(けれども読者のウケは悪くないであろう)理由を持ち出したりもしています。まぁ、制度がシンプルで運営コストが安く済む点は肯定的に評価されるべきなのでしょうけれど、しかるに「長所」として挙げられたものの中には「短所」でしかないものも含まれているように思われます。その短所があるが故に、日本ではベーシックインカムの実現が難しいのではないかと。

参考、試金石

 上記リンク先では、高校授業料無償化によって「奨学金はもう必要ないのでは」という声が出てきたことを取り上げました。実際、育英会などへの寄付は大幅に減ったそうです。授業料が無償化されたのだからもう奨学金は必要ない、子ども手当が出るようになったのだから追加の支援は必要ない、そういう考えが出てきたわけですね。しかるに奨学金支給の対象になるような低所得世帯ともなりますと、元より授業料が減免されているケースが多く、つまりは無償化されようがされまいが、あまり関係のない話だったりします。にも関わらず奨学金が「無償化されたのだから」という理由で打ち切られてしまうと、かえって無償化以前よりも困窮する羽目になってしまうのです。無償化と引き替えに奨学金が打ち切られ、授業料以外の諸々の支出に対応できなくなる、これでは本末転倒でしかありません。

 他にも子ども手当導入に合わせて扶養手当を廃止した企業も少なからずあったと聞きます。ではベーシックインカムの場合はどうでしょうか。この場合も、ベーシックインカムという新制度導入と引き替えに既存の社会保障を廃止することが念頭に置かれているわけです。しかるに病気や障害、年齢などの理由で社会保障以外に収入を得る手段のない人はどうなるのでしょう? 医療保険だけは残されるにしても、病気で働けないのであれば得られる収入はベーシックインカムの5万円だけになってしまいますし、あるいは老齢年金が廃止されて収入はやはりベーシックインカムだけの5万円となったら? 既存の社会保障をベーシックインカムに置き換えることは、社会的弱者の切り捨てでもあります。

 また上記(2)と(4)で挙げられた「公平さ」や「格差是正」を求める声はそれなりにあるのですが、しばしばそれは歪んだ認識に基づいています。つまり、どういうところに「不公平」を感じ、どういうところに「格差」を感じているか、その辺が怪しいわけです。では昨今、ベーシックインカムに好意的な人々が問題視したがる「不公平」や「格差」とは何なのでしょう。それは往々にして、既存の社会保障受給者と、そうでない人の不公平であり格差であったりします。すなわち既存の社会保障者を不当な受益者と見なす立場から、その不当な受益者によって搾取される自分たちとの「公平さ」や「格差是正」を求めてベーシックインカムを唱えている人が多いのではないでしょうか。

 年金受給者や生活保護受給者、こういう人々を不当な受益者と見なす人ほど昨今はベーシックインカムに肯定的であるように思われます。既存の社会保障受給者への支給を打ち切って、社会的弱者も強者も同じく一律の給付にしてしまうことに「公平さ」と「格差是正」を感じる、そうした「主義」に基づいてベーシックインカム論議が盛り上がっているフシは決して否定できないはずです。ベーシックインカムが既存の社会保証に付け加えられるものとして導入されるのではなく既存の社会保障を置き換えるものとして導入されてしまえば、既存の社会保障によって支えられてきた人々は路頭に迷うことになるでしょう。それは昨今のベーシックインカム論者にとっては正義ですらあるのかも知れませんが……

 

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日本にだけは当てはまらない気もする

2011-01-10 23:15:44 | ニュース

高学歴の人材不足、深刻に=急速な高齢化で―世界経済フォーラム(朝日新聞)

 世界の大企業で組織する世界経済フォーラム(本部ジュネーブ)は7日、高齢化により2030年までに専門知識を持つ高学歴の人材不足が各国で深刻化するとの報告書を公表した。各国が経済成長を持続するためには、企業が求める能力と現実との格差を埋めることが課題だと強調している。

 報告書は、先進国では高齢化の進展と不十分な教育水準を背景に「幅広い職業分野で高学歴の人材不足に直面する」と指摘。企業が戦力として必要とする専門知識を持つ高学歴の人材は「(高齢化が顕著な)日本、ドイツ、カナダ、スペインで20年にも深刻な不足に見舞われる」と警告した。 

