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非国民通信

ノーモア・コイズミ

残業のかたち

2019-03-17 23:26:16 | 雇用・経済

 先日、上司の替え玉で労働局に研修を受けに行ってきました。もっとも非正規社員に毛が生えた程度でなんの権限もない私ですから、雇用側の管理者向け研修を受けたところで、それを何かに使う機会が訪れるとは思えません。まぁ会社的には労働局主催の研修に参加した実績が出来たわけですから、これでいいのでしょう。

 基本的には雇用者向けの、労働法の話もあれば、その抜け穴を暗に示唆するような話もありました。会社側の言い訳がどのように作られているか、何処までなら労働局が目をつぶるか、察することができないでもなかったですね。一方で労働時間の考え方については例外的に、会社側の一般的な見解と労働局のそれとで、相違を見せる部分もあったのが幾分か驚きでした。

 労働局の講師が例に挙げたのが「懇親会」の扱いで、会社が業務として出席を命じたのであれば、それは会社の士気命令下にあるのだから労働時間に該当する、というものでした。しかし私は会社の上司だけではなく、労働組合の分会長からも、懇親会は上長から出席を命じられた場合でも勤務時間には当たらない、と説明を受けています。

 自分でも頷けるのは労働局の方で、上司及び組合の考え方は間違っていると確信しています。とはいえ労働局の見解の如何によらず、労働時間を管理し、そこに給与を払うべきかどうかを決定するのは――労働時間を短くカウントしようとしている会社の管理職や組合の方だったりするので、懇親会出席はいつだってサビ残です。

 まぁ一般論として出張にかかる移動時間なんかも労働時間にカウントされませんけれど、日の出前に家を出て、日付が変わった後に家に帰ってくる、そんな日程にもかかわらず労働時間にカウントされるのは8時間で残業は0の扱いだったりすると、徒労感は尽きませんね。これも実質的にはサビ残の内に入りそうなものです。

 ちなみにサービス残業以外にも「アピール残業」略して「アピ残」とか、ラマダンならぬ「ラマ残」とでも呼ぶべきものが、日本中の職場で存在するのではないかな、とも思っています。つまりは「頑張っています」「たくさん仕事をしています」とアピールするための残業等々。

 私の職場でも、毎日チャイムが鳴ると同時に駆け込んでくる人がいます。始業ではなく、終業のチャイムが鳴ると、ですね。時間外にもかかわらず仕事に忙殺されている自分をアピールすべく、終業時間となるや俄に走り出し、周りを巻き込んであれやこれやと打ち合わせのセッティングなどを始めるわけです。彼は努力の甲斐あって、課長に昇進しました。

 営業社員のように明確な数値が結果として出てくるのならいざ知らず、非営業社員ともなりますと評価の対象は専ら「心意気」となりがちですので、そうした普通の職場では残業してやる気をアピールするのが出世への最短コースです。仕事は終業のチャイムが鳴ってから、そんな日夜アピ残に励む人々が、管理職として大活躍しています。

 一方では日中の飲食を絶つことで苦しみを共にし連帯感を高める、そんな習俗のある宗教もあるわけです。では日本の会社ではと振り返ってみれば、会社に己の時間を捧げるという苦しみを共にすることで連帯感を高める、そんな文化があります。言うなればラマダンならぬ、ラマ残ですね。

 なおムスリムのラマダンは特定期間に限られますが、日本の会社のラマ残は――当面のところは終わる様子が見えません。もちろんラマダンがそうであるようにラマ残もまた強制ではないのですが、ラマ残に参加しなければ、異教徒として扱われます。苦しみを共にしてこそ仲間、それが今も昔も変わらぬ家庭的な日本企業の文化ですから。

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まぁ消費税を止めるのが一番の解決策ですが

2019-03-03 21:57:28 | 雇用・経済

軽減税率、高年収ほど恩恵 中位世帯で年1万2千円(共同通信)

 財務省は1日、消費税率10%への引き上げ時に導入する軽減税率制度の家計への効果試算をまとめた。負担軽減額は収入が多い世帯ほど大きくなり、全世帯を年収別の5グループに分けた場合の恩恵額は年約1万6千〜約8千円、中位の3番目の世帯は約1万2千円となった。民間試算と同様の傾向が表れ、野党は低所得者対策としての効果を疑問視している。

 2018年の家計調査を基に、8%の軽減税率が適用される外食・酒類を除く飲食料品と、定期購読の新聞に対する支出総額を抽出して計算。1日の衆院財務金融委員会に提出した。

 

 これと似たようなことを主張する人は他にも色々いますので目新しさはありませんが、こんなものを大まじめに持ち上げる財務省も共同通信も、そして何より野党筋も相当にヤバいと思います。まぁ流石に失笑を買うことの方が多かったものの、消費税全般に関して「収入の多い人の方が消費税の負担額は多い!」と力説する人もいたわけです。今回のは、それのマイナーバージョンでしょうかね。

 消費の総額が大きければ消費税の負担「額」は多くなります(実際の負担者の曖昧さはさておき)。ゆえに、月収20万円で支出が20万円の人よりも、月収が50万円で支出が40万円の人の方が消費税の負担額は大きくなる、だから「高収入の方が消費税の負担額は多い」のです。同様に、軽減税率の恩恵を受ける「額」も高所得世帯の方が多いのだと、財務省並びに共同通信、野党筋は主張しているのでしょう。

 もっとも月収20万円の人に課される1万6000円の消費税と、月収50万円の人に課される3万2000円の消費税のどちらが重いかは、言うまでもなく別問題です。軽減税率の場合も同様、月収20万円の人への恩恵が1,000円で、月収50万円の人への恩恵が2,000円であるなら、共同通信の報じるとおり「軽減税率、高年収ほど恩恵」と言えますが、皆様この考え方をどう思いますか?

