Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

嗅覚は鍛えられるのか

2007-10-07 11:31:25 | Weblog

今朝の日経に,九州大学・都甲潔教授が開発した味覚センサーが詳しく紹介されている。このセンサーは何10万種類とある味物質を直接測るのでなく,舌の味細胞が感じる甘み,うまみ,コク,苦味,塩味という味覚の基本要素レベルでの電位変化を測る。ビールの味を分析すると,各社の製品がきれいに棲み分けていることが示されたという。

この技術を実用化したベンチャー企業では,後味の分析も行っている。計測後のセンサーを味物質が入っていない溶液につけ,反応がなくなるまでの時間を計る。これが人が感じる後味に対応する。そこから,キレが分析できるという(*)。この方法を紅茶の渋みに適用すると,紅茶のグレードはそのキレのよさで説明できるらしい。

*記事にそれ以上書かれていないが,後味が早く消えるほどキレがよいと感じる,ということだろうか?

これをワインに適用すると,グレードの違いが,こうした味覚の要素やキレによって説明されるだろうか? ワイン通の薦めるワインの特徴がわかるだろうか? そして,食事との相性がモデル化されれば,「ソムリエ」ロボットを開発できるかもしれない。だが・・・残念ながら,それは当面,難しそうである。

いうまでもなく,人間が感じるおいしさには,匂い,見た目,触感(そして知識)が総合的に関与する。特にワインについては匂いがきわめて重要だが,匂いセンサーの開発は容易ではないようだ。なぜなら,匂いの濃度が味物質の1/1000であること,また匂いは味と違い,一つひとつの物質を特定する必要があるからだという。

偶然ではあるが,昨夜久しぶりにDVDを借りて,映画「パフューム」を見た。人並みはずれた嗅覚を持って生まれた男の悲劇というか,奇跡の物語というか。嗅覚は人間の進化の歴史において,最も原初的な感覚である。意識され,言語化されにくい反面,感情には強く影響する。この映画のクライマックスでそれが描かれる。

自分の日常生活を振り返ると,匂いへの感性がほとんど欠落しているように感じる。もしかすると,それが本来もっと豊かであるべき感情を,萎縮させているのでは・・・。「脳力トレーニング」があるように,「鼻力トレーニング」があってもいい。だが,嗅覚は鍛えられるのか? 自分ではとりあえず,ワインの匂いを嗅ぐぐらいしか,思いつかないが。


論理と修辞,組織の力

2007-10-04 23:25:30 | Weblog
数理の大家の先生が「お祝い」に昼食をご馳走してくださるという。もう一人お祝いされる(数理の)先生とともに,くねくねと曲がる田舎道を車で飛ばして,地元の人しか知らない隠れ家のような蕎麦屋に行く。大きな窓から,広い田畑が見渡せる。ほんとならセイロを2枚ぐらい食べたいところだが,奢っていただく身なので遠慮する(とはいうものの,かき揚天ざるという,3人のなかで最も高額な注文をする)。

英語で論文を書く話になった。数学の論文は厳密な論理の展開だから,基本的には IF THEN だけで書けるという。ただし,新たな問題を提起するとき,それなりの修辞法が必要になり,一定水準以上の語彙や表現力が要求されるという。数学では,論理と修辞はたまに協力し合いつつ,基本的は独立し併存している。他方,社会科学の分野では,そうした明確な線引きはなく,論理と修辞が「溶け合っている」。

午後は約4時間,9チームの学生たちのプレゼンを聞く。お題はコンビニ業界の戦略環境分析。主に文献やネット上の情報から自社と競合,顧客など,さまざまなステイクホルダーの情報を集め,最後はSWOTまで持っていく。各チームが,まるでお互いダブらないよう申し合わせたかのように,それぞれ独自の視点を打ち出してくる。異質性を内部に抱えることが組織のパワーになることを実感する。