 日本では「労働力が将来的に不足する」などと鬼が笑うような妄言が繰り返される一方で、大学新卒者ですらも就職に苦労するほどの深刻な労働力余剰の時代が続いているわけです。このまま人口減少を上回るペースで採用抑制が続けば、それこそ国内には仕事がないから国外に出稼ぎに行くのが当たり前になる、日本産の従順な社畜を輸出する時代が来るのかも知れません。日本企業から「無能な中高年」としてリストラされた技術者が中国や韓国のメーカーに迎え入れられるケースも増加の一途にあるそうですし、まぁ日本に関しては世界経済の流れとは常に逆のことが起こっても不思議ではないのでしょう。

 世界経済が成長を続ける中で、1人「経済成長の時代は終わった(キリッ」と悦に入るのが日本という国です。その経済成長は輸出頼み、日本製品を買ってくれる外国の好景気頼みであるにも関わらず、その外国の好景気を「アレはバブルなのだ」と小馬鹿にする傲慢さ、金融不安では金融立国とされる国よりも遙かに大きな被害を受けながらも製造業至上主義にしがみつく現状への反省のなさ等々、まぁ日本経済とは内向きな自己満足の世界なのでしょう。結局、日本が世界に類を見ない成長を止めたデフレ国家である以上、上記の世界経済フォーラムが指摘するような懸念も日本にだけは例外的に当てはまらないような気がします。

 どこの国でも基本的には、社会が豊かになって少子化も進むのと同時に高学歴化もまた進みます。子供に高等教育を受けさせるだけの社会的インフラが整い、かつ子供の数が減って教育のためのリソースが集中投下されれば必然的に高等教育を受ける割合も高まるわけです。そして単純労働中心の産業から高付加価値産業へとシフトしていくものですが――この流れに抗っているのが日本とも言えます。高付加価値産業へのシフトが進む国では専門知識を持つ高学歴人材の不足が将来的な懸念になる一方で、何より労働力に安さを求める、中国などの新興国と同じ土俵で張り合おうとしている日本では、高学歴の人材は不足するどころか余剰人員と見なされる傾向が強まることさえあるのではないでしょうか。まぁ、日本では高学歴ではない人だって就職難には変わらない、労働力が余っているという点では高等教育の有無は無関係とも言えますけれど。

 

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珍しく法律を守ろうとしている話

2011-01-08 22:55:55 | ニュース

トヨタ一般職400人採用へ、社内の派遣を登用(読売新聞)

 トヨタ自動車が、一般事務職に当たる「業務職」の正社員を新たに400人程度採用することが5日、分かった。

 トヨタは昨年11月、社内で働く派遣社員約1700人を対象に業務職を募集し、現在、採用試験を行っており、合格者から優先的に採用する。

 トヨタは昨年3月に発表した2011年春の新卒採用計画で業務職の採用を初めて見送ったが、業績が改善していることから採用を再開する。

 業務職の新規採用は今年4月1日付の予定だ。派遣社員から正社員を登用する理由について、トヨタは「派遣社員が担当する専門領域の仕事だけでは対応できない業務が増えてきたため」と説明している。

 何というかまぁ、珍しいこともあるものです。それこそ人が犬を噛んだぐらいにイレギュラーな事柄と言えるでしょう。業績が好転しようが悪化しようが一貫して人員削減と賃下げに励む、初めにコスト削減ありきが日本的経営だったはず、しかも押し売りではなく事務職を増やそうというのですから、なおさら異例の事態です。その異例づくしに加えて新卒採用ではなく既存の派遣社員を正社員に登用という、これまた非一般的な採用形態を取るのですから(普通はトウの立った派遣社員を切り捨てて、また別の若い人を非正規で採るもの)、もはや槍が降ってきてもおかしくありません。

 前にも書いたことですが、雇用や労働問題でトヨタやキヤノンの名前が頻繁に出てくるのは有名税的な部分もあって、トヨタだけが極端に労働環境が悪いというよりは、どこも従業員を蔑ろにする中で最も名の知れた企業が槍玉に挙げられているだけとも言えます。むしろトヨタは、相 対 的 に はマシな部類なのではないでしょうか(働く人を使い捨てにするにしても、相対的には高い賃金をトヨタは支払っているはずです、あくまで相対的には!)。トヨタの下請けも含めた中小企業ではトヨタなんかよりもずっと酷い雇用/労働環境が野放しにされていて、それに比べればトヨタのような大企業は相対的にマシである、ただ関係者以外は誰も知らない無名企業にではなく、誰もが知っている有名企業の方にニュースバリューが認められているだけです。「自民よりマシなのだから」と言い繕って民主党へ票を集めるよう呼びかけたような人であれば、その辺の中小ブラックよりは格段にマシなトヨタを賞賛、擁護したらどうかと思わないでもありません。