 人頭税的な発想に乗っ取るなら、「額」の面で恩恵の多寡を見るのも妥当なのかも知れません。しかしガラパゴス列島の外も含めた現代社会における税制の標準に倣うなら、見るべきは当然「額」ではなく「率」です。軽減税率によって恩恵を受ける「率」が低所得世帯と高所得世帯のどちらで大きくなるか、それに目を背ける財務省は前近代的に過ぎるでしょう。

 もちろん、この前近代的な人頭税に理想を見出している人もいて、そういう人ほど「低所得者のため」を装いつつ「軽減税率は高年収ほど恩恵が大きいのだ」「消費税は高年収の人の方が多く負担しているのだ」と、間違ったイメージを広めようと足掻いているわけです。鼻で笑うべきレベルの話ですが、そういう論理に野党筋が乗っかっているのは何とも……

 なお日本式の軽減税率に問題を見出すとすれば(過去に書いた記事の繰り返しとなりますが)、10%と8%と言う、微々たる差しか設けていないことですよね。最高税率は15%だけれど食料品は0%、みたいなヨーロッパ式の軽減税率とは全く違うのが日本式軽減税率で、わずか2%の差しかないのでは「国民の生活に配慮しました」というアリバイ作りにしかなっていません。軽減税率自体は負担軽減策として有意義ではあるものの、2%の違いを体感するのは難しいでしょう。

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評価されるための能力

2019-02-03 21:28:48 | 雇用・経済

 離職率の高い会社――というものは、どこにでもあると思います。私の勤務先も、例外ではありません。まぁ、離職者がいるから中途や通年での採用(=穴埋め)があるのです。中途でも入社できる会社とは、その分だけ辞める人もいる会社であることは覚悟しなければならないのでしょう。しかしながら、一口に離職率が高いと言っても、その実は「部署次第、配属次第」となっているところもあるようです。

 上司の資質次第で部下の離職率が変わるのはもちろんのことですが、配属される「職種」によって離職率は大きく異なるものではないでしょうか。極限まで単純化すれば「営業は離職率が高く、事務系は離職率が低い」等々。とかく「ブラック企業」とは一括りに扱われがちですが、より細かく見ていけば「ブラック部署」「ブラック職種」もあるのかな、と思いますね。

 面白いのは、離職率の高い営業という職種は求人も多く採用基準も緩めだったりすることです。「営業として働き続ける」ことのハードルは高いのに、不思議と「営業として採用される」ハードルは低い、どうしたものでしょう。反対に事務系職種は、採用に関しては圧倒的な狭き門です。しかし事務系職種の離職率は営業よりずっと低かったりするのを考慮しますと、「事務として働き続ける」ことは、そう難しくないように見えます。採用のハードルは、あんなに高いのに。

 そこで私が考えるのは、「採用に当たって求められる能力」と「実際に働く際に必要な能力」は一致しない、と言うことですね。営業として採用されるためには、そんなに特別な能力をアピールする必要はない、しかし営業として活躍するためには相当に高度な能力が求められる、反対に事務職として採用されるためには特別な人材を装う必要があるものの、入社してしまえば平凡以下でもなんとかなる……

 覚えている人も多いと思いますが、理化学研究所のユニットリーダーとして活躍した小保方晴子さんという人がいるわけです。同世代の研究者の間では最も出世していた人の中に数えても良さそうな人ですけれど――諸々の不正が発覚して職を辞することにもなりました。彼女の研究者としての資質については当然ながら疑問符が付きますが、しかし彼女と同年齢で理研のユニットリーダーの地位を得られる人が、果たしてどれだけいるでしょうか? 研究者の資質は欠いていても、採用される能力、昇進する能力、人から評価される能力は、世代のトップクラスであったと言えます。

 逆に小保方さんよりも研究者として真っ当な人は多々いると思いますが、その中には理研なんて夢のまた夢、ポスドクに収まることが出来ればマシな方、就職(採用)とは無縁で不遇を託っている人も数多いるはずです。ヨソの国はいざ知らず、我々の社会とは、そういうものなのかも知れません。

 「今の若い人は、みんな本当に英語が上手なんだよね」と会社の偉い人が言っていました。採用に携わるような人の感覚からすれば、そうなのでしょう。残念ながら私は採用には関与しませんし、職場で英語を使う機会が皆無なので、若い人の英語力を知る機会がなかったりします。まぁ職場で英語が必要になる機会はなくとも、採用に当たっては英語力をアピールする若者が多いと推測すれば辻褄は合うでしょうか。

 昨今はどこの大学も(就活でアピールすべく)英語重視に拍車がかかっている他、中学や高校入試ですら「試験は英語一教科のみ」とする学校が出始めていると聞きます。アメリカやイギリスに行けば、落第生や失業者でも英語なんて誰でも話せる気がしますが、日本人にとって「とにかく英語力」というのは定番のようです。

 しかし英語力が自慢の新卒者が実際に就業して、得意の英語を活かして大活躍できるかと言えば――99%以上の若者は失望を味わっているだろうな、と思います。「グローバル」を掲げたがる会社は多くても、本当のグローバル企業は一握り、普通の人が就職するのはドメスティックな企業ですから。ただ、そんな英語を使う機会のない会社でも、就職の際に求められる能力として英語は重要なのでしょう。

 まぁ、国内市場をターゲットにする会社でも、昨今は外資系企業との取引は増えています。外資系企業の、日本語を介さない担当者を相手に営業をかけるなら、英語力が問われるのかも知れません。しかし私が注目したいのは、「現地の言葉を介さなくても要職に就いている人が(外資系企業には)普通にいる」と言うことですね。