バカ!と罵倒する心理

2007-10-04 08:15:15 | Weblog
安倍/福田内閣の「目玉」とされる舛添厚生労働大臣が,自らの発言に抗議した市長らを罵倒している。「小人の戯れ言」あるいは「バカ市長」など,なかなか刺激的な表現だ。テレビに映る舛添大臣の目は,これほどの快楽はないというぐらい嬉しそうに輝いていた。

事の発端は,社会保険料の徴収で少なからぬ自治体職員が不正を働いたため,業務を銀行に移管させるという大臣の発言にある。こうした問題が起きていない自治体の首長が,職員のモラルを下げる発言だと噛みついた。それに対して大臣は,そんなことをいっている暇があったら,自分の自治体をちゃんとしろと言い返し,上述の発言に至ったわけである。

職員が不正を起こした市町村もあれば,そうでない市町村もあるのは事実である。しかし,舛添大臣から見れば,この問題は自治体組織の管理能力の欠如として一般化され,個々の市町村レベルの差異など,瑣末な問題に過ぎない。国務大臣たる私はかくも高所から問題を考えているのに,細かな問題を言い立てるなど「小人の戯れ言」にすぎない・・・と。

研究には一般化,抽象化は欠かせない。政治や経営でもある程度そうだろうが,その許容範囲はかなり違うはずだ。複雑なものを相当程度複雑なまま扱うことが要求される。その意味で,優れた学者が優れた政治家,経営者になるとは限らない。リーダーには鳥瞰と虫瞰の両方ができると周囲に感じさせる立ち振る舞いが必要だ。首相を目指しているという舛添氏にとって,意味のない攻撃性を露呈したことになった。

しかし,罵倒するときの舛添氏の喜びに満ちた目を見ていると,もっと深いレベルの何かを感じる。それは,外見上美人と見られる女性が,他の誰かを「ブス!」と罵ったときに周囲が感じる感情に近い。華麗なる経歴から,舛添氏の「頭がいい」ことは誰もが認めるだろう。黙っていればわかることを,他者をなじることでなぜ強調したいのか(逆効果になるリスクを冒してまで・・・)。表面からはわからない,何か不安があるのだろうか・・・。

工学とは,どういうことか

2007-10-03 21:15:54 | Weblog
・データ入力ミスがある場合に判別手法の精度を向上させる方法
・サイトに来る顧客をより望ましいクラスに移行させる方法
・サイトに一度しか来ない顧客の望ましさを一発で見抜く方法
・映画の掲示板への書き込み内容から興業成績を予測する方法
・目標とする人に手紙を届けるのに,普通の人々が使う方法
・購買履歴から,その人が浮気性かどうかを見いだす方法

というのが今日聞いた,修論中間発表の内容だ(かなり我流にアレンジしたが・・・)。何か役に立ちそうな,あるいは,ともかく何かできそうな「方法」をきちっと作って動かしてみる。それが工学だとしたら,みんなそこそこ頑張っていた。だが,それだけじゃ審査にならないので,それぞれに対して,ちょっと欲張りな(しかし不可能じゃないし,やればできそうな)コメントを書いて送る。そうこうしているうちに一日が終わってしまった。

「・・・と考えました」だけでは工学にならない。「作ってみました」じゃないとダメ。だが,経営工学や社会工学の対象は漠然としていて,目に見えないし,捉えどころがない。ロボットのように「ほら,前へ進んでいるでしょ」と,わかりやすくデモできないのが問題だ。だから,「考えました」の段階が実は重要になる。これは,「それで何ができるの?」という一見身も蓋もない問いと,表裏の関係にある。

青木昌彦氏の「履歴書」

2007-10-02 11:19:08 | Weblog

日経「私の履歴書」で,昨日から青木昌彦氏の連載が始まった。京都大学,スタンフォード大学で教え,ノーベル経済学賞に最も近い日本人の一人といわれている青木氏。連載の初回では,来年から世界経済学会連合の会長に就任すると書かれたあとで,「前任者にはサミュエルソン,アロー,センら著名な経済学者がいるが・・・」と付け加えられている。ここに挙がった名前は,みんなノーベル賞受賞者である。