 ……で、そのトヨタが既存の派遣社員を優先的に正社員登用することが伝えられています。紹介予定派遣(正社員登用を前提として人材派遣形態)の活用に積極的な中小企業の場合、むしろ正社員登用後の方が給料が低かったりするのが珍しくありませんが、トヨタの場合はどうなのでしょう。日本には名ばかり正社員、名ばかり管理職というものもあります。時間当たりの給与が一番低いのは店長、なんてのが当たり前の世界です。今や正社員といっても簡単にクビを切られる時代、雇用形態が変わるだけで安心できる段階はとっくに超えていますが、トヨタの場合はどうなのやら。

 さて正社員登用の理由として「派遣社員が担当する専門領域の仕事だけでは対応できない業務が増えてきたため」と説明されています。というのも派遣社員には政令26業務というものがありまして(この26業務に含まれている限り派遣社員としての雇用期間には制限がなく、その気になれば何十年でも派遣社員のままや問い続けることが可能だったりするわけですが、まぁ普通は3年を待たずして新たな若い派遣社員に置き換えられるものでもあります)、事務職の場合は26業務の一つ「5号 事務用機器操作の業務(PCを使った仕事)」としての雇用が一般的です。そして法律上、事務用機器操作「以外」の業務は全体の1割を超えてはならないことになっています。そこで普通は法律を無視して雑務も任せるものなのですが、何の気まぐれかトヨタは法律を守る気になったようです。

 「派遣社員が担当する専門領域」=「事務用機器操作」には含まれない業務が全体の1割に収まらないのは、だいたいどこの職場も同じだと思います。だから一般的には法律を無視する、監督官庁もこれを黙認するわけです(労働/雇用関係の不正を黙認するのが日本経済における常識であったからこそ、キヤノンの御手洗のように偽装雇用を指摘されては「法律が悪い」と居直る輩も出てくるのでしょう)。しかるにトヨタは、「派遣社員が担当する専門領域」以外の業務もやらせるからと、小規模ながらも派遣社員を正規雇用に切り替える決断を下したことが伝えられています。これが他社にまで波及する可能性は残念ながら考えにくいところでもありますが、一つの英断、小さな一歩として評価できるところもあるでしょう。

 そしてもう一つ注目して欲しいのは、このトヨタにおける正規雇用への切替は、規制が存在するからこそ起こりえたと言うことです。財界筋や経済誌は際限なく規制緩和を要求しますが、派遣社員への業務への制限が名目的なものさえ撤廃されていたのなら、トヨタもまた派遣社員を正社員に置き換えることなどなかったのではないでしょうか。いかに有名無実なものであったとはいえ、法律による制限が設けられていたからこそ、敢えてトヨタは派遣社員ではなく正社員として雇うことになったのですから。今回の一件は昨今の雇用問題、とりわけ非正規雇用の問題を解決していく上で何が必要かを明確に指し示しているように思います。しかるべき規制があってこそ、しかるべき形態での雇用にも繋がるものなのです。

 

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賃金当たりの生産性は高い

2011-01-06 23:25:31 | ニュース

労働生産性 日本人は怠け者か(No.331) 「非正規」増 時間減らず伸び悩み(東京新聞)

 日本は効率のよい国だというイメージがあります。しかし、労働生産性が低下している、と指摘されています。かつて日本人は働きすぎといわれていました。一体、何が問題なのでしょうか?

 労働生産性は、労働によって、どれくらいの価値が生み出されたかを示す指標です。

 一般には、労働の時間あたりで生み出された価値とされます。例えば、付加価値として国内総生産(GDP)を分子に、就業者数と労働時間の積を分母にして求めます。国際比較では労働時間の比較が難しく、分母を就業者のみとする場合もあります。

 では、それぞれを見てみましょう。時間あたりの労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)によると二〇〇九年で米国を一〇〇とした場合、日本は六六・六にすぎず、先進国で最下位です。就業者あたりで見ても、〇八年は加盟三十カ国中二十位でした。