 日本には、「日本語に不自由しない人」が1億人くらいいます。しかし日本語が巧みであれば日本で活躍できるかと言えば、そうもいかないわけです。逆に、日本語が不自由でも外資系企業の要人として活躍している人は、いくらでもいます。ではヨソの国に舞台を置き換えてみればいかがでしょう。英語が巧みでありさえすれば「世界で」活躍できるのかどうか、逆に英語が不自由でも活躍している人はいるのかいないのか等々。

 日本企業に就職する上では英語力が大いに問われる時代になりましたが、それもまた実際に働く上で必要な能力と、ただ就職するためだけに必要な能力との、深刻な乖離を象徴しているように見えます。とにかく採用面接の場面で自分をアピールする能力だけは高い、上長から評価を得て昇進する能力だけは高い、そういう人が会社で地位を高めていった結果、日本経済は上向いたのか、あるいは凋落していったのか――我々の社会はどちらを向いているのでしょう。

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そのまま潰しちゃって、どうぞ

2019-01-20 21:46:14 | 雇用・経済

 太平洋戦争の時代、牟田口廉也という将校がいました。その大胆にして苛烈な戦略によってビルマ方面の日本軍を壊滅させたことでも知られているわけですが、名前からも分かるとおり日本の人です。当時は陸軍の中将という高い地位にいたこともあり戦後はA級戦犯として指名されたものの、連合国の勝利への貢献を認められたのか、あっさり不起訴ともなっています。

 この「無能な味方こそ最大の敵」と呼びうる状況は、現代でも普通にある話だと思います。組織の癌だった人が異動して、人員の補充がないにもかかわらず仕事が円滑に進むようになった――そんな経験をしたことがある人も多いでしょう。むしろ牟田口が暗殺でもされていれば、日本側の被害は減り、連合国側が苦戦するようになる、そんな可能性すらあるわけです。

 

経団連を標的、中国人ハッカー集団 ウイルスは2年潜伏(朝日新聞)

 経団連が被害を受けた不正アクセス事件に、米司法省が「中国の国家安全省と関連している」と断定した中国人ハッカー集団「APT10」が関与していた疑いがあることが、朝日新聞社の取材で分かった。経団連に仕掛けられたウイルスの種類や外部通信先が、ハッカー集団を追跡している英国政府機関などの調査結果と一致した。

(中略)

 一方、日本の経団連が被害を受けた事件は16年11月に公表された。朝日新聞が入手した内部資料によると、日中間の経済協力を担当する部署が狙われ、14年7月に外部から届いたメールを開いた職員のパソコンがウイルスに感染。それから2年以上にわたり、パソコンやサーバーに感染を広げながら潜伏していた。サーバーに保管されていた、日本政府とのやりとりに関するファイルなどにウイルスがアクセスした痕跡があったが、情報が実際に盗まれたかどうかは、特定に至らなかった。

 

 経団連と言えば、昨年に「初めて」会長室へパソコンを設置したことで話題にもなりました。我が国のサイバーセキュリティ担当大臣である桜田義孝氏も、自身ではPCを使ったことがないと明言しており、仏APF通信などからは「どんなハッカーでも桜田大臣から情報を盗むことは不可能」と賞賛されています。辣腕の中国ハッカーにとっても日本の偉い人々は、なかなか手強いに違いありません。

 まぁパソコンがなくてもスマホがあれば侵入経路になりますが、しかし侵入したとしてもどうなのでしょう。そもそも経団連は日本にとってどのような存在なのか――中国ハッカーからの不正な侵入があった14年よりもずっと昔から、独自の経済理論に則り、かつては世界一だった日本経済を完全に失墜させる上で大きな役割を果たしてきたのが経団連ではないか――そう思わないでもありません。

 日中戦争における中国側の「正解」は、冒頭で挙げた牟田口のような無能を放っておくことです。無能な司令官を暗殺でもして、代わりに無難な将校が後任にでも就いたら、それこそ失敗と言えます。経団連を相手にした場合でも然り、もし中国側が日本の経済界を敵視し、それを打倒しようと考えるなら、経団連には自由に行動させるのが一番でしょうね。

 とは言えトランプやその同類には見えていないことながら、自国のビジネスの発展には取引先の発展もまた必要です。事業縮小中の会社と事業拡大中の会社、営業をかけるべきはどちらなのか、迷う余地はありません。そして中国にとって日本は極めて重要な顧客でもあります。日本という顧客の購買力が落ちれば中国の輸出にも負の影響があるわけですが、それを防ぐには――日本経済を明後日の方向に導こうとしている団体をどうにかするのが良策となるのかも知れません。

 まぁ不正なアクセスなんてものは当然ながら褒められた話ではないですけれど、褒められた存在でないのは経団連だって同じです。日本で働く人々にとっては癌でしかないイデオロギー集団が、どのような被害に遭おうとそれが国民の損になることはないでしょう。むしろ、ゴミ掃除みたいなものです。頑張れ中国。

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日本からは何が学べるのか

2018-12-16 23:36:27 | 雇用・経済

外国人就労の都市集中是正を明記 受け入れ拡大新制度の全容判明(共同通信)

 改正入管難民法などの成立を受けた外国人労働者受け入れ拡大の新制度の全容が13日、政府関係者への取材で分かった。制度の方向性を定める基本方針には、大都市圏に外国人が集中しないような措置を講じると明記。分野別運用方針では、国会答弁と同じく来年4月から5年間の累計で最大34万5150人を受け入れ、農業と漁業は派遣の雇用形態も認めるとした。外国人への支援内容を盛り込む総合的対応策には各種行政サービスの多言語化推進を記載した。

 

 さて外国人労働者の受け入れには一定の(雇用側からの)需要があるわけです。予定されている法改正では「農業と漁業は派遣の雇用形態も認める」そうですけれど、需要を考えれば港湾運送業、建設業、警備業あたりの派遣を認めたって良さそうな気がしますね。それよりも問題なのは「大都市圏に外国人が集中しないような措置を講じる」云々です。それはつまり、外国人に就労場所を選ぶ自由を与えない、ということでしょうか。