連載2回目の今日は,1960年,羽田闘争で逮捕された頃のエピソードが紹介されている。東京大学の学生であったため,牢名主にも看守にも一目置かれたという。「古きよき」時代であったわけだ。これからの連載で何が語られるか・・・日本の経済学者のなかで「際立つ」人だけに,今後が楽しみである。

ところで青木氏には,「啓蒙」精神とでもいうべきものがあり,専門的論文だけでなく,一般向けの文章を多く書かれている。それは,20歳そこそこでブントの創立メンバーに名を連ねたときに,すでに発揮されていた資質だといえる。青木氏ほど華々しい研究成果を収められないとしても,現実に向き合い,一般向けに明晰な論考を発表していく精神は真似したいと思う。

・・・「まー」それはともかく,今日は久しぶりにゼミを開き,「論文の書き方」なる講義をしたあと,M2,B4それぞれの論文の打ち合わせをした。1つは某掲示板から集めたテキストの分析,もう1つはアフィリエイト広告のエージェント・シミュレーションを行なう。 あと3ヶ月前後。

昨日,向こう数ヶ月に直面するであろう「研究」計画についてごちゃごちゃ書いた。しかし,そんなことは何とかなるもんだし,何とかならなくても何とかなるわけで,それよりむしろ,もっと長いスパンで研究計画を考える必要がある。長く一緒に併走してくれる,信頼できる研究パートナーを見つけることも重要だ(もちろん,孤独に耐える強さが,別に必要であることは確かだ・・・)。

本日届いた本: 

バーンスタイン『芸術の売り方』英治出版 ・・・コトラー先生推薦の芸術マーケティングの本。いつか Caves, Creative Industries と読み比べたい・・・。

長沢伸也『ルイ・ヴィトンの法則』東洋経済新報社 ・・・もりだくさんの「法則」が列挙されている。書評でもよく取り上げられているという印象。この研究グループの出版活動は活発だ。

『技術とイノベーションの戦略的マネジメント 上・下』翔泳社 ・・・この分野の網羅的な教科書。豪華な執筆陣による権威ある「事典」であり,うやうやしく書棚に直行・・・では,もったいない感がある。


10月1日

2007-10-01 22:39:37 | Weblog

今日の午後は「通知」をもらったり,「自己点検」なるものを書いたりして時間を費やす。ともかく今年の後半戦に入った。これから何をすべきか・・・といっても特別なことはない。とりあえず緊急を要するのが・・・

クルマ調査 ・・・調査票改訂の長い旅が続く。海の向こうで一件だけ調査成立。ところで,最近「愛車」の寿命が見えてきたので,ウェブ等で各種情報を漁っている。趣味と実益をかねた研究とすればいいようなものの,ぼく自身の実際の購買は,詳細なスペックを無視した,かなりいい加減な意思決定になるだろう。

サービス(都銀)調査 ・・・予算が本決まりになるまで数週間。それに備え,戸谷さんの『リテール金融マーケティング』(東洋経済)本を読み始めた。お世辞抜きに,この領域(金融のみならずサービス全般)に関心がある人にとって非常に役に立つ本だと思う。ただ,今頃読んでいるのがバレると,叱られそうだ・・・。

そのあとに控えるのが,

WOMシミュレーション ・・・休火山だがそろそろ再噴火させないと・・・。

映画データ解析 ・・・こちらはそのあとにターゲットを置いている・・・でも,あっという間にその時はくるだろうな・・・。

ECデータ解析 ・・・あぁ,そこまで時間が・・・だが,やらねばならぬ,やります,いや,やりたいです。

他にもいろいろあるが,とりあえず,こんなところで(夏前の計画とえらく違っている・・・)。