 ちょっと古い記事ですが、東京新聞で労働生産性の話題が取り上げられていました。よく「日本の生産性は低い(だからもっと働け)」的な主張が垂れ流されているわけですけれど、その実態はいかほどのものでしょう。ここでも説明されているように、まず労働生産性は「時間あたり&就業者あたり」で求められます。そして就業者あたりに限った生産性に関しては30国中20位と「中の下」レベルであるにも関わらず、「時間あたり&就業者あたり」を指標とした場合は先進国中の最下位に日本は位置しているわけです。要するに、日本は時間あたりの生産性が極端に低いということがわかります。

 これは当然の話です。深夜営業や休日の営業が厳しく制限されている国と、24時間営業に加え、祝日は元より正月の営業すら当たり前の国とで、時間あたりの生産性に差が付くのは当たり前です。例えば10時から18時までしか営業していない商店と24時間営業の商店では、分母に圧倒的な差があります。営業時間を延ばしたことで多少は売上も増えるのかも知れませんが、それを遙かに上回るペースで分母が大きくなる、結果として時間あたりの生産性は激減するわけです。しかるに日本は労働時間が長く、帰宅が深夜に及ぶ人も少なくない、そうなるとそれに合わせて取引先企業や小売に飲食、保守関係など各種サービス業も営業時間を深夜まで延ばさないと顧客ニーズに応えられなくなる、そうやって労働時間は果てしなく増大し、時間あたりの生産性は世界最低ランクへと落ちていくのです。


 では、どのようにすればよいのでしょう? 例えばドイツは、年間労働時間で日本より短く、労働コストを日本の一・七倍もかけています。それでも、生産性は日本より時間あたりで一・四倍も良い結果です。


 とかく危機を煽るのに都合の良い、悲観的な印象を与えるものの方が好まれがちです。凶悪犯罪の減少を伝えるよりも扇情的な犯罪をクローズアップする方が好まれますし、食糧自給率だって金額ベースではなくカロリーベースで語られます。労働生産性もしかり、「日本の労働生産性は低い」というネガティヴなデータが導ける時間当たりの生産性だからこそ、好んで語られてきたのではないでしょうか。これが仮に、労働コストあたりの生産性であったらどうだったでしょう。引用元によるとドイツの労働コストは日本の1.7倍、それでいて生産性は1.4倍です。それはすなわち、日本の1.7倍もコストをかけているのに生産性は1.4倍にしかなっていない、逆に言えば日本は労働コストがドイツの6割未満と格安であるにも関わらず、7割超の生産性を確保していることを意味します。ドイツの労賃あたりの生産性を100とするなら、日本の賃金あたり生産性は「121」――日本の生産性は高いではないですか!

 結局、日本は労働コストが安く済む、だからこそ国際競争力が高く巨額の貿易黒字を抱えてもいるわけです。他の先進国に比べて割安の労働コストこそ、日本の武器だったと言えます。ただ、こうした賃金の低さを武器にしてモノの輸出で外貨を稼ぐというビジネスモデルは、基本的には新興国のものであって先進国には向きません。賃金が上昇しては、武器が無くなってしまいますから。そこで日本が「モノを製造して海外に売る」というビジネスモデルを墨守すべく国内労働者の賃下げに死力を尽くしてきたのは記憶に新しいところです。もちろん、これは国民を幸せにするものではありませんが、製造業を神聖視する国民の声に応えて今後とも財界は賃下げに励むことでしょう。

 

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就職ビジネスに騙されるな

2011-01-04 23:26:37 | ニュース

【就職難を乗り越えろ】中小狙いに転換、対策塾活況(産経新聞)

 資格取得講座などを運営する学校法人、大原学園が大学3年生らを対象に募集した「志望企業別就職対策講座」は22年10月下旬に締め切られた。定員は前年より20人増の100人に拡大したが、「前シーズンより1カ月早く定員に達した」(大原学園)。受講料は指導回数に応じて、5万円と10万円の2コース。これに就活基礎力養成講座の受講料1万5千円がかかる。安くはないが、内定に近づきたい学生であふれる。

 就職のハードルを一段と高くしている大手志向からの転換で実績を上げようとしているところもある。

 人材教育研修事業を手がけるジェイック(東京都千代田区)が既卒者や第二新卒者を対象に17年から始めた営業カレッジ。中小企業への就職を念頭に、名刺交換など営業の基礎から、飛び込み営業体験までを10日間かけてたたき込む。遅刻や宿題未提出は1回でも「即退学」という厳しさだ。