 改正法によって就労拡大が期待されているのは、一言でまとめれば「日本人がやりたがらない仕事」であるわけですが、これに加えて「大都市圏に外国人が集中しないような措置を講じる」とは即ち「日本人が住みたがらない場所」に外国人を宛がうことにもなります。まぁ日本国が望んでいるのは人間ではなく純粋な労働力ですから、そういう扱いになるのは必然なのかも知れません。

 日本人ほどには従順でない外国人労働者が増えることは、いずれ日本社会を変える原動力として(労組連合なんかより)期待できると私は思っていますけれど、当の外国人にとって日本で働くことは――決して勧められない現実もあります。賃金水準が低い、労働条件が悪い、日本人と比べて差別的な取り扱いも目立つこともさながら、「今さら日本から学ぶべきことなんてない」ですから。

 日本では「技能実習生」なんて題目で雇用を偽装するのが常態化していますが、ビジネスや科学技術を学ぶのなら、今は中国の方が上でしょう。四半世紀前ならいざ知らず、現代の日本は過去の栄光にすがるだけの二流の国家です。確かに日本には「GDPが横ばいの中でも内部留保だけは増やす方法」や、「景気が上向く中でも賃金を抑制する方法」といった面では世界に例のないものを持っています。しかし、そんなものを学んでも無意味ですよね?

 先日は、日馬富士に暴行を受けて話題になった貴ノ岩が付け人に暴行を加えていたことが発覚したりもしました。子供を虐待する大人には、自身が親からの虐待を受けて育った人が多いと言われます。たぶん、先輩後輩関係も同じなのでしょう。人に殴られれば、殴られた痛みではなく、人の殴り方を覚えるものです。ならば日本で働く外国人は、何を覚えて帰るのでしょうか、日本で学んだのが「立場の弱い人から搾取する方法」となるのなら……

 

サメ300匹密漁か、米が日本人船員ら刑事告訴(読売新聞)

 【ロサンゼルス=久保庭総一郎】米司法省は12日、南太平洋でサメを密漁していた疑いで、鹿児島県いちき串木野市の水産会社「浜田水産」と日本人船員3人らを11日付で刑事告訴したと発表した。

 司法省などによると、水産会社が所有する日本船籍の漁船「共進丸」は昨年11月上旬、静岡県・清水港を出発。11月上旬頃までの約1年間、南太平洋などで高級食材のフカヒレを手に入れる目的で、サメ計約300匹を密漁していた。日本人船員が指導し、インドネシア国籍の漁師に作業させていた。

 11月6日頃、米ハワイ州のホノルル沖で漁船を離れ、送迎用船舶で米国に入国したインドネシア国籍漁師18人が手荷物検査で大量のフカヒレを所持していたことが発覚し、このうち漁師10人が密輸容疑で米当局に身柄を拘束された。

 

 ここでも、日本(の船)で働く外国人が登場します。日本人船員「ら」刑事告訴と見出しに掲げられていますが、インドネシア国籍の漁師18名は既に身柄を拘束されているとのこと、「日本人船員が指導し、インドネシア国籍の漁師に作業させていた」結果として身柄を拘束されるとなれば、それはいったい誰の罪なのでしょうね。

 日本独自の慣例として、「おみやげ」と偽り禁止されているサメを持ち帰ることが結構あるようです。まぁ「調査」と称して遙か南極海くんだりまで鯨を殺しに遠征するような国ですから、そういうこともあるのでしょう。しかし雇用主の指示に従っただけであろうインドネシアの漁師にとっては、とばっちりでしかありません。この日本人による「指導」でインドネシア人は何を得るのか――「日本流の偽り方」や「密漁の方法」を習得するとしたら、それもまた恥じるべきことです。

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今までのやり方が通用しなくなるなら、それは良いこと

2018-11-25 23:39:01 | 雇用・経済

外国人3千人が加入の労組結成 日高屋、大半が非正社員(朝日新聞)

 中華料理店「日高屋」を首都圏で約400店展開する「ハイデイ日高」(本社・さいたま市)で、外国人従業員が約3千人加入する企業内労働組合が結成されたことが分かった。組合員の約3分の1を占めるといい、これだけ多くの外国人が入る労組は極めて異例だ。政府が外国人労働者の受け入れ拡大を進める中、外国人の待遇改善をめざす新たな動きとして注目を集めそうだ。

 同社や労組関係者によると、名称は「ハイデイ日高労働組合」。今年5月に繊維・流通・食品業界などを束ねる産業別労働組合「UAゼンセン」に承認され、労組の中央組織・連合の傘下に入った。店舗網の拡大による従業員数の増加を受け、社内で労組の結成が長く検討されていた。関係者は「今年ようやく話がまとまった」という。

 組合員数は約9千人。パートやアルバイトなどの非正社員が8千人超を占め、このうち約3千人がベトナムや中国、ネパール、ミャンマーなどから来ている従業員だ。週28時間以内なら働くことができる日本語学校や専門学校で学ぶ留学生らが多いという。

(中略)

 外国人の労働事情に詳しい日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は今回の動きについて、「日本の労働市場に、すでに外国人が相当入り込んでいることの表れだ」とみる。一方で「要求のとりまとめは日本人以上に難しい」(外国人の労働相談を受ける地域労組の代表)との指摘があり、言葉や文化の壁があるなかで組合員の要求をどう集約し、実現していけるかが課題になりそうだ。(土屋亮)

 

