Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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医療のデジタル化の4段階

2022年09月03日 | 医学と医療
8月28日の記事に,「日本の医療はデジタル化が遅れ,国際共同研究に参加することが困難になっている」と書いたところ,驚かれた方々が少なからずおられたようでした.Brain Nerve誌において「脳神経内科領域における医学教育の展望─ Post/withコロナ時代を見据えて」という連載を行っていますが,第10回「DX時代の病院と臨床教育の実践」に,黄世捷先生,伊佐早健司先生が「医療のデジタル化の4段階」について詳しく解説してくださっています.

1.Analog(アナログ)
2.Digitization(情報のデジタル化)
3.Digitalization(プロセスのデジタル化)
4.Digital Transformation(DX)(デジタルによる新たな価値の創造)


日本は2段階目です.私が脳卒中の創薬(tPA+抗VEGF抗体)で共同研究を行った米国クリーブランドクリニックは,2012年の段階ですでに4段階目のDXを達成していました.見学をした際,地域の医療機関内で自由にカルテの閲覧が可能で非常に驚きました.以下,4段階の説明です.

1)Analog アナログ
紙カルテに手書き,検査は伝票によってオーダー.印刷された採血結果を台紙にのり付けし(懐かしい!),検査値は手書きでカルテに転記する.

2)Digitization 情報のデジタル化(脱アナログ)
一般的な電子カルテ.診療記事やオーダーはパソコン入力になり,検査結果は画面表示.コピペが可能.しかし問診票やお薬手帳,紹介状は紙であるため,カルテへの転記,打ち直し,スキャン,郵送が必要.

3)Digitalization プロセスのデジタル化
問診票はタブレットにより記入され,お薬手帳,紹介状はOCRによりカルテ取り込み.処方箋や紹介状は電子的に送受信され,印刷,郵送,ファックスが不要.業務プロセスが簡略化・省略される.

4)Digital Transformation デジタルによる新たな価値の創造
地域の医療情報が一元化され,複数の医療機関間で閲覧可能.情報共有により紹介状は院内コンサルトのような簡略的なものとなる.地域の疫学や医療実態を把握可能,ワクチン情報なども取り込まれるのでコロナ研究は容易.重複処方や過剰検査のチェックもできて医療費を節約できる.治験適応症例の一斉スクリーニングも可能.

現在の2段階目がもし4段階目に変われば,病院での待ち時間などの負担は相当減りますし,医療のレベルが様々な面で飛躍的に向上します.日本で実現できない原因を詳しく調べたわけではないですが,マイナンバーカードと医療情報の紐づけができなかったことや,開業医における電子カルテの導入を支援できていないこと(導入率はOECD加盟国38カ国で35番目)が影響していることは想像に難くないかと思います.

将来のために本当に大切なことを議論すべきではないかと思います.写真はクリーブランドクリニック訪問時のものですが,壁に書かれた言葉「We are considering not only our duty to the patient of today, but no less our duty to the patient of tomorrow(私たちは,今日の患者さんに対する義務だけでなく,明日の患者さんに対する義務も考えています)」が印象深く記憶に残っています.

最後に連載「脳神経内科領域における医学教育の展望──Post/withコロナ時代を見据えて」は計16回シリーズの12回までpublishされました.大変勉強になります.ぜひご覧いただければと思います.


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