 都内の私大を卒業し、営業カレッジで学んだ20代の男性は、「現役のときは、アルバイトで身近に感じた大手の飲食、飲料メーカーを中心に、かたっぱしから120社程度にエントリーした」という典型的な大手志向だったが、中小企業志向に切り替え、希望する仕事をつかんだ。現在、関東郊外にある社員数30人ほどの塗料メーカーで営業マンとして多忙な日々を送っている。

 コースによっては入学金と学費で年間126万円もかかるところもあるようですが(参考)、大学3年生向けのコースは5万もしくは10万円(追加でさらに1万5千円)とのことです。学生自身にとってはともかく親からすればリーズナブルに見えるのかも知れません。しかるに大学3年生の10月の段階で募集は締め切られてしまったそうです。就職活動もさることながら、就職予備校の早期化すらもエスカレートするばかりのようです。

 さて、「就職のハードルを一段と高くしている大手志向からの転換で実績を上げようとしているところもある」とのこと。大手志向云々と言う聞き飽きた与太が相も変わらず垂れ流されているわけです。ただ私が知る限り、分類上は中小でも優良と呼べるところには応募が殺到しているように見えるのですけれどね。学生は大手志向なのではなくて優良企業志向、敬遠されているのは中小ではなくブラック企業であって、メディア報道や権威筋の経済言説はその辺を無視している気がします。そもそも就職のハードルを高くしているのは異常な買い手市場であって、学生側の選択のせいにするのは筋が違うというものです。企業は応募者を選別するのに、学生側は応募する企業を選んではいけないとでも思っているのでしょうか。

 付け加えて言うなら、誰もが「就職スキル」を磨くのに余念がないこともハードルを高くしているはずです。まさに就職そのものを目的とした就職のためのスキルを身につけていないと、あたかもやる気がないかのごとく判断されて速やかに落とされてしまう、それこそ進学塾ならぬ専門学校に通って就職のための勉強をしないと話にならないというのですからハードルが高くなるのも当たり前です。就職のための訓練を積み重ねた人が増えた分だけ競争が激化するのは必然、ハードルを高くしているのはこの手の就職ビジネスでもあるはずです。

 で、実際に教えている内容となるとどうでしょう。本文で挙げられたところによると、「名刺交換など営業の基礎から、飛び込み営業体験までを10日間かけてたたき込む」そうです。う~ん、名刺交換なんて会社に入ってから教えても大して変わらないところですし、たかだか10日の飛び込み営業体験で営業力が身につくとも思えません。でも、こういう付け焼き刃の対策が好まれるものなのかも知れませんね。たとえば会社側の新人に対する不満としては「挨拶ができない~」みたいなのが定番ですが、挨拶なんて教えれば済むこと、半日もかからずに教えられることのはずです。でもこうした名刺交換とか挨拶の仕方とか、教えれば済むことを教える前から理解している人が採用側には好まれるものなのでしょう。もうちょっと、時間をかけなきゃ身につかない能力を見た方が良さそうに思えるのですが。

サラリーマン生涯賃金 10年で2000万超も減っていた!(R25)

いきなり結果をいうと、大卒で定年(60歳)まで勤めた場合のトータル給与額は平均で約「2億5317万円」。退職金の平均額2175万円(中央労働委員会調べ)を加算した“生涯賃金”は「2億7492万円」となった。業種別にみた稼ぎ頭は「金融業・保険業」で、生涯賃金は3億円超え。逆に「宿泊業・飲食サービス業」は辛うじて2億円を上回った。また、トータル給与額だけで比べても従業員1000人以上の大企業と、100人未満の中小企業ではどの業種でも1億円近い開きがあり、業種や企業の規模による格差は想像以上に大きいよう。

ちなみに10年前と比較するとどうか?平成11年度のトータル給与額は全業種平均で約「2億7655万円」。退職金をプラスすれば、なんとほぼ約3億円になる。冒頭で触れた「3億円説」は10年前の数字が根拠になっているのかも。

それにしても10年前と比べ、生涯賃金は約2200万円も減っているのか…。特に、近年の落ち込みは激しい。リーマンショック前年の平成19年は「2億8553万円」だから、わずか2年で1000万円以上も減ったことに。