 さて正規雇用が減って非正規労働者が増えた時代には、この増えた非正規社員を取り込まないと労組が衰退するのはわかりきったことでした。ところが大半の労組は組織の拡大に不熱心で、組合員の供給源たる正社員の減少を指を咥えて眺めているばかりだったわけです。果たして大手労組連合は単にやる気がなかったのか、それとも組合員の権利保護とは別のところに目的があったのか、もう少し問われるべきなのかも知れません。

 「連合は共産党の影響を排除するために闘ってきた」とは日本労働組合総連合会(以下「連合」)の神津里季生会長の発言ですが、この大手労組の集合体である「連合」とは、労使協調の理想を追求すべく、会社側との対決姿勢が強い共産党寄りの労組を排除する形で、右派労組が結集して作られたものです。その中核は、かつて自民党を右から批判していた民社党の支持母体であるゼンセンであり、時には安倍内閣に先んじて残業代ゼロ法案への賛意を表明するなど、本質的には「反・労働者」の立場と言えるでしょうか。

 ともあれ「連合」は、大手というに止まらぬ「過半数」労組として労働者を代表する立場にあり、自民党が政権を取ろうが民主党系諸派が政権を取ろうが、その地位は揺るがないものでもあります。一方で労組内の「野党」である共産党系の組合や連合傘下に入らない諸派組合は、連合の「与党」としての地位を理論上は脅かしうる存在であり、それが高じて連合の「反・共産党が第一」に繋がるわけです。ゆえに民主系政党が自民に負けても問題はないが、共産党には――と。

 また安倍内閣の賃上げ要請などに強く反対しているのもこの連合でして、要するに連合としては「自分たちこそが労働者の代表」であり、賃上げ交渉のテーブルに立つ資格があるのも自分たちであると、そういう思い上がりを強く持っているのです。「連合の主権」に最大限の配慮をしてきた故・民主党政権が安倍内閣に代わると、口先レベルとはいえ賃上げ要請という「政府の介入」が始りましたが、連合にとってそれは「聖域への侵入」だったと言えます。

 労働者にとっては連合よりも安倍政権の方が頼りになったところですが、しかし連合からすれば「主権を侵害された」みたいな感覚なのでしょう。連合にとって守るべきものの第一は過半数労組として「労働者を代表する権利」に他なりません。だから政府の介入は許さない、それが高じて経済政策面では自民党以上に小さな政府思考になるところがありますし、連合を支持母体とする民主党系諸政党もまた、政府の介入を厭う市場原理主義的、新自由主義的な主張に傾きがちなのは、ある種の必然と言えます。

 前置きが長くなりましたが、この連合と、その中核たるゼンセンに、大半を非正規とするばかりか外国人比率が3割以上を占める労組が加わったと伝えられています。当然ながら異例の事態とも報じられていますけれど、この影響はどうなるでしょうか? 曰く「要求のとりまとめは日本人以上に難しい」(外国人の労働相談を受ける地域労組の代表)とのことで、引用元では課題があるような書きぶりです。しかし私には、むしろこの「難しさ」こそが希望であるようにも思われます。

 というのも、昨今の日本の組合員に「難しさ」はなかったわけです。要求のとりまとめに苦労することなどなかった、自民党に反対するポーズでも適当に取りつつ、会社側とも出来レースのプロレスごっこを続けていれば、それで済んでいたのです。ところが外国人が、日本的な従属意識を身につけてくれるかと考えれば、やはり難しいと言えるでしょう。そして難しいからこそ、今まで通りのやり方が押し通せなくもなる――ことを期待したいです。

 日本の市場はまさにガラパゴスであり、グローバルな考え方からは頑なに背を向けてきました。労働環境も然り、労組連合と組合員の関係も然りです。しかし外国で生まれ育った組合員という「外来種」の上陸を前に、これまでの旧態依然とした日本的労組もまた変化を迫られる可能性があります。悪しき労組が淘汰され、真に労働者のために戦える世界基準の労組が産み出される、そうした化学変化を起こす火種は、日本の内からではなく、外から来る可能性の方がずっと高いでしょう。

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穴を掘って、それを埋める

2018-10-21 23:54:17 | 雇用・経済

 あらぬ方向に信念を持っている人に比べれば、支離滅裂な人の方が害がない、と言うことができるのかも知れません。後者は的を外すこともあれば、「たまたま当たる」可能性があります。一方で前者は「確実に」間違った道を選ぶものです。マイナス方向で芯がある人よりも、場当たり的な対応の人の方がまだしもマシだったりします。

 安倍晋三の経済政策もその辺で、何かと矛盾した行動も多く、正しいこともやれば間違ったこともやる、その点では信用できないとは言えますが――与党内の対抗馬や有力野党の主要メンバーの主張に耳を傾けると、明らかにまずい方向に信念を持っているのが見えてきたりします。この辺に比べれば支離滅裂な政策の方がまだしも、と言わざるを得ないのが現状でしょうか。

 安倍政権誕生から順調に景気が上向いたかと思いきや、消費税を8%へと引き上げるやリーマンショック級の急落に見舞われたのは、そう昔のことではありません。ここから安倍総理が何かを学んだのかどうか、その後は消費税増税の延期を繰り返し、野党やメディア各社から批判を浴びることも多かったわけです。しかるに今度こそ10%に引き上げると宣言し出したのが先日のこと。さて……

 安倍政権の決めたことなら何でもかんでも非難してきた政党やメディアは、この引き上げ宣言をどう評価しているのでしょうか。過去の「引き上げ延期」を批判してきた人々が手のひらを返して「良くやった」と賞賛する声も聞かない一方で、逆に引き上げを批判する声もまた、あまり聞こえてこないようにも思います。

 そもそも消費税の引き上げを決めたのは民主党政権で、安倍政権は「約束を守った」格好ですから、旧民主党系諸勢力は批判が難しいところもあるのかも知れません。消費税増税を批判すれば、それを決めた自分たちを否定することになります。旧民主党系諸勢力に自身の過ちを認める度量など望めない以上、国会での争いを期待するのは難しそうです。

 一方でメディアも大手は逆進課税推進で足並みを揃えてきた経緯がありますから、影響力の大きいところほど増税容認の傾向は強いことでしょう。しかるに新聞業界は消費税を上げつつも新聞への軽減税率適用を訴えても来ました。その念願が叶ってか新聞には軽減税率が適用される見通しですが、いかがなものでしょうか?

