Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「統計学」の授業で笑う学生たち

2008-07-12 18:13:19 | Weblog

昨日,統計学の授業では統計的検定の理論について説明をする。話が「佳境」に入った頃,急に何人かの学生たちが立ち上がって退席していく。ああ・・・このへんが我慢(理解)の限度ということなのか,と思う。そして見回すと,何人かの学生がにやにや笑っている。は? ぼくのズボンのチャックでも開いているのか,と一瞬思ったが,時計を見て気づく:

すでに所定の講義時間を過ぎて,次の休み時間さえ,ほとんど終わろうとしている!

あわてて授業を打ち切って,そそくさと教室をあとにした。来週で講義は終了,翌々週には試験を行う。したがって,来週はその「傾向と対策」の講義も必要だろう。

この授業でテキストとしたのは,南風原朝和『心理統計学の基礎』(有斐閣)。隅々まで緻密に考え抜かれた,教える立場にとっても非常に勉強になる本だ。微積分や線形代数が出てこないので,文系の学生でも頑張って自学自習することができるはず。

心理統計学の基礎―統合的理解のために (有斐閣アルマ)
南風原 朝和
有斐閣

このアイテムの詳細を見る

だが,現実は期待通りいくものではない。微積や行列以前の問題として,シグマの計算にすら拒否感を覚える学生がいる。そもそも統計学独自の論理にすぐになじめる者は稀有ではなかろうか(実際,ぼくがそうだった)。統計学の1コースでそれを習得することは無理で,自習も含め,何期かにステージを分けて学習を繰り返していくしかないと思われる。

受講者には,自転車の運転や水泳でも,最初はできそうにないと感じたが,いったん壁を超えると,何も考えなくてもできるようになる,それと同じだと励ました。しかしそれは裏返せば,何とか壁を超えた人間がそれ以前の苦労を想起することが難しいことも,示唆している。

もう一つ,心理統計学は確かに消費者行動研究などと親近性があるが,商学・経営学全般の学生が学ぶべき統計学の知識としてみると,若干齟齬がある。その点では,ビジネスの事例が豊富な『ビジネス統計学』あたりが使えそうだが,学部学生には分厚すぎ,高すぎる。

ビジネス統計学【上】
アミール・アクゼル,ソウンデルパンディアン・ジャヤベル
ダイヤモンド社

このアイテムの詳細を見る
ビジネス統計学【下】
アミール・アクゼル,ソウンデルパンディアン・ジャヤベル
ダイヤモンド社

このアイテムの詳細を見る

最終的には,自分で教科書を書くぐらいの意気込みで,カリキュラムを再構築する必要があるかもしれない。それは,統計学について最低限何を学ぶべきかについての,はっきりしたビジョンを示すということだ。そこまで統計学について考えることができるだろうか・・・。

来学期は,南風原先生のテキストを使いながらも,今学期以上に工夫した講義プランを考えなくてはならない。