 さて、給与平均の低下がここでも伝えられています。特にこの2年で、賃金低下の勢いは加速しつつあるようです。これはあくまで算術平均ですから中央値や最頻値はもっと低いものになる、格差が拡大したぶんだけ中央値は一層の低下を見せているものと推測されます。企業にはお金を稼ぐことにもお金を費やすことにも貪欲であって欲しいものですが、しかるにひたすら人件費を中心としたコストを切り詰めるばかりのケチ臭い経営こそ日本では賞賛の対象ですから、なかなか改善は見込めないところでもあります。自発的な改善が見込めない以上は行政の半強制的な対策が求められるところですが、現政権にはそれも期待できないだけにどうしようもありません。

 それはさておき、「従業員1000人以上の大企業と、100人未満の中小企業ではどの業種でも1億円近い開き」のあることが伝えられています。中小にも例外的に優良な、給与面でも優良な企業は存在するのかも知れませんが(そして優良な中小企業には応募が殺到している、と)平均はこんなものです。初任給だけ見ると極端な差はないように見えても、その後の昇給ペースが全く異なる、生涯賃金で見ると絶望的な差があるわけです。流行りの就職予備校は見せかけ上の就職実績を稼ぐべく、採用してくれそうだからと安易に中小企業を勧めます。しかし学生にとっては生涯を決める一大事なのです。優良企業に入るチャンスは新卒時の一度限り、その機会をつかめるかどうかで1億円近い差が出ます。とりあえず学生には、アホなコンサルの戯言に惑わされず、ちょっとぐらいは背伸びしてみることを勧めたいですね。優良ではない中小企業なら、まぁ既卒になっても若い内なら入れないことはないですし。

 

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己を知らないと言うこと

2011-01-03 15:46:29 | ニュース

ザック監督を直撃「向上心ある日本」「素晴らしいFWいる」(スポーツニッポン)

 ザッケローニ監督 Jリーグはきれいなサッカー。欧州は2本パスをつなげばすぐつぶされる。それがまだJには見られない。私が試合を見る時には頭脳、フィジカル、技術、戦術の4つがバロメーターになる。総合力が高い選手に期待する。日本の若い才能の可能性を信じている

 日本の育成システムには絶対の信頼を置く。98年W杯、00年欧州選手権を制したフランスの再現を脳裏に描いている。

 ザッケローニ監督 日本の育成システムはまず個人の育成から始まる。それから戦術。欧州とは逆だが、これが素晴らしい。欧州では“個”がおろそかなんだ。25年前フランスが今の日本のようなアカデミーをつくり90年代後半タイトルをほとんど手中にしたね

 だからこそ日本のサッカーの将来をリスペクトしている。永遠の課題とされる決定力不足についても楽観している。

 ザッケローニ監督 素晴らしいFWがいるじゃないか。決定力不足はない。これは本音だよ。例えば、ブラジル大会で母国のイタリアと対戦する。欧州は成長が止まっていて、アジアの成長は続いている。もう一つ、イタリアは向上心に欠け、日本にはそれがあふれている。面白い試合になると思うよ

 オシムも結構、話の面白い監督でしたがザッケローニはいかがでしょうね。かなり独特な3バック戦術を得意としていたイメージがあるだけに、同様に独自の3バック理論の伝道者であったトルシエ時代を思うと期待と不安の入り交じる人選ではありましたが、とりあえず就任直後の親善試合は上々でした。さて次なるアジア杯はいかに。

 ザッケローニ監督は「Jリーグはきれいなサッカー」と評しています。確かに、プレミア当たりのサッカーと比べるとフィジカルで潰しをかけるような場面は少ない気がしますね。まぁ、この辺は世間一般のイメージと大きく食い違うものではないでしょう。一方で「日本の育成システムはまず個人の育成から始まる。それから戦術。欧州とは逆だが、これが素晴らしい。欧州では“個”がおろそか」とも語っているわけです。この辺り、日本サッカーに関してむしろザッケローニの見解とは正反対の印象を持っている人が多いように思います。

 こと教育に関しては「行きすぎた個人主義が~」という声もありますけれど、これは「個」の尊重を嫌悪する意識の強さの表れと見るべきで、基本的に日本は個人よりも組織を優先する傾向の強い社会と言えます。それはサッカーにおける「好み」にも如実に反映され、個人の弱さを組織の力で補うみたいな考え方が暗黙の了解として主流派の地位を占めてきたはずです。だからこそジーコの個人の能力をフォーカスしていこうとする方針が見事に空回りしたりもするわけで、概ね日本人の自己意識としては「個」の能力の高さではなく「組織力」の方を誇りたがるところがあると言えるでしょう。