 確かに新聞は、今でも一定の社会的役割があります。昔から続いてきた問題でも、新聞で報道されて初めて社会に認知され自体が動き始めることは多いですし、新聞不要論を声高に唱える人が口にしている話題もネタの大元は新聞報道だったりするものです。社説や論説の類いはなくなって問題ないにせよ、新聞自体の必要性は消えません。

 しかし現状の見通しでは、軽減税率が適用されたとしても、その税率は8%です。イギリスならば軽減税率適用の食料品などは課税「0%」、フランスならば「5.5%」、ドイツですら「7%」だそうです。しかし日本は軽減税率を適用されても8%の課税予定、これで「軽減」と言われても、私はなんだか誤魔化された気がしますね。

 そりゃ10%と8%の違いはありますが、「最高税率は20%でも生活必需品は0%」と、「最高率は10%で生活必需品は8%」とでは、その「軽減」の重みも随分と異なるのではないでしょうか。たかだか2%とは舐められた話ですけれど――まぁ新聞業界的には、自分たちを特別枠に搬入させた時点で満足なのかも知れません。

 日本には消費税導入と引き替えに廃止された物品税もあれば、酒やタバコ、ガソリンのように品目によって税率を変える仕組みが根付いています。やり方次第では、モノによって税率が違う制度の運用は決して難しくないでしょう。ただ「イートイン」と「テイクアウト」で税率が変わる辺りは、日本社会の実情を鑑みて運用を決めた方が良いようにも思います。

 確かに諸外国では、「外食」はちょっとした贅沢なのかという気がします。先進国における「外食」の値段を見ると、日本人にはおいそれと払えない代物も今時は目立ちます。新興国ですら都市部の飲食店の値付けを見るに、今や日本と比べても決して安くはありません。その一方で日本は飲食店従業員の圧倒的薄給を背景に格安飲食店が居並びます。良くも悪くも日本は世界にまれに見る外食が安い国である以上、「イートイン」の扱いは少し考えた方が良いはずです。

 かつて首相であった菅直人は、「これ以上借金を積み重ねたらギリシャのように財政が破綻し、予算や税率を決める権限もすべて外国任せになる」と説いて消費税増税を訴えていました。この発言当時のギリシャの付加価値税率は21%でしたが、この消費税によって事態が好転することはなく、直後に23%へ税率を引き上げるなどの混乱を繰り返していたわけです。結果はご覧のありさま。

 消費税は消費を抑制する効果はありますが、その分だけ景気を押し下げることになります。この辺は政府閣僚も心得ているようで、増税の悪影響が出ないよう景気対策に力を入れると連呼しています。しかし増税で消費を抑制しながら、税金で景気対策を打つというのもいかがなものでしょう。穴を掘って、それを埋める、労力は伴いますが、これが何か実を結ぶのかどうか、私は大いに疑問です。

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水を注ぐこと自体は必要ですが

2018-09-09 22:58:29 | 雇用・経済

「派遣切り」直接雇用義務を迎える3年で続々と…「身分が不安定に」「誰のための法改正なのか」切実な声(弁護士ドットコム)

労働者派遣法改正から10月で3年を迎えるのを前に、研究者や法律実務家などでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」は8月31日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、派遣労働者を対象に実施したアンケートの調査結果や、寄せられたネットでの相談事例を報告した。3年で「直接雇用」という改正後のルールにより、派遣労働者が直接雇用されるのではなく、「派遣切り」にあっている実態が浮き彫りになった。

 

 器に水を貯めるには、器に水を注ぐことと、器の穴をふさぐことが必要です。ところが器の穴を開けたまま水を注げば、当たり前のことですが器に水は貯まりません。この派遣労働者を対象とした直接雇用義務は典型例で、水を注ぐことを義務づけるようでいて底に開いた穴には何の規定もないため、当初に掲げた目的を達するにはほど遠い結果となっているわけです。

 今からでも穴をふさぐべく企業活動への規制が求められるところですが、一方で良い結果が出ていないことを大義名分として水を注ぐことまでをすら否定しようとする論者も少なくありません。あたかも労働者の味方を装いつつ、その実は旧態依然とした実質無規制の労働者派遣法を堅持しようとする人も珍しくないと言えます。

 実のところ非正規労働者の中には主たる家計の担い手もいれば、あくまで補助的に働く人もいるわけです。主たる家計の担い手は、当然ながら雇用の安定や一定の昇給を必要とします。一方で補助的に――旦那の稼ぎを補完するべくほどほどに――働く人もいて、そうした人々は「永遠に非正規で」働くことに抵抗がなかったりします。

 この非正規社員の直接雇用を義務づける法改正が「誰のため」であるかと問うなら、雇用の安定を必要とする主たる家計の担い手のためであると言えます。ところが非正規社員の中には相当数の「家計の補助として」働く人もいるもので、そうした非正規のまま働きたい人の声を、あたかも非正規社員の代表であるかのごとく扱いたがる人もいるのではないでしょうか。

 冒頭の引用も然りで、引用元の終盤には「アンケートに寄せられた派遣労働者の声からは、改正法に対する強い不満がうかがえる」と称して5つほど回答結果が紹介されているのですが、その内訳は(40代・女性)が4件と(50代・女性)が1件でした。確かに女性の方が非正規雇用の割合が高い現実もありますけれど、ピックアップされた「声」に偏りはないですかね?

