Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

統計手法はどこまで必要なのか

2007-10-12 23:19:30 | Weblog
今日の実習では,各チームが質問紙調査の分析結果を競い合った。仮説を立てて分割表へのカイ2乗検定など基礎的な検定を行うグループ,いろいろな図表を作って直観的な解釈を積み重ねていくグループ,ロジスティック回帰など多くの手法を動員しすぎて迷路に迷い込んでしまったグループ・・・やはりいろんなアプローチが現れて面白い(だが9チームの発表を順に聞くのは正直いってキツイ)。

最後に教員から決定木を使った「荒っぽい」分析を紹介する。多数の変数があるとき,当りをつけるのに便利な手法ではあるが,多くの有用な情報が無視される可能性があることを述べる(ああでもない,こうでもない・・・)。学生たちは今後経営工学を学ぶなかで,より「高度」な分析手法を習得していく(はず)。だがそれによって,どんな価値ある情報が得られるようになるだろうか・・・。

今冬のJIMSでは,CRMをテーマとしたセッションが企画されている。予定される演題を見ると,CRMというよりは,単に消費者パネルデータの分析というテーマにしたほうがいいような印象を受ける。分析手法の「高度化」は,実務家にどんな福音をもたらすのだろうか。一流学術誌でさえ,掲載された手法のほとんどが実用化されることなく終わる(いわんや・・・)。99%が捨てられても,1%が使いものになれば御の字かもしれない。その1%のために,99%が必要かどうかが問題だ。

いずれにしろ,優れた1%のおかげで統計手法やデータ解析手法は進歩し,統計パッケージに反映され,実務家の利用に供せられる。この秋,SPSSはバージョンアップする。新たにニューラルネットが可能になるが,この手法を使ったことがなく,使う予定もないぼくには関係ない。一方,多重共線性があっても平気な Partial Least Square 回帰というのは,ちょっと気になる。回帰分析の悩みが一つ減るのだとしたら魅力的だ。

どこまで,いつまで新たな手法を追いかけていけばいいのだろうか? 平均的なマーケティングの実務家にとっては,基本的な検定手続きいくつかと回帰分析,主成分分析あたりで十分ではないかと思うことがある。それじゃあ40年前の多変量解析であり,あまりに古すぎるというなら,もう少し付け加えてもいいかもしれない。何を加えるべきかは,立場によって異なる。幸い,実務家を対象に統計学やデータ解析を教えるわけではないので,結論を急ぐ必要はない。

研究のためには,オリジナルの分析手法が必要となる場合がある。たとえば非補償型の選択ルールは,既存の統計手法では扱いにくい。そこで,二度と使われない99%の側の手法が1つ増えるが,しかたない。とりあえず,自分の研究用に必要なのだ。一般へ普及したいなら,回帰のような普及した手法で近似的に解を出す方法などを考えるべきだが,それは次のステップだ。それが学術的に評価されるかどうかはわからない。