 ただ近年の日本人選手を見る限り、個人としての能力は強豪国と比較しても、そう極端に劣るものではないように思われます。中盤の選手の技術は元より定評のあるところですし、昔年の中田や昨今なら本田など、世界水準で見てもフィジカル面では強い部類に入る選手もいるわけです。では何が日本の欠点かと言えば、むしろ組織力や戦術理解度なのではないかという気がしますね。海外移籍した日本人選手の中には監督や戦術が変わると途端に活躍できなくなるケースも目立ちますが、それは個人としての能力不足ではなく、戦術理解度の低さ故に新たな組織での役割を果たせなくなってしまうからではないかと。

・・・・・

ミランのコーチに聞く選手育成論
第1回:イタリアの子どもと日本の子どもの違いは? (スポーツナビ)

 学校教育に関して、日本の子どもは運がいいと思います。日本では体育の時間にたくさんスポーツをできるけれど、イタリアの子どもは教育制度のせいで運動があまりできないからです。このことがもたらす結果は、サッカーに関しては顕著です。同じ年齢なら日本の子どもの方が運動神経もいいし、テクニックもあるし、ボールタッチも柔らかい。これはプロを目指すサッカー選手のキャリアに役立ちます。

 この辺は過去にも引用したことがある一説ですが、日本人自身の自己認識と比べるとどうでしょうか?

<長谷部、大久保、内田を抜擢した猛将> フェリックス・マガト 「私が日本人を好む理由」(Number Web)

 もちろんすべての面を、手放しで肯定しているわけではない。マガトは日本人選手が派手なプレーを好む傾向があると感じており、それを修正させようとしている。

 ヴォルフスブルク時代、大久保が左足のアウトサイドを使ってパスを出したとき、マガトは声を張り上げた。

「なぜ、左足のインサイドできちんと蹴らないんだ。サッカーはサーカスではない。不正確なプレーはするな!」

(中略)

 その一方で、一般的に日本人の弱点と言われるフィジカルを、マガトはまったく問題視していない。内田の線の細さも、必ず改善できると確信している。

「確かにアツトの体にはまだ強さがない。だが、きちんと筋力トレーニングを継続すれば、必ず守備力はアップする~

 あるいは、こちら。この辺も日本人自身の日本サッカー観とは、少なからず食い違うところが多いはずです。日本では日本人の弱点はフィジカルにあると思いたがる人が多いですが、ミランのコーチは日本の子供の方がイタリアの子供より体力があると語っていますし、マガトはフィジカルの弱さなど鍛えれば済むことと一蹴しています。そして冒頭のザッケローニ発言です。日本サッカーは組織よりも先に「個」がある、「個」の能力はあるけれども、組織力に乏しいというのが実は正しいのかも知れません。逆に言えば組織力の欠如こそ日本サッカーの弱点ということになりますが、しかるに弱点である組織力の欠如を自覚できておらず、原因をあくまで「個」の力不足に求めようとする、だからこそFW個人の決定力不足ばかりが非難されてきたのでしょう。でも実は、本当に非難されるべきは別のところにあるとしたら? ザッケローニは「決定力不足はない」と言い切ります。不足しているのは、FW個人の決定力ではないと……

参考、まず現状認識に疑問がある

 上記リンク先でも触れたことになりますが、誤った現状認識に基づいて対策を立てたところで好ましい結果を出せるはずがないのです。にも関わらず、何が弱点で何が長所なのか、それを正しく把握できていないのに、思い込みに基づいて対策なり政策なりを決定してしまう、そういうケースが多いような気がします。サッカー限定の話であれば、単にファンががっかりするだけで済みます。しかるに教育でも治安でも外交でも選挙でも、そして経済と雇用に関してはとりわけ顕著に、正しい現状認識ではなく思い込みに依拠した主張や選択が繰り返されているように思えてなりません。そうした結果が今に至るわけで、まぁ現状認識の誤りから自省すべき時が来ているではないでしょうかね。日本人自身の自己認識よりも、外国人の見た日本人像の方が実情を正しく捉えているところも少なからずありそうですし。

 

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強盗には優しいすき家

2011-01-01 22:58:30 | ニュース

すき家に強盗多発…警察は10回も改善要請(読売新聞)

 牛丼チェーン最大手の「すき家」を狙った強盗事件が多発し、愛知県警が運営会社の外食大手「ゼンショー」(東京都港区)に対し防犯体制の強化を求める異例の業務改善要請を1月以降、10回以上繰り返していることが29日、分かった。