 この引用元で「改正法に対する強い不満」を伝えられている(40代・女性)と(50代・女性)の内、いったい何人が主たる家計の担い手なのか、そこに私は興味があります。もし(40代・女性)と(50代・女性)がいずれも既婚者で夫に安定した収入があるなら、その声は無視してもいい、少なくとも優先して対処すべきものではないでしょう。

 自身の収入で家計を担う非正規労働者の失職と、夫の収入で暮らす主婦のパート雇用が打ち切りになった場合、その深刻さの度合いは全くの別次元です。率直に言えば後者の雇用が不安定になったとしても、前者の雇用が多少なりとも安定するなら、それは望ましい法改正であると判断できます。

 実際のところ、現行制度は底の穴を塞がないまま水を注いでいるに過ぎません。ここは早急に規制を設ける必要があるでしょう。ただ法改正の意図したところまでをも否定しようとする言説には、疑ってかかる必要があると思います。あたかも労働者の味方を装うようでいて、その実は雇用主の自由のために印象操作を繰り返している人も少なくありませんから。

 

・・・・・

 

直接雇用できない理由として、ある相談者は会社から「予算がないから」と言われたそうだ。小野弁護士は「企業が派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまうためだ」と話した。

 

 なお本筋から少し外れますが、引用元には上記のようなことも書かれていました。派遣社員を派遣社員として雇うには、派遣社員の給与の5割増しぐらいの金額を派遣会社に支払い続けなければならないわけです。派遣会社にマージンを取られるのを漫然と受け入れてきた雇用主が、「派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまう」ことを厭うのも、まぁ詭弁としか言えませんね。

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手帳はなくても

2018-09-02 23:10:11 | 雇用・経済

職場での障害者虐待が過去最多(共同通信)

 職場で雇用主や上司から虐待された障害者が、2017年度は597事業所で1308人に上ったことが22日、厚生労働省のまとめで分かった。人数は16年度に比べ34.6%増加。年度を通じて調査を始めた13年度以降、人数、事業所数ともに最多となった。

 通報件数も増えており、1483事業所、2454人といずれも過去最高。厚労省は「心理的虐待に当たるいじめや嫌がらせは一般の労働者でも相談が増えており、社会全体の問題意識が高まっているのではないか」としている。

 虐待の種類別(一部重複)では、最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待が1162人で最も多かった。

 

 2週間ばかり前に、こんな報道がありました。「職場での障害者虐待が過去最多」とのことで、この辺は氷山の一角と言いますか実数はもっと多いであろうと思われますが、まぁ社会の問題意識の高まりもあって表に出てくる数値が増えたと見るのは妥当なところでしょう。

 なお厚労省の匿名の誰かによれば「心理的虐待に当たるいじめや嫌がらせは一般の労働者でも相談が増えており~」だそうですが、虐待の種類別では、最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待が1162人で最も多かったことも伝えられています。そういうのも――法律違反ではなく――虐待と呼ばれるんですね。

 

障害者雇用3460人水増し 27機関で不適切算入(朝日新聞)

 障害者の雇用数を中央省庁が水増ししていた問題で、政府は28日、国の33行政機関を対象とした昨年6月1日時点の再調査結果を公表した。27機関で計3460人の障害者数の不適切な算入があり、平均雇用率は従来調査から1・19%に半減した。27機関で当時の法定雇用率2・3%に届いていなかった。障害者雇用の旗振り役となる国の約8割の機関で、水増しが広がっていた深刻な事態となった。

(中略)

 再調査の結果、最も水増しが多かったのは、国税庁で1022・5人。雇用率は2・47%から0・67%に下がった。国土交通省の603・5人、法務省の539・5人が続いた。雇用率はそれぞれ2・38%から0・70%、2・44%から0・80%になった。制度を所管する厚労省でも不適切な算入があったが、法定雇用率は達成していた。

 

 さて、冒頭の障害者虐待を伝える記事が出てから数日後、今度は官公庁における障害者雇用の水増しが報じられるようになりました。中央省庁の他、地方自治体でも類似の事例があるそうですが、国税庁などでは障害者雇用率を2・47%としていたものが0・67%へと下方修正されるなど、華々しい粉飾ぶりが伝えられています。

 背景としては民間企業と省庁の制度の違いがあり、民間企業では障害者手帳のコピーを外部団体に提出しなければならない一方、省庁の場合は厚労省への報告だけで良かったのだそうです。この独立行政法人へ障害者手帳のコピーを提出する制度、ともすると天下り先のための仕事作りに見えないでもありませんが、一応はチェック機能になっていたようですね。

 さて雇用主であるところの各省庁は厚労省に報告するだけで済むことから、そこで働く人が障害者手帳を持っているかどうかまでは、敢えて確認していなかったわけです。この辺は褒められたことでは当然ありませんが、しかしこの水増しを構成している「障害者枠で雇用されているけれど、手帳は持っていない人」とは、いったいどんな人たちなのか、ちょっと気になります。

 まぁ就労先が官公庁であれば心理的虐待はあろうとも経済的虐待まではなかろうと、そう期待して就職を望んだ人は多そうです。民間企業は手帳の有無を厳しくチェックする反面、「最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待」などの問題が大いに懸念されます。民間企業も官庁も、守っている法律もあれば守っていない法律だってあるでしょうから。

 結局のところ手帳を持っていなくとも就労に苦労したり、諸々に支障を来している人は珍しくないです。健常者として世間に認められているけれども、法律で認められた障害者よりずっと無能で有害な人だっています。自分の勤務先にしても、手帳を持った人よりもずっと気配りを必要とする人々に就労機会を提供しているわけで、もう法定雇用率を満たしているかどうかなんて気にしていられません。

 まぁ、障害者枠として線引きをするなら、その線引きに客観性を持たせるためには「手帳を持っているかどうか」が最大公約数的なものにならざるを得ないのでしょう。それぞれの雇用主が独自に基準を設けることを許してしまえば、結局は都合良く改変されるのを許すだけです。ただ現行の手帳交付の基準、手帳の有無による雇用の区分には、いくらか釈然としないものもあります。

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ここでも韓国の後塵を

2018-07-22 23:33:39 | 雇用・経済

韓国の最低賃金835円に 10年で2倍、日本に迫る(朝日新聞)

 韓国の最低賃金委員会は14日、来年の最低賃金を10・9%増の時給8350ウォン(約835円)に引き上げると決めた。「所得主導」の経済成長を掲げる文在寅(ムンジェイン)大統領の政策があり、日本の最低賃金(全国加重平均)の時給848円に迫る。ただ、コンビニなどの自営業者は「人件費が増えて商売にならない」と撤回を求めている。

 委員会は雇用労働省の所属機関で、雇用労働相が公示すれば来年1月から適用される。労働組合が有力支持基盤の文氏は2020年に最低賃金を時給1万ウォン(約1千円)にすると公約しており、前年の引き上げ幅は16・4%だった。韓国の10年の最低賃金は4110ウォン(約410円)で約10年で2倍となる計算だ。

 今月になって韓国銀行が今年の経済成長率の見通しを3・0%から2・9%に下方修正するなど、経済は停滞気味。経営者側は最低賃金の引き上げの凍結を主張しており、2年連続の2桁台の上昇に猛反発している。コンビニ店主などが加盟する小商工人連合会は、決定を受け入れないとする声明を発表した。(ソウル=武田肇)

 

 先週は「中国の方が(日本より)待遇の水準が良い」と語る中国人の声を取り上げましたが、韓国では最低賃金の抜本的な引き上げが続いており、2020年までには日本を抜き去るであろうと考えられます。最低賃金の大幅な引き上げは故・民主党が政権獲得前に唱えていたことであるものの政権奪取後は完全に沈黙、安倍内閣に変わって僅かに賃上げペースが改善されたながら、日本経済よろしく諸外国の伸びからは取り残される状況が続いているわけです。「韓国の方が(日本より)待遇の水準が良い」もまた現実となるでしょうね。

 同じく労組を支持基盤としながら、日本の故・民主党政権と隣国の文在寅政権、どうして差が付いたのか興味深いところです。ともあれ文在寅大統領は「所得主導」の経済成長を掲げていることが伝えられていますけれど、そもそも日本こそ経済が伸び悩む要因として消費の低迷が挙げられて久しいわけで、可処分所得の増加がより効果的であるのは、韓国以上に日本ではないかと思わないでもありません。国内労働者の可処分所得が増えれば国内消費が増えて当然ながら経済成長を促すものですが、どうも日本国政府には経済成長への意思が――向こう20年ばかり垣間見えませんね。

 国内労働者の賃金は国内消費者の購買力に直結しますから、賃金の抑制はすなわち内需の抑制に他ならないわけです。賃金を抑制してしまえば、経済成長を牽引し得るのは外需ばかりとなってしまいます。資本の蓄積の段階にある発展途上国であれば、外需に重点を置くのは完全に間違いとは言い切れないとしても、先進国がそれをやってしまうとどうなるかを示しているのが、21世紀日本の経済的地位の低下であることは論じるまでもないでしょう。日本経済のネックである消費の低迷を解消するため、やるべきことが何であるかは自明のことです。

 アメリカのような訴訟リスクもなければヨーロッパのような組合の抵抗もない、公的機関も労働関係の違反取り締まりには及び腰と、日本には人員整理が容易となる条件が揃っています。そこに「改革」の名で規制緩和が進められた結果として日本国内の労働者の所得は激減、必然的に消費も低迷して内需は弱含んでいったわけです。結果として作られた氷河期世代は経済基盤の脆弱さから非婚率が急増、少子化を大いに加速させ日本国の将来に地雷を敷設することにもなりました。「改革」によって人を安く雇えるようになった、リストラで人件費が減った、その結果として生き延びた企業は多かったとしても、日本社会の寿命はどうなったのやら。

 韓国でも「人件費が増えて商売にならない」と語る人はいるようですが、しかし「人件費の低さに依存して延命している事業者」に最大限の配慮を続けてきた日本が歩んできた道を思えば、どの声に耳を傾け何を無視すべきかは明らかです。正社員をリストラして非正規に置き換えることでしか利益を上げられないような企業を延命させてきたことが、我が国を栄えさせる結果に繋がったでしょうか? 人件費上昇に対応できない企業を淘汰することこそ真の改革であり、それは日本で行われてきた「改革」とは正反対のものです。

 人件費の上昇が続く国では、それに対応できる優れた事業者しか存続を許されません。企業は生き残りを賭けて効率化とイノベーションを模索することになります。しかし人件費抑制が容易な日本では――人を安く長く働かせることで利益を確保するブラック企業が我が世の春を謳歌してきました。生産性を引き上げることが出来なくても人件費を引き下げることが簡単にできる以上、無能な事業者でも日本という地上の楽園では存続できてしまったわけです。

 その昔、我らが日本のNECこそが名実共に「世界一の半導体企業」でした。時は流れて王座はインテルに譲り渡され、そして韓国のサムスン電子へと移り変わったものですが、今やNECは定期的なリストラ発表くらいでしか存在感を示すことが出来ていません。人件費抑制をソリューションとしてきた日本を尻目に、「所得主導」の経済成長を文在寅政権が貫く限り、両国の経済的地位は逆転するどころか瞬く間に差が付いていくことでしょう。もはや日本は、渡来人を招聘して大陸から進んだ資本主義の考え方を学ばなければいけない段階に来ていますから。

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