 東海3県の各県警によると、1月からこれまでに発生した牛丼店の強盗事件(未遂を含む)は、愛知14件、岐阜5件、三重1件の計20件。このうち18件がすき家で起こっている。

 事件は、最近でも22日の愛知県津島市、24日の名古屋市名東区とたて続けに発生。24日の名東猪子石店では、未明に入店してきた男がレジ横の仕切り板を持ち上げてカウンター内に侵入、刃物で店員を脅し、現金約60万円を奪って逃走した。

 すき家と言ったら従業員から残業代の支払いを求められたところ団交を拒否して訴訟を起こされ、それに対する報復措置として反対に従業員側を訴えるという暴挙に出たことで夙に有名でもあります(参考)。それに加えて、なぜか強盗に入られやすいということでも有名だったりするのですが(東海3県で発生した強盗20件中18件!)、どうやら運営会社に向けて県警から度重なる改善要請が出ていたようです。「10回以上」というのも異常な話で、それはすなわちゼンショー側が県警の改善要請を尽く無視していたことを推測させます。従業員の声に耳を傾けないのは日本の会社としては普通なのかも知れませんが、警察の要請をも突っぱねるとは良い度胸です。

強盗に優しいすき家

すき家
1.深夜は犯人にやさしい一人体制。
2.24時間営業で犯人が人気のないときに来店可能なように準備。
3.犯人が逃げやすいように出入り口近くにレジを設置。
4.犯人のために多額の現金をレジに溜め込む(被害90万,70万,25万,25万)
5.レジを一つにして犯人がお金を集める時間を最短にしている。
6.犯人が店員を脅しやすいように、カウンター内部に出入自由。

吉野家
1.どんな深夜でも2人体制
2.分散レジで集めて回るの大変
3.カウンターには飛び越えないと入れない

松屋
1.鉄壁の券売機でガード
2.店員がとにかく早く逃げろと指導されていて脅しようがない

 出典はネットのコピペですので真偽の程は定かではありません。ただ、すき家だけが際立って強盗に入られやすい理由としては納得のいくものです。部外者がカウンター内に簡単に侵入できる構造になっていて、かつ深夜は1人しか店員がいないというのであれば、強盗がすき家を選ぶのも当然でしょう。一方で「食い逃げされてもバイトは雇うな」みたいな考え方もあるわけです。あろうことか業界トップのすき家の店舗数は1500を超えます。いかにすき家への強盗が多発しているといっても強盗に入られる店舗数は全体から見れば微々たるもの、カウンターの改修や深夜シフトのアルバイトを追加するための人件費は、強盗による被害金額を大きく上回るものなのかも知れません。ならば防犯体制に関しては手を付けない方が安上がり、だから警察の要請など無視してしまえと、そういう経営判断が働いたであろうと推察されます。

 ただ防犯に掛かるコストと強盗被害による金銭的なコストを天秤にかけるのは構わないのですが、従業員の安全は考慮されているのでしょうか。強盗の被害が単に金銭的なものであるならば、滅多に来るものではない強盗に備えて深夜勤の店員を増やすなどのコストを投じるのはムダに見えるかも知れません。しかし、何かの拍子に強盗が傷害に発展することだって十二分にあり得るわけです。会社からすればバイトが刺されたって痛くも痒くもない、慰謝料や治療費だって深夜に新たなバイトを常駐させるコストに比べれば軽いものなのでしょうけれど、それはやはり改められるべき考え方として改善指導が入って当然のものと思われます。従業員を危険にさらしたまま放置するような会社が是認されるようなことがあってはならないはずですから。

 もう一つ思ったのですが、すき家は強盗による被害額と防犯に掛かるコストを天秤にかけるのと同じような感覚で、残業代を支払うコストと訴訟を起こされるリスクをもまた秤にかけているのではないでしょうかね。防犯に掛かるコストに比べれば強盗による被害額の方がずっと小さいとの理由で警察の要請すら無視して防犯体制を取らずにいる会社だとすれば、マトモに残業代を支払う費用よりも訴訟にかかるコストの方が安上がりと判断しても不思議ではありません。実際、賃金不払いで訴えてくる従業員などほんの一握りですし、監督機関も主体的に動くことはないわけです。だから訴えられるリスクを冒してでも賃金不払いを続けた方が得だと、そう考えているのではないかという気がします